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【ゲーム考察】「牛乳はもう飲まない!」ーMilk outside a bag of milk outside a bag of milk(後編)

※この記事では「Milk outside a bag of milk outside a bag of milk」のネタバレを含んでいます。
また、「ホラー」「精神的恐怖」に関するコンテンツが含まれています。
苦手な方はご注意ください。



はじめに

こんばんは。
かぐやです。

今回は、前回に引き続き、『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』というゲームの考察をしていこうと思います。

今回はエンディングについての考察です。
前編では本編の考察をしているので、まだ見てない方は、そちらから見ることをお勧めします。



⇩前編はこちら









エンディング考察

エンディングは全部で5つ。
本編で選んだ選択肢によって少女が見る夢が変化します。

そして、最後は少女が涙を流して目を覚ますことで終了します。

悪夢を見て目を覚ます時、
自分が嫌っているもの(人、虫など)
臨死体験(車に引かれた、刺されたなど)
が出てきませんか?

全てのエンディングは、少女が心の奥底にしまっていた不安や恐怖心などのものが夢として突き付けてきたように感じます。

※エンディングの大まかな流れは載せますが、エンディングでの台詞や分岐条件など細かな部分は各自で調べることをお勧めします。


1.分からないでしょ

このエンディングでは、インサイドのような、紫がかった赤色の世界で、少女が『トレスカ』と名乗る少年が牛乳を買うのについていく、という夢。

その道中でトレスカが歩いたり止まったり、
他のお客さんに話しかけて迷惑そうにされたり、
レジの会計でトラブルを起こしたり、
アイスの話をしたり…。

少女がそれに引っ張られて、最後には「全く助けてくれないんだ」とトレスカから見放されるような終わり方をします。

牛乳を買う一連の流れ、なにか覚えがありませんか…?


そもそも、トレスカが何者なのか?
私は、トレスカは「少女の精神疾患を擬人化したもの」だと思います。
そして、トレスカは「trace」つまり「追跡、追憶」をもとにした名前ではないでしょうか。

少女はトレスカのことを知らない、しかし、トレスカは少女のことを全部知っている。
これは、「彼女の心の中の存在」がトレスカであるから、彼女がどう苦しんでいるのかももちろんわかっている。


そして、牛乳を買いに行く行為も、その道中で起こった出来事も、全てインサイドでの流れと似ています。
ただ違うのは、トレスカが当事者で、少女は傍観者であること。


作品中で、少女は自分がおかしいと自覚しているような発言もありますが、そこから目を遠ざけるような行動もある。
この夢は、少女に自分が周りからはこう見えるよ、ということを突きつける夢なのではないでしょうか。

トレスカ。


では、この夢は何を伝えたいのでしょうか。


このエンディングでは、
・「最初の死」を経験すること。
そして、『分からないでしょ』の称号解放時にでるメッセージは
『分かろうともしてない』


これは、少女に向けてのメッセージであると同時に、私達第三者へのメッセージでもあるのではないでしょうか。

少女にとって、自分の精神疾患から目を背け続けることは結果的に症状が悪くなるだけで何の意味もない。
ただ、少女はインサイドではプレイヤーが少女を傷つけるような発言や、現実を突きつけような発言を続けるとゲームオーバーになる。
結果として、インサイドとアウトサイドを通して少女は自分のことを「分かろうともしてない」(していなかった)

それが最初の死(人間関係の断絶)を経験したことで夢として自分自身と向き合うことの重要さを突きつけた

そして、夢の中でトレスカが店の中で、周りの人から冷淡な態度を取られている。
この人達はトレスカのことを、ほとんど少女に対応をさせている。
そして、その人達も、プレイヤーである私(達)もトレスカの当事者ではなく、トレスカを傍観する立場でしかない。

このエンディングは、トレスカ、そして少女のような精神疾患をもっている人のことを「分かろうともしない」人が(現実世界でも)大勢いる皮肉ということとしても取れると思います。


2.視線を落とす

モノクロの世界で、そびえ立つコンクリート柱にらせん状に続く階段。
上り下りもわからない。
動くのが無意味だと、時間だけが過ぎていく。
目の前には同じような柱が何百もある。
なにかが思考するのを邪魔して、足が動き、方向だけしか決めることができず。
少女は降りることに決める。


全体の流れしか書いていませんが、この文章難解すぎます…


まず、柱と階段の存在が何なのか?
柱に永遠と続く階段を登るに連れて、「他人との距離」が遠ざかっていくのではないでしょうか。

全ての人は、元々孤独の状態(柱の階段にいる状態)で人生が始まる。
階段を登れば、他人との距離が遠ざかっていく(孤独になる)。
下れば他人との距離は近づく(社会の中で生きていく)。

少女はその狭間にいる。

しかし、どう生きていくか「決断」をしなければならないと内心思っているため、階段を上るか下るかの選択を迫らせる。

結果、少女が階段を下りる。
社会の中で生きることを決める。


では、この夢は何を伝えたいのでしょうか。


このエンディングでは、
・「最初の死」「二度目の死」を回避。
・紙切れを回収しない。
・蛍を3匹回収(思考が未完成)
する必要があります。
そして、この『視線を落とす』の称号解放時にでるメッセージは
『お願い、止めて』


少女にとって社会の中で生きること、つまり他人と同じように生きることで少女自身が成長し、人の輪の中で生きていこうという気持ちが夢になったのではないでしょうか。

しかし、社会という深淵に飛び込むということは、自分の価値基準ではなく、集団の中の価値基準に沿って生きていくということになります。
私達にとっても、集団の価値基準に沿うことが一概にいいことではないと思います。

他人に合わせることが自分の存在を殺すことになりえますし、大衆の価値基準が差別などの排他的思考に至ってしまうケースは過去に何度もあったからです。

そして、少女はその深淵の中に飛び込もうとしている存在。

それは、自分にとって価値のあるものは全体から見れば無価値なものと見なされることであり、調和した価値基準に沿って生きていくことで、自分の存在が無価値になるのではないかという不安が最後の台詞であり、自分の存在が分からなくなってしまう恐怖が『お願い、止めて』の意味なのではないかなと思います。


3.誰かいるの?

むき出しの壁、家具のない窮屈な部屋の中、少女が目を覚ます。
外から聞こえるおぞましい声。
壁や天井に触れようとすると遠ざかっていく。
ドアから差し込む光と、向こう側から聞こえる声を求め、遠ざかるドアノブをつかもうと走って転ぶ。
その繰り返し。
何時間も走ったが、向こう側は何もしてくれない。
やっとのことでドアを開ける。

広大な草原の中へ。
『オオオォォォ…』と響く声が段々と近づいてくる。点状の影が近づく。
果てしない草原を歩いても、影は追いかけてくる。
影が急速に大きくなり、草原を闇で包む。
少女が全速力で逃げるも飲み込まれる。

むき出しの壁、家具のない窮屈な部屋の中、少女が目を覚ます。


緑と黒が基調


まず、
部屋 ➡ 草原 ➡ 部屋
の順で場面が変化しているので、少女が、
追いかける ➡ 追いかけられる側 ➡ 追いかける側 ➡ …
というように繰り返すため、夢の中で少女の立場がループしている。

そして、少女が部屋で聞いたドアの向こう側の声と、少女が草原での発言はほぼ一致。

この夢では、少女が少女自身を追いかけるのを繰り返していることを表しているのではないでしょうか。


では、この夢は何を伝えたいのでしょうか。


このエンディングでは、
・「二度目の死」を経験
する必要があります。
そして、この『誰かいるの?』の称号解放時にでるメッセージは、
『誰かいた?』


『二度目の死』、つまりネット上での居場所を失ったことならば、この経験が他人の視線に関する夢をみる影響を及ぼしているはず。
少女はアウトサイド全体を通して、「他人の視線を感じる」ことを何度も言っています。

しかし、実際には常に視線を向けられていることはほぼなく、彼女の神経質さがそう感じさせているだけ。

今回の夢は、他人から視線という恐怖が草原の少女が怖がる影で、結局それは自分自身によるものだったということを気付かせようとしている。

つまり、少女が自分で人間関係を断ってしまったことを気付かせる夢であるということではないでしょうか。
『誰かいた?』は夢の中で自分が追いかけていたのも、追いかけられていたのも自分自身であるということを気付かせるような問いかけではないでしょうか。


4.私たち友達?

スマホを握る少女。
ピザに関する機械的な文章と、少女の絶え間ない思考と問いかけ。
「虚空を埋めることはできない」「ひとりぼっち」などの文章を延々と打ち込んでいく。
線路の上で、ひたすらチャットを打つ。
電車と声のような音。

そして、『セッションが終了しました。ページを更新してください。』という文章と一時停止の看板が表示される。

まず、この夢の中で何が起こったのか考えていきます。
おそらく、スマホピザの注文ページ(公式LINEみたいなもの?)にひたすら自分の思考を打ち込んでいる。
そして、線路に入ってひかれた。(音は電車のブレーキとアナウンス、
一時停止は立ち入り禁止の表記)

この夢は、少女の思考をひたすら打ち込んで、それに問いかけるだけ。
ただし、相手は自動送信のメッセージであるため、答えは返してくれない。
少女は答えのない問いを延々と考えていることになります。

そして、少女は自分の思考に閉じこもっているのが時間の無駄で、虚空を埋めることはできないし、ひとりぼっちだということを理解している。

その上で、自分の存在について疑問に思い始める。
それは思考上では答えを見いだせないものであり、思考に囚われ続けてしまう。

こうして、少女が立ち入り禁止の看板に気づかず線路に入り、電車にひかれた。
思考に囚われすぎた結果、現実に気づけなくなる。
ということなのかと思います。

立入禁止の看板と、『セッションが終了しました。ページを更新してください。』という文章は、考え込む前に踏みとどまって別の考え方をしなさい、というふうにとれるのではないでしょうか。


では、この夢は何を伝えたいのでしょうか。


このエンディングでは、
・紙切れの回収
が必要です。
そして、この『私たち友達?』の称号解放時にでるメッセージは、
『友だちってこんな感じね』


部屋の探索時にこの紙切れをクリックすると、
『何だろう?』
とだけ。

少女はこの紙切れ自体を把握していないため詳細は不明です。
しかし、エンディングに影響するということは何かしらの意味があるはず。
色々考えましたが、いつ誰かからもらったのか、またはそもそも自分で書き留めていた何かなのかはわかりません。

紙切れを拾ったことで、この夢は少女に自分の思考を改め、現実世界を見させようとする夢なのではないかと考えました。
アウトサイドの台詞で言えば、「考えすぎはダメだよ、しんどくなる。」というのがしっくりきます。

少女は思考が無駄であり、ひとりぼっちであることを理解しても、思考に答えを探し続けてしまい思考に囚われ、現実から目を背けてしまう。
そのため、誰かが少女の思考を変えて、現実で答えを探せるように目を向けられるようにしなければならない。

しかし、父親はいないし、母親は嫌い。

だからこそ、両親以外に信頼できる人間関係、つまり「友達」が必要で、人間関係を築くことの重要さを表しているのではないでしょうか。


『友達ってこんな感じね』の友達は、この夢の中で言えば立入禁止の看板のような役目、つまり友達の危機に気づいてあげられる存在でしょうか。

ただ、この友達の存在がピザのチャット方であるならば、
「友達であっても思考の壁は越えられないよ」
という解釈もできるのかなと思います。


5.全部うまくいく

登校初日。
鏡の自分を見て
『馬鹿っぽい』
と自虐するも、
『自分を決めるのは見た目じゃない』
と言い聞かせる。
ママの呼びかけにも元気そうに答える。


この繰り替えしだが、鏡の少女の見た目がどんどん変化。
少女の目の位置がおかしくなったり、首がねじれていたり…。
音楽も不気味になっていく。

そして音楽は戻り、鏡には表情のない少女。
なにもかも吹っ切れたような台詞。
最後には、鏡の自分が本物から目を背ける。


この夢では、少女が(転校して)登校初日に自分の顔をみるシーンが繰り替えされます。
暗転の前後で少女は転校を繰り替えした、という設定なのでしょうか。

まず、少女が過度な神経質でコンプレックスを持っていたり、不安になる気持ちが夢のベースとなっている。
その上で、少女が思い込みで自分を「怖い」「不気味な」存在として認知してしまう。

何度もそれを振り払おうとしても、また違うイメージが浮かび上がる。

それを繰り返しに嫌気がさし、いっそ割り切ってみる。
しかし、うまくいかない。


では、この夢は何を伝えたいのでしょうか。


このエンディングでは、
・「最初の死」「二度目の死」を回避
・紙切れを回収しない
・蛍を5匹全て回収(思考が完成状態)
する必要があります。
そして、この『全部うまくいく』の称号解放時にでるメッセージは
『見てわからない?』


散らばった思考をすべて回収し、死の体験をしない。
他のエンディングとは異なり、プラマイゼロの状態に戻るということになります。

つまり、なにも変わりません。


そして、この夢は「分からないでしょ」と違う視点で少女の症状に向き合わせるものかなと思います。
その問いかけとしての『見てわからない?』ではないでしょうか。

実際は少女の顔のパーツがおかしくなることなんてない。
ただ、自分がそう思い込んでしまえば、そういう風に認知してしまう。

それを変えられない限り、同じことを繰り返す。
夢の中で何度も転校する。
かといって、それを吹っ切って表情を無くすことは、自分の存在が無価値になってしまう。(『視線を落とす』の思考に繋がる)

最後の鏡の中の少女が後ろを向いていたのは、鏡の自分、つまり「思考の世界」ではなく、「現実世界」を見なければいけないという心の現れなのでないのでしょうか。


まとめ

エンディングについての考察をまとめると、

『分からないでしょ』
少女が自身を客観視して、自分の症状と向き合う夢。
『視線を落とす』
集団の中で生きていく中での自分の存在価値と葛藤する夢。
『誰かいるの?』
自分を苦しめていたのが自分自身であることを気付かせる夢。
『私たち友達?』
思考の世界ではなく、現実世界での人間関係の大切さに気付く夢。
『全部うまくいく』
少女の精神状態そのものを見て、自分の症状と向き合う夢。

エンディングに関しては、少女の精神世界そのものなので、本編(起きている時)よりも難解で、多くの解釈があると思います。

私は何度か見直してみましたが、深掘りしすぎるとうまくまとめきれなかったため、文章に表せる程度でまとめました。


おわりに

これで、インサイドとアウトサイドの考察を終わりにしようと思います。

ここまで記事を読んでくれた皆さん、ありがとうございます。

まだ文章としてつたない部分や、少し考えが浅い部分もまだあると思うので、作品や自分の投稿見直し修正を加えようと思います。

私は、『milk inside a bag of milk inside a bag of milk』と『milk outside a bag of milk outside a bag of milk』の考察を書くことで、少女の見えている世界を少しでも理解できるかなと思い記事を書きました。

しかし、記事を書くにつれて、私はその壁を越えるどころか、逆に思考の沼にはまってしまうような感覚になりました。
ですが、記事として文章にまとめることで、心の中のモヤモヤした部分をまとめられたかなと思います。


その「思考の沼」に引き込まれるのもこのゲームの魅力だと思います。


最後まで記事を読んでくださった皆さん、ありがとうございます。

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かぐや(旧)
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