〈INTERNATIONALロングレビュー〉ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma)『ノット・アワー・ファースト・ゴート・ロデオ』【2020.4 145】
■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間レヴュー INTERNATIONAL〉掲載記事。2020年7月22日に発売されたヨーヨー・マ属するゴート・ロデオの作品をレビューした記事です。
intoxicate 145
ヨーヨー・マと、アメリカーナ音楽界の超絶プレイヤーチーム再び! 混沌時代を乗り越える響き。(北中理咲)
ノット・アワー・ファースト・ゴート・ロデオ
Yo-Yo Ma(vc)Stuart Duncan(fiddle)Chris Thile(mandolin)
Edgar Meyer(b,p)
[ ソニー・ミュージックレーベルズ SICP-6318]
チーム〈ゴート・ロデオ(goat rodeo〉が9年ぶりに再結集した。メンバーは、ヨーヨー・マ(チェロ)、スチュワート・ダンカン(フィドル)、エドガー・メイヤー(ベース、ピアノ)、クリス・シーリー (マンドリン)。ゲストに、イーファ・オドノヴァン(ヴォーカル)。2011年以来2枚目のアルバムは、混沌の時代を乗り越えるための愛と友情と叡智溢れる濃厚セッションだ。録音は、前回同様、マサチューセッツ州にあるジェイムス・テイラーのスタジオで行われた。
“goat rodeo”の意味は、「山羊のロデオ」。ちょっとやそっとでは乗りこなせないとんでもない状況を言い表し、パイロットが悪天候で操縦する時も “goat rodeo”と表現するらしい。凄腕すぎるマエストロたちのゴート・ロデオは難易度が高く予測不可能でもあるが、通奏低音のように流れる紳士的で民主的な響きがある。メンバーに共通するのは「僕らはみんな移民の子孫」というファミリーヒストリー。かつてスコットランド、アイルランド、東欧などから新大陸にやってきた人々は、故郷の伝承音楽を育みながら新しい音楽を生んだ。アパラチア山脈の南部生まれのブルーグラスも然り。民の音楽は旅をする。
パリ生まれNY育ちの中国系アメリカ人ヨーヨー・マは、シルクロード・プロジェクトで絹の道に縁のある音楽家に声をかけ砂漠に音の花を咲かせた。
チーム・ゴート・ロデオ では、アメリカーナ音楽の巨匠たちと共に暗雲立ち込める星を蘇生させる騎士のごとく弦を弾く。ジャズもバッハも加味させて。
暗喩的タイトルの謎解きも愉しい。《Scarcely Cricket》には、古の羊飼いが生み出した原始ゲームを想起。《We were animals》は、脱プラグマティズム宣言の歌なのか。《Nebbia》はイタリア語の「霧」。現代音楽のような漂泊感とフェイドアウト感に祈りを捧げずにはいられない。《757ml》は、酒瓶サイズ由来なのか、チャイニーズ&ケルトの粋な酔狂音楽。《Waltz Whitman》は、作家Walter Whitmanへのオマージュなのだろうか。『草の葉』再読。ステイ・ホーム&心は家路に。秘められた深いメッセージを読み解く音の旅へ。
Photo:Josh Goleman
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