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エックハルト・トール『パワー・オブ・ナウ』思考=時間、そこから抜け出すのが悟り

現代のスピリチュアルマスター、エックハルト・トールのデビュー作が『パワー・オブ・ナウ』(日本語版のタイトルは『さとりを開くと人生はシンプルで楽になる』)。

簡単にいえばブッダのような悟りをトールは開いていて、その体験や知恵をなんとか言語化して伝えようとしています。

もっと正確にいえば、言語を道具として使って、読者をその境地にまで連れていこうとするのがトールの著作の特徴ですね。

内容はすべて対話で構成されています。トールに対する疑問や質問について、悟りの見地から答えていく流れ。

私は最初この本を日本語版で読んだのですが、そのときはピンとこなかったんですよね。「なんか理屈っぽいし意味わからんな」みたいな感じで。

ところがその後『ニューアース』のほうを読んでものすごい衝撃を受け、そこからさかのぼってこっちも再読してみたら、ようやくその魅力に気づけたという次第。

『ニューアース』のほうが読みやすいので、トール入門にはそっちから入る方がいいと思います。


エックハルト・トール、悟りを開く

この『パワー・オブ・ナウ』の序文には、トールの有名な体験談が記されています。悟りに目覚めたときの話です。

29歳までずっと、トールは自殺観念をともなううつ状態で暮らしていたといいます。

ある日、トールは朝早くに目を覚まします。

なにか異様な、絶望的な気分とともに。

部屋にも家具にも、現実感が感じられない。自分の存在を含めて、すべてが疎遠になっているような…

トールは考えます。

「もうこんな自分自身のまま生きていくことは無理だ(I cannot live with myself any longer)」と。

しかしそこでトールはふと思います。

「私は一人なのか、それとも二人いるのか?」

この自分で生きていくことができないというときの「自分」、それを思っている「私」。

どっちが本物なのだろう?

トールは突如として奇妙な感覚に襲われると、エネルギーの奔流を感じ、すべての恐怖が消え去ったといいます。

翌朝、目を覚ました彼は、身の回りにあるものすべてが放つ異常な美しさに圧倒されます。

それから5年間、トールは至福の状態のまま日々を過ごしました。最初の2年は公園のベンチでホームレスのような生活をしていたとのこと。

その異常な至福状態が去ったのちも、目覚めの境涯はずっと持続し、今日に至ります。


以下、印象的な文章をいくつか引用してみます。

なお私は英語版でトールの本を読んでおり、日本語訳は引用者によるものです。

存在(Being)は永遠の生命であり、生まれては死んでいくさまざまな存在者を超えたものです。

あなたはこの存在に今、アクセスすることができます。それはあなたの本質であり、もっとも深き自己です。

ただし思考(mind)によって存在をつかまえることはできません。存在を理解しようとしないでください。むしろそれは思考が静まったときにだけ感じられるものなのです。

存在に気づき、そのうちにとどまることが悟り(enlightenment)です。

なるべく頻繁に頭のなかの声に注意を向けて、それを聞いてみてください。(中略)あなたはすぐに気づくはずです。そこに声がある。そして私はここでそれを聞いている。その私が気づきです。その感覚は単なる思考ではなく、思考を超えたところから立ち上がってくるものです。

時間という幻を終わらせなさい。時間と思考は一体のものです。時間を取り去ってしまえば思考は止みます。

思考をあなた自身と同一視することは、時間の罠にとらわれることです。それは思い出と期待のなかだけに強迫的に生きることです。

今を生きていないと気づいた瞬間、あなたは今を生きています。

あなたが今ここを耐えられないと感じ、不幸な気持ちになるのなら、3つの選択肢があります。その状況から離れること、状況を変えること、すべてを受け入れることです。

ストレスが発生するのは、「ここ」にいるのにもかかわらず「そこ」を求めるからです。言いかえれば、現在にいるのにもかかわらず、未来を求めるからです。

ポジティブであるかネガティブであるかを問わず、あなたはよく過去について語ったり考えたりしますか?(…)これは偽りの自我を強化するのみならず、身体の老化をも早めます。

静寂に耳を澄ますことは、現在を生きるためのかんたんで手っ取り早い方法です。たとえ騒音に取り巻かれていても、音の底、音と音のあいだには、かならず静寂があります。

人の話を聞くときには、頭だけ使って聞くのではなく、身体全体で聞いてください。

お気づきのように、人間関係はあなたを幸せにしたり満ち足りた気持ちにしたりするために存在するのではありません。もし人間関係を通じて救いを追い求め続けるのなら、あなたはなんどもなんども幻滅を繰り返すことになります。

しかし人間関係があなたを幸せにするためではなくあなたに気づきをもたらすために存在していると受け入れるならば、人間関係は救いをもたらすものになるでしょう。

アウトサイダーでいること、他人とうまく付き合えなかったり他人から拒絶されたりすることは、人生を難しいものにしてしまいます。が、悟りという観点から見れば、それは大きなアドバンテージです。

アヒルでさえスピリチュアルな教えをもたらしてくれます。彼らが泳いでいるのを見るだけで瞑想になりますよ。

ネガティブな気持ちが湧き上がってきたら、それを失敗と捉えるのではなく、むしろサインとして捉えてください。「目を覚ませ、思考から抜け出て今を生きろ」という合図だと。


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