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〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉小林研一郎&木嶋真優プレヴュー【2020.4 145】

■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、小林研一郎&木嶋真優のプレビューです。

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intoxicate 145


小林研一郎a

小林研一郎© K . Miura

木嶋真優a

木嶋真優©TANKA .

チャイコフスキー生誕180年!“ 炎のコバケン” 生誕80年!ヴァイオリニスト木嶋真優とともに名曲で祝うメモリアル・ライヴ

text:伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

 あらゆるジャンルに名曲を残したチャイコフスキーが、2020年に生誕180年を迎える。これを記念し、“ 熱血コバケン” の愛称で親しまれている小林研一郎が東京都交響楽団を指揮し、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と交響曲第5番を演奏する。ヴァイオリン協奏曲のソリストは、2011年ケルン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で優勝の栄冠に輝いた木嶋真優である。


 木嶋真優は天才少女と称され、アシュケナージやロストロポーヴィチら偉大な音楽家に才能を認められ、各地のオーケストラとも共演を重ねてきた。このヴァイオリン協奏曲もさまざまな指揮者やオーケストラと共演。繊細で深々とした音色、作品の内奥にひたすら迫っていく奏法には定評があり、今回のコバケンとの共演では使用楽器のアントニオ・ストラディヴァリウス(1699年製Walner)を存分に鳴らし、聴き手を作品へと近づけてくれるに違いない。なお、彼女はテレビ出演も多く、『情熱大陸』『紅白歌合戦』などで天然キャラを発揮し、人気を集めている。


 一方、コバケンは1974年に第1回ブダペスト国際指揮者コンクールで優勝の栄冠に輝き、以来ハンガリー国立フィル、チェコ・フィル、日本フィルをはじめさまざまなオーケストラの要職を務め、現在も日本と欧米を行き来する超多忙な生活を送っている。


 「私は芸大の作曲科を卒業してから25歳で指揮科に入り直し、34歳まではもがきの時期を経験しています。世に出たくても手段がなかった。そうこうするうちにコンクールの年齢制限に引っかかるようになり、ブダペストのコンクールは唯一私が受けられるものだったのです。短期間の準備で臨んだコンクールでしたが、勝利の女神が微笑んでくれたため、いい結果を得ることができました」


 以来、国内外のオーケストラを指揮し、情熱的で一途に作品の神髄に迫っていく演奏を行い、“炎のコバケン”と呼ばれるようになる。


 「でも、私は作品に潜むペシミスティック(厭世的、悲観的)な面を冷静に見つめ、それを描き出す演奏を好んでいます。チャイコフスキーの作品もあらゆるところにペシミスティックな表現が隠されています。けっして明るく楽しい音楽ではない。もちろん、舞踏のリズムに根差したリズムやおだやかな主題もありますが、根底に潜んでいるのは苦悩、悲劇、悲哀、慟哭など。これこそがチャイコフスキー。私はそれを表現したいのです」


 チャイコフスキーの交響曲はロンドン・フィルと全曲録音も行っている自家薬籠中の作品だが、彼は常に初めて楽譜を見たときのような新鮮な気持ちを抱いて指揮台に立つ。


 「オーケストラは才能豊かな100人の集まりです。彼らの実力をすべて発揮してもらうためにはどうしたらいいか、それをいつも考えています。チャイコフスキーの交響曲第5番は、弦楽器、木管楽器、金管楽器がさまざまな手法で語り合うように書かれています。もちろん、チャイコフスキーが好んだワルツの楽章も含まれている。でも、その奥深いところにはペシミスティックな面が隠れている。それをオーケストラとともに表現します」


 コバケンの作り出す音楽は熱く強く心の奥に深く浸透してくるもの。そこには「ひとりでも多くの人にクラシックを好きになってほしい」という信念が息づいている。そのためには「新しいアプローチが命」と語る。これまで聴き慣れた作品にも新風を吹き込み、まったく新しい作品のように生まれ変わらせる。


 「私は毎日、朝から楽譜と対峙していますが、いつもほんの小さな発見に心が高揚する。“ああ、この作品は長年指揮しているのにまだこんな発見があった、作曲家にもっと近づかなくては” という思いを強くするわけです。音楽家は一生勉強。学びに終わりはありません。それを演奏で示し、聴衆と分かち合いたい」


 その音楽に対する真摯な思い、深き情熱をチャイコフスキーの演奏から受け取りたい。


■小林研一郎 (Kenichiro Kobayashi)プロフィール
東京藝術大学音楽学部作曲科および指揮科を卒業。第1回ブダペスト国際指揮者コンクール第1位、特別賞受賞。これまでに世界有数の音楽祭に出演するほか、国内外の数多くのオーケストラのポジションを歴任。文化を通じた長年にわたる国際交流や社会貢献によって、2011年に文化庁長官表彰、2013 年には旭日中綬章が授与された。現在、東京文化会館音楽監督、日本フィルハーモニー交響楽団桂冠名誉指揮者、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団等で活躍。

■木嶋真優 (Mayu Kishima)プロフィール
神戸生まれ。3歳でヴァイオリンを始め、2000年第8回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクール・ジュニア部門にて日本人として最年少で最高位を受賞、一躍話題となる。2016年第1回上海アイザック・スターン国際ヴァイオリン・コンクール優勝。巨匠ムスティラフ・ロストロポーヴィチに「世界で最も優れた若手ヴァイオリニスト」と認められ、ユーリ・バシュメット、小澤征爾など世界的に名だたる音楽家と競演を重ねる。


小林j

『チャイコフスキー:交響曲第5番、スラヴ行進曲』
小林研一郎(指揮)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
[Exton OVCL-00507]SACDハイブリッド〈高音質〉

木嶋j

『フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番、他』
木嶋真優 (vn)江口玲 (p)
[Exton OVCL-00485]


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