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〈JAZZ お茶の間ヴューイング〉山口廣和プレヴュー:多様性を繊細に表現するグループのデビュー作(坂本信)【2020.6 146】

■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された山口廣和プレビュー記事です。

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intoxicate 146


山口廣和a

Photo ©︎ Yuri Manabe

多様性を繊細に表現するグループのデビュー作

text:坂本信

 ギタリスト山口廣和率いるVortex Boxが初めてのアルバム『Hirokazu Yamaguchi’s Vortex Box』を発表する。1981年に東京で生まれた山口は15 歳でギターを始め、高校時代にジョー・パスを聴いたのがきっかけでジャズに興味を持った。2011年に渡米し、共演したミュージシャンたちが持つトーンに刺激を受け、帰国後にチェロを習い、古楽器の運指も取り入れた独自のスタイルを追求しているという。


 山口のクラシック・ギターと12弦アコースティック・ギター、寺井雄一のテナーおよびソプラノサックスにバスクラリネット、落合康介のアップライトベースと馬頭琴、八尋知洋のパーカッションというグループの楽器構成からすると、どうしてもかつてラルフ・タウナーが活動したソルスティスやオレゴンを連想してしまう。実際、山口自身も20 代の頃に衝撃を受けたバンドとしてオレゴンを挙げている。とはいえ、このアルバムでは《Lute Song》のポリフォニックな声楽を思わせるハーモニーによるイントロや、11+12(あるいは6+5+6+6)の流れるようなリズムに乗せて、アメリカともヨーロッパとも違うウェットな郷愁を感じさせるメロディが印象的な《Have You Danced》、中央アジアの民族弦楽器を思わせる12弦ギターの幻想的なサウンドと落合の馬頭琴が、古の交易都市楼蘭の風景を浮かび上がらせる《Lop Nur》のように、このグループならではの感性も随所で発揮されている。「頭からでもお尻からでも、どちらから演奏しても同じようになるように作った」という《Reverse》は、自ら課した作曲技法的な問題を解きながら作ったような、ゲーム感覚の遊び心がうかがえる曲で、スティングを意識したという《Hand Me Down》は聴きながら単純にノリを楽しめるポップな作品となっている。《Lop Ear》や《Oregon Vortex》は、パーカッションを含めたすべての楽器の控え目なサウンドでありながら、ソロイストを中心にした白熱したインタープレイが堪能できる曲で、このバンドのポテンシャルが最もよく現れた、心揺さぶられる演奏になっている。


 全体を通して聴くと、山口はもちろん、バンドのそれぞれのメンバーの幅広い音楽に対する興味が様々な形でにじみ出た、飽きない作品に仕上がっている。シンセサイザーのプログラムの切り替えといったあからさまな変化でなく、アコースティック楽器の繊細かつ陰影に富んだ変化は、多種多様なスタイルを表現しながらも一貫性のあるバンドのサウンドを実現するのに、大きな役割を果たしている。それはまた、個々のメンバーの楽器奏者としてのポテンシャルの高さを示している。


山口廣和j

〈CD〉
『ヒロカズ・ヤマグチズ・ボルテックス・ボックス』

山口廣和(g)寺井雄一(sax, b-cl)落合 康介(b)ヤヒロトモヒロ(perc)
[SONGX 062]


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