〈POP/ROOKロングレビュー〉ディーバ(DiVa)「よしなしうた」【2020.2 144】
■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間レヴューPOP/ROOK 〉掲載記事。ディーバ(DiVa)の2019年12月15日発売「よしなしうた」をレビューした記事です。
intoxicate 144
「しかも すこしずつおいしくなるつもりだ」(青澤隆明)
【J-POP】
よしなしうた
Diva:高瀬麻里子(vo) 谷川賢作(p) 大坪寛彦(b)
[TROUBADOUR CAFE TRBR-0021]
こんなうたはどこにもない。と、いいたいとおもった ─。もう25年近くまえのことだが、いまにいたるまで、やはりDiVaのほかにこんな歌はなかった。そうして、歳月が熟し、谷川俊太郎の詩に谷川賢作が作曲した「よしなしうた」新旧20篇がアルバムにまとめられた。
谷川俊太郎の詩は、どれだけ平明に書かれて、作者から遠くにあるようにみえても、それがかえって詩人の言葉としての面影や質量を強めているところがある。誰のものでもあるふりをして、なのに、誰のものにもならない。どこか普遍的なところで、ひとりきり佇んでいる。そんな言葉をどうやって、手なづけたらいいのだろう? そのままにしておくことだ。
なかでも、「よしなしうた」はひときわナンセンスやユーモアに近いところに遊んでいる。ストーリーを語り、落ちまで歩む道行きが、ぜんぶひらがなで記され、よけいに不気味な怖さや残酷さをさりげなくひらいてみせる。すぐれて滑稽なものは、おそろしく悲しく、笑うしかないほどに切ない。まさに谷川俊太郎のすぐれた魔境のひとつだ。
そして、DiVaの曲は、とても親しみやすい。誰もが気持ちよく、口ずさめる。でも、DiVaが歌うと、きちんとしたかたちで伝わってくる。歌姫(ディーバ)は自分に引き寄せずに、言葉と旋律を丹念になぞっていく。じつを言うと最初はちょっとばかり芝居がかってみえたりもしたのだけれど、よくよく考えてみれば、それは「よしなしうた」の詩にまったくふさわしい態度なのだった。
DiVaの独特な取り組みも25年になるが、いつまでもいいふるされることなく、彼らの歌は年輪のように育ってきた。馴染みの名曲も、新録されたこのアルバムで聴くと、音楽と言葉がそれぞれに深まり、懐かしい感触の奥へと歌が進んでいる。シンプルをきわめた言葉と、アイディアとアンサンブルを磨きぬいた演奏のすみずみに、まっしろなひかりではない、うっすらとした陰翳のような深みが宿っている。そうして、言葉と音をていねいに、心を込めてきちんと息づかせようとする3人の志が、親密さや馴れ合いとは違う次元で、DiVaにしかできない自在な音楽を、緊張感をもって高めてきたことがよくわかる。無垢(イノセンス)でも経験(エクスペリエンス)でもある、ナンセンスのうたたち。 唯一無二の不可思議な歌世界である。
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