たくさん読めばそれですべてよいのか?〜『プルーストとイカ』〜【9月実用書チャレンジ9−3】
今日は『プルーストとイカ』3回目、ディスクレシアとまとめの章です。
ディスクレシア、とは読字障害といわれる、字を読むことになんらかの問題がある状態のことです。しかし、ここまで本書を読んでくると、「あ、そう」と簡単な話ではないのが分かります。なぜかというと、本を読むときに人間の脳が行っていることは、目から入った文字を視覚野で認識して、それが何を意味するのか検索して照合する、という極めて複雑な作業だからです。
ディスクレシア、と一口に言ってもいろいろな症状があるようです。文字自体をきちんと認識できない(二重になったり、逆さまになったり、など)という場合もあるし、見えるけどそれが何を意味するのか認識するのに時間がかかる、または音読することができない、など異なっているようです。実際、分かっていることもこのように多いけど、いまだ説明のつかないこともたくさんあるのだそうです。
また、音韻が読むことを学ぶ際に重要になる言語なのに発音に規則性が乏しい言語だと音を認識しにくい、ということがディスクレシア発見につながる。みなさんも中学校で最初に英語を習ったとき、つづりと発音が一致してないことに発狂しそうになったこともあるでしょう。英語やフランス語がそうです。逆にドイツ語のようにつづりと発音に比較的差のない言語だと、読み方では困らないけど、脈絡のある文章をスラスラ読んで理解する読解力の方面でディスクレアの人は引っかかりやすい、と言えます。
ちなみに日本語の場合は、かなと漢字の両方を読めるように習得するわけですが、かな文字がシンプルでかつ、五十音図で視覚的にとらえられるので読むことを学ぶ際には有効になるそうです。なるほど、小学校の教室に貼ってある五十音図、そしてカルタのようにそのかな文字を使うことばが絵で表現されていたりすると、字を音で読むことだけに頼らなくてよいのですね。
そして、ディスクレシアである人にはどうも芸術家や偉人と言われる人が多いのです。芸術家、画家、そしてパターン解析能力が必要な建築家、放射線科の医師など、一般的にいわれている右脳型の能力が抜きん出ているようです。「文字を読む」ということは生まれてきたときから人に与えられた能力ではありません。現代の学校教育の場ではそこでつまづいてしまうディスクレシアの子どもも多いのは大変もったいないことだ、と著者は言います。だって、文字を読む以外のことでは人並みよりはるかに上の能力を持っている可能性があるのですからね。
古代ギリシャの哲学者、ソクラテスは書かれた言葉に対して「深刻に社会に危険をもたらすもの」と強烈に感じていた、とこれはPartⅠの最後の方で書かれていました。彼の言葉は弟子プラトンが書いたものでしか残っていないことは知っていましたが、書き言葉に反対していた、とは私も知りませんでした。その理由は、柔軟性に欠け、記憶を破壊し、知識を使いこなす能力を失わせる、というものでした。これが馬鹿げたことなのか、それとも意味があることなのか。
本書の最後で著者はこう書いています。
「ソクラテスは何にも増して、この永久不変に思われる書記言語によって伝えられる”うわべだけの真実”が真の知識の追求に終止符を打ってしまうのではないか、この損失は私たちが知っている人間の徳の死を意味するのではないかという懸念を表明した」
本はたくさん読めばいい、たくさんのことを知ることができればいい、と思って毎日本を読むことに血道を上げているような自分にとっては、耳が痛い言葉です。ドイツの哲学者ショーペンハウアーが『読書について』で語っていたことと同じことのように思います。彼は本を読むことは自分の頭で考えず人の頭で思考することだ、と言っていました。
それでもなお、人間が脳の回路を変化させてまで文字を読んできたのはなぜでしょうか? 今のデジタルの時代、あふれる情報を通り過ぎるままにしているだけで本当によいのか、そのように考えさせられました。
これで『プルーストとイカ』は最後まで読めました。しかし、実は続きがあるのです! 続編のような形で最近出版されたのが、『デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳』という本です。
実はわたくし、こちらの本を先に手に入れて読もうとしたら、これは『プルーストとイカ』の続編だというではないですか! こりゃえらいこっちゃ、ということで『プルーストとイカ』から先に読んだのでした。
こちらも今回のチャレンジ中には読みます!
内容がいささかハードだったので、少しインターバルを取るかもしれませんが……本書の最後は、「読者へ」という言葉で締めくくられています。
「人類が文章を超越する術をいかにして学んだかという本に、最終章はない。結末はあなた、読者の筆次第だ……」
結末を任されてしまいましたね。
まずは続きを拝見してから考えることにしましょう。
『プルーストとイカ』最初のPartⅠは、コチラ↓↓↓
PartⅡは、コチラ↓↓↓
9月実用書チャレンジをまとめたマガジンは、コチラ↓↓↓
夏休み新書チャレンジをまとめたマガジンは、コチラ↓↓↓