〈JAZZロングレビュー〉Seigen Tokuzawa & Masaki Hayashi『Drift』【2020.4 145】
■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間レヴュー JAZZ〉掲載記事。2020年3月4日に発売された、徳澤青弦(vc)・林正樹(p)デュオのファースト・アルバムをレビューした記事です。
intoxicate 145
クラシカルなデュオによる新しい調和の形をアップデートするエレガントなデビュー作(渡辺亨)
Drift
Seigen Tokuzawa & Masaki Hayashi
徳澤青弦(vc)林正樹(p)
[Flau FLAU85]
徳澤青弦と林正樹。このチェリストとピアニストによるデュオのファースト・アルバム『Drift』は、9年もの歳月をかけて作り上げられたという。それぞれが多方面、なおかつ多彩なプロジェクト活躍しているので、おそらく9年の間にじっくりアルバムの構想を練り上げ、少しずつ録りためてきたのだろう。この推測が当たっているかどうかはともかく、『Drift』は、時間の経過に左右されない強度を備えたアルバムだ。
全11曲の内訳は、徳澤と林がお互い4曲ずつ持ち寄ったオリジナル曲が8曲。それに76年生まれの徳澤と78年生まれの林の世代意識や音楽観が伝わってくるカヴァーが3曲加わる。ドラムンベースの開祖でもあるスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンの《Iambic 9 Poetry》、現代音楽の作曲家兼コントラバス奏者であるギャヴィン・ブライヤーズのチェロとピアノのための作品《The South Downs》、そしてロック史上に燦然と輝く名盤『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』(1967)に収録されている《Venus in Furs》。原曲の作者はルー・リードだが、現代音楽を学んだジョン・ケイルのヴィオラが大々的にフィーチャーされている曲だ。
『Drift』は、チェロとピアノだけによるインスト集である。ただし、生楽器同士だからといって、穏やかな口調による物静かな対話のような曲ばかりではない。たとえば表題曲 《Drift》では、チェロとピアノがそれぞれ力強く律動し、組んずほぐれつ肉感的な官能を生みだしている。また、スクエアプッシャーの『ウルトラヴィジター』(2014)から選ばれた名曲《Iambic 9 Poetry》は、原曲のヒップホップ〜ドラムンベース的ビートをすっかり排除しつつ、狂おしいまでの美しさがそのままチェロとピアノによる演奏に変換されている。アルバム全体を貫いているのは、躍動と静謐さ、そして緊張の中にこそ生まれる美だ。
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