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〈CLASSICALロングレビュー〉田中カレン【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間レヴュー CLASSICAL〉掲載記事。作曲家・田中カレンさん&ピアニスト・仲道祐子さんによる2020年2月19日発売「田中カレン:こどものためのピアノ小品集「愛は風に乗って」」(録音:2019年9月11-12日、東京・稲城iプラザ )をレビューした記事です。

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intoxicate 144


「師・三善晃との思い出の日々をみずみずしく綴った曲集」(原典子)

田中カレンj

【J-CLASSICAL】
田中カレン:こどものためのピアノ小品集「愛は風に乗って」

仲道祐子(p)
[OCTAVIA RECORDS OVCT-00175]

 ピアノや合唱などを通して、子ども時代に日本人作曲家の作品に親しんできたという方も多いのではないだろうか。そこには硬く冷たいイメージの“現代音楽”とは違う、子どもたちの自由な感性による透き通った響きの世界が広がっている。国際的に活躍する作曲家、田中カレンの『愛は風にのって』も、そんな子どもたちのために書かれたピアノ小品集。2017年に楽譜が出版され、このたびアルバムがリリースされた。


 この曲集には、田中の師である三善晃との思い出が、春夏秋冬の季節ごとに、まるでエッセイのようなみずみずしい筆致で綴られている。1980年の冬、はじめて阿佐ヶ谷にある三善の自宅を訪れた日のこと、その家に置かれていた縄文土器やラム酒の樽、飼われていた猫、煙草の煙と師の眼差し……レッスンに通った日々の記憶を、田中はひとつひとつ丁寧に、鮮やかに描写していく。それを通して私たち聴き手は、三善晃という作曲家の人となりを身近に感じることができる。と同時に、昔ながらの師弟関係の中で受け継がれていく“作曲”という営みの素朴な魅力と根源的な意味についても考えさせられた。たとえば《雨蛙》という曲では、小さな蛙の美しい姿や鳴き声が描かれ、「作曲家はその美しさの論理に近づこうとしなくてはならない」という三善の教えが回想される。そこには五線譜と鉛筆、ピアノの鍵盤から紡ぎ出される音楽のぬくもりがある。


 季節ごとの空気の質感や色彩の移ろいをきめ細かなタッチで描く仲道祐子のピアノも見事だが、ライナーノーツではこの作品を演奏する子どもたちのために、田中自身による解説が掲載されている。「陰りを帯びたドリア旋法と、光が差し込むようなリディア旋法」といったように分かりやすい言葉で語られ、作曲上の理論と実際に鳴っている音の感触とが自然に結びつくようになっている。子どもたちの手によって、この作品に新しい色合いが加えられていくのもまた楽しみだ。

田中カレンa

©Octavia Records Inc.


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