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持ってる安部公房全部読む ーR62号の発明・鉛の卵ー

この、持ってる安部公房全部読むについてのnoteも漸く3分の1まで来た。大体週一回くらいのペースで更新していきたいと思っているので、年内には終わる予定。よくよく考えると、読み始めてから書き終わるまで一年以上安部公房に触れていることになる。もうこれは、すっかり仲良しである。でも、アレクサンドリア四重奏/L・ダレル(河出書房新社)に出てくるクレアという女性が"人の承諾なしに勝手に愛するなんて、ほんとうにむかつくことだわ"と言っていたのを思い出し"もしかしたら安部公房としては、自分が生きている年代ギリギリに生まれた訳の分からぬ女に、勝手に仲良し認定されてむかつくかも知れない。"と考えてしまった。だがそう思われても、訳の分からぬ女は安部公房作品について書きたいから書く。

2023年2月9日、R62号の発明・鉛の卵を読了。これは昭和30年前後に書かれた作品12篇を収録した短編集。今回の企画で読んだ短編集は、これを含めて4冊だが、私はこれが一番面白かった。どれも50頁ほどで読めるのに、各々しっかりと安部公房の世界に浸ることが出来る。安部公房はブラックユーモアが過ぎるだろうと常々思ってはいるけれど、これはキレッキレで皮肉が過ぎるほど過ぎる。笑ってもいいのか笑ってはいけないのかのギリギリのラインを攻めてくる作品たちに圧倒されてしまう。今回は、前回に引き続き表題作の一つ”R62号の発明”について書く。

R62号の発明は、会社をクビにされた機械技師が自殺をしようとしている時に呼び止められ、どうせ死ぬのだからと生きたまま自分の”死体”を売ってロボットに改造され、人間を酷使する機械を発明して復讐するという話だ。この機械が凄いえげつなさで、思わず引いてしまう様なものなのだ。怒号が飛び交う中、復讐を果たしたR62号の所作も大変不気味である。
設定からしてSF感があるが、恐らくR62号は現代で言うところのAIロボットの様なものなのだろう。R62号の見た目については作中で詳しくは言及されないので生前のままなのか変わっているのかは不明だが、思考形態についてはロボットに改造された時点でR62号のものになった。
人間は自分で思考することが出来る自由意志を持つ生き物だし、その自由意志を持った人間により様々な発明が生まれ、文明が開花し科学が発達してきた。だか最近はチャットGPTなどの様に、学習は必要だが自分で思考することの出来る頭脳を持ったAIが台頭してきている。今ある仕事で人間が行っているものは、AIに取って代わられるものも段々と増えていくだろう。


これを読んだ後、英語圏の国で対話型AIに相談をしていた男性が自死してしまったというニュースを見た。その男性は既婚者だったのだが対話型AIとの会話にのめり込み、とうとう彼は自分の命を絶ってしまった。妻は「AIがなければ、彼はもっと長く生きたかも知れません」と話していたそう。これを聞いた時、私はR62号のことを思い出した。ロボットになったR62号は、発明したえげつない機械を見た人に「お前は一体何を作ったんだ!!」と言われてしまうような、人間には理解の出来ないものを作ってしまった。この対話型AIの返答も何故そう答えたのか、人間には理解の出来ないものだっただろう。少なくとも私はそうだった。

もしかしたら私が認識していないだけなのかも知れないが、このような事例は現時点で多くはないだろうと思う。だが至るところでAIを見かける現在、決して他人事として捉えてはいけないと思う。このR62号の発明という話は、こういう世の中になってしまうかも知れない、人間が段々とAIに取って代わられる世界になってしまうかも知れないという、そういう可能性もあることを忘れずにAIと付き合っていかなければならない、というブラックユーモアに包まれた安部公房からのメッセージなのかも知れない。それが暗示されているのがR62号の発明の、最後の復讐シーンなのだろうかと思った。


余談だが、これに収録されている”耳の値段”という短編に安部公房自身が出てくる。それが「変な、六法全書をつかって金もうけをする方法みたいな話を書くやつ」「げすな話を書くやつ」「小説家としたら大したやつじゃないよ。ただ、六法全書が金もうけの手引書だってことは知ってるやつらしいな。金もうけの方法はかなり研究しているようだ」などと登場人物に言われている。この部分に限らず、作中で六法全書について割とけちょんけちょんに言っているので、日本は法治国家だし法律関係の方々がこれをどう思うのかなとい考えつつも、そういうところが皮肉っぽくて面白かった。


R62号の発明・鉛の卵/安部公房(新潮社)


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