【レビュー】『エマニュエル・パユ/ シェイプ・オブ・ウォーター~デスプラ作品集』〈2020.8月147号〉
今、本当に作りたいものを〜デスプラがフルートの第一人者パユと作る、演奏会のための意欲作〜
(大西穣)
■この記事は…
2020年8月20日発刊のintoxicate 147〈お茶の間レヴュー CLASSICAL〉掲載記事。2020年8月26・28日に発売された『エマニュエル・パユ/ シェイプ・オブ・ウォーター~デスプラ作品集』のレビューです。
【CLASSICAL】
エマニュエル・パユ/シェイプ・オブ・ウォーター~デスプラ作品集
エマニュエル・パユ(fl)
アレクサンドル・デスプラ( 指揮・編曲)
フランス国立管弦楽団
[Warner Classics WPCS-13826(CD)]
[Warner Classics 9029530687(輸入盤CD) ]
[Warner Classics9029520439(輸入盤LP) ]
映画音楽の巨匠、アレクサンドル・デスプラの新譜は、彼自身の指揮のもと、フルートの第一人者エマニュエル・パユ、そしてフランス国立放送管弦楽団によって演奏された、2018 年12月のパリでのコンサートライヴ録音だ。
まず、フルートと管弦楽用に編曲された映画音楽には、冒頭の『シェイプ・オブ・ウォーター』に始まり、そして『真珠の耳飾りの少女』や『グランド・ブダペスト・ホテル』、『ラスト、コーション』など、彼の代表作が並ぶ。馴染みのあるメロディを一聴するや、奏者の息遣いとライヴ特有の緊張感はもちろんのこと、より自由な音量コントロールが、サントラに慣れた耳に新鮮に聴こえる。映像作品の「尺」に最適化された映画音楽にはない、生身の音楽の良さがある。また今回編曲の手が加えられ、楽器割り当ての変化や各声部の音量バランスの変化など、洗練された音世界が違った形で蘇るのを発見するのは愉しい。
今作に収録されたのは映画音楽だけでない。演奏会用に作曲された、フルートのための協奏交響曲《ペレアスとメリザンド》と、フルート独奏のための 《エアラインズ》などがある。彼のメイン楽器でもあるフルートの作曲が、パユとの綿密なやりとりによって高められている。例えば、《ペレアス〜》(ドビュッシーのそれではないことに注意)ではフルートとオケの力関係が拮抗するなか、フルートに超絶技巧が要求され、優美なメロディの作曲家というイメージが覆るくらい、“攻めた”器楽的な発想が見られる。また、パユによって「十分に芸術的だが、練習曲にもふさわしい」と指摘された《エアラインズ》は、フルートの技巧性と芸術表現のバランスよく追求された佳作だ。今回の映画音楽の編曲版や、世界初演された演奏会作品も、世界初録音となる。映画音楽の第一線で活躍しながらも、最終的には作品を演奏会の聴衆に届けたいと考えるデスプラ。彼と、彼の表現の精髄を知りたいファンにとって、今作に触れることは至福の瞬間となるだろう。
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