〈CLASSICALロングレビュー〉チョ・ソンジン『さすらい人幻想曲』【2020.6 146】
■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間レヴュー CLASSICAL〉掲載記事。2020年5月29日に発売された、フランツ・ウェルザー=メスト(指揮)・クリーヴランド管弦楽団の『新たなる世紀』をレビューした記事です。
intoxicate 146
演奏のたびに大きな飛躍を遂げ、自然な奏法で豊かな響きを紡ぎ、聴き手をとりこにする(伊熊よし子/音楽ジャーナリスト)
【CLASSICAL】〈CD・LP〉
さすらい人幻想曲
チョ・ソンジン(p)
[Deutsche Grammophon/ ユニバーサル UCCG-40097]UHQCD x MQA-CD
[Deutsche Grammophon 4837910(LP)]〈高音質〉
「僕は音の響きの美しいピアニストに惹かれます。サンソン・フランソワもラドゥ・ルプーも、演奏を聴くとすぐに名前がわかる個性的な音をもっています。特にフランソワの音は幻想的で色彩感にあふれ、限りなく奥深いピアニズムで聴き手を魅了する。ルプーはとてもやわらかくかろやかな音色が魅力的。僕もそうした美しい音を出すピアニストになりたい。彼らのような味わい深い演奏をするピアニストになるのが目標です」
以前インタヴューでこう語っていたチョ・ソンジンは、ピアノをうたうように奏で、人間の声のように温かい音色で鳴らす。これはピアニストがだれしも目指すこと。奏者と楽器がまさに一体となり、ピアノから情感豊かな音を引き出し、喜怒哀楽に富む音楽を生み出す。これらをごく自然に実践しているのが、まさに今回の新譜。シューベルト、ベルク、リストというこだわりの選曲で各曲の個性を浮き彫りに、美しい物語を編み出している。
シューベルトでは歌曲を口ずさむような豊かな歌心と情感と繊細さが印象的。ベルクでは単一楽章の作品のなかで作曲家特有のリズム感が横溢。そしてリストは、リストが大好きだというチョ・ソンジンの本領発揮となる作品。明快で迷いのないまっすぐな音楽は浜松国際ピアノコンクールの「ダンテを読んで」でも絶賛されたが、より規模の大きな単一楽章構成のソナタでは、説得力のある深遠で洞察力に富むピアニズムを披露している。
チョ・ソンジンの演奏で、常に注目しているのは彼の手首のしなやかさ。指先だけのコントロールではなく手首が非常にやわらかい動きを保っているため、肩から腕、手、指まで力が自然に流れる。この動きは音楽全体をしなやかなものにし、いかなる速いパッセージもごく自然な形で表現することが可能だ。まだまだいかようにも変容し得る可能性を秘めた才能、次なる演奏に触れるのが楽しみである。演奏の奥に潜む“静けさ”がたまらない。
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