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猫は動じず、人はあたふた〜『猫と庄造と二人のをんな』〜【2月猫本チャレンジ16】

今日は、谷崎潤一郎作『猫と庄造と二人のをんな』です。

『猫と庄造と二人のをんな』(中公文庫)

先日紹介した河合隼雄先生の『猫だましい』で紹介されていたんですが、タイトル見てびっくりしました。だって、手塚治虫のブラックジャックにある『猫と庄造と』っていう話のタイトルはここから来てるんですよね? 

日本の文豪が書いた小説をあまり読んでいない私は、オマージュ作から読んでしまいました。谷崎潤一郎でいうなら、『陰翳礼讃』しか読んでいない……しかも、食べ物の部分だけ。谷崎文学が何か艶めかしい雰囲気に満ちているイメージがあって、読んでみようと思ったことはついぞありませんでした。

登場人物は、庄造、その庄造の後妻の福子、離縁されたばかりの品子、庄造の母おりん。そして庄造の飼い猫リリーです。話は前妻の品子が後妻の福子にリリーをくれないか、と頼む手紙から始まります。

庄造は猫を猫かわいがりします。そもそも前妻の品子でさえ、10年も庄造と一緒にいるリリーからすれば新参者になります。ましてや後妻の福子はたったひと月余り。庄造のリリーのかわいがり様を見ている前妻、後妻はそれぞれ含むところがあるようです。

けっきょく、リリーは品子の家にやられることになります。さて、それでいったいどういうことになったのかはネタバレ防止にここまでにしておきましょう。

そんな人の思惑がどうであろうともリリーは猫らしく、猫の態度を貫くのですが、いや、そもそもリリーはただふつうに暮らしているだけ、ですね。でも人がその行動をあれやこれやと解釈する。やっぱり話の軸にいるのは、リリーです。

私ははじめてリリーがお産をするときのシーンにグッときましたね。産気づいたリリーが庄造へ必死に訴えてくるときの様子です。

まあ云つてみれば、「あゝどうしたらいゝでせう、何だか急に身体の工合が変なのです、不思議なことが起こりさうな予感がします、こんな気持はまだ覚えがありません、ねえ、どうしたと云ふのでせう、心配なことはないのでせうか?」と、さう云ふやうに聞こえるのであつた。

『猫と庄造と二人のをんな』

リリーの様子を庄造がアフレコしたような部分がカッコの中のセリフです。私も今の飼い猫のお産が二度ほどありましたが、確かに必死で「あのう? なんか出そうなんですけど!?」と訴えかけていました。猫って目力が強くって、まさに目は口ほどに物を言う、を地で行く生き物なので、その視線はいまだに記憶に残っています。

もっとも2回目のお産のときは、痛い痛いと段ボール箱の中を這いずり回っておりましてね。胎盤にくるまったままの子を舐めて取り出そうとしないものだから、その子が前脚をかきかきしながらあっぷあっぷしてたんですよ。あわてて私が胎盤を破って、取りだして拭いてやりました。今もうちにいるその子の名前は、おゆき。シャム猫亜種のような風貌で、面白いヤツです。胎盤の中で少し酸欠になってたんやないやろな?

先ほどの引用から分かる通り、文章は旧仮名遣いです。最初は読みにくいと感じましたが、次第に慣れますね。人物や猫がじっとりと描写されていく雰囲気になんだかすごく合ってるような気がしました。

ちなみにリリーの毛並みは、「鼈甲猫」。英語の "tortoiseshell cat"をそのまま直訳したのですね。日本では同じような毛並みの猫をサビ猫といいますが、厳密にいえば黒茶が混じり合った猫のうち、黒が多いのがサビ猫、赤が多いのが鼈甲猫、というようです。リリーも「茶色の全身に鮮明な黒の斑点が行き亙つてゐて、つやつやと光ってゐる」ので、まさしく鼈甲猫ですね。猫の模様も調べるとなかなか面白いのです。鼈甲猫も遺伝子の関係で三毛猫と同じくほぼオスはいないそうです。

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