「ジョブ型雇用」のウソ・ホント
この記事を書いた頃に比べれば、バズワード的な取り上げられ方は落ち着い ついているのかな?とも感じる「ジョブ型雇用」。今は「リスキリング」ですかね。あるいは「人的資本経営」。
何かおかしい、「メンバーシップ型」vs.「ジョブ型」論争
「メンバーシップ型」vs.「ジョブ型」議論。主な論調はこんな感じです。
これまで日本企業は新卒採用を中心にメンバーシップ型(人に対して仕事を割り当てる)でやってきたが、これからは欧米で大半を占めるジョブ型(仕事に対して人を割り当てる)が生産性向上につながるということで導入に踏み切る企業が増えている――
しかし、この論調では見過ごされていること、誤解されていることが少なくありません。
そもそも「メンバーシップ型」=職能給、ポテンシャル採用、「ジョブ型」=職務給、プロフェッショナル採用の言い換えに当たり、これらは日本に昔からある賃金制度です。この2種類以外に成果給(昨今の表現に言い換えるなら「パフォーマンス型」?)があります。
両者の位置づけは今、二択の議論というよりは「メンバーシップ型からジョブ型へ」という一方向の議論に向かいつつあります。しかし、実は少なからぬ日本企業の人事制度・給与体系は昭和の時代からこれらの組み合わせ(はやりの言い方をするならば「ハイブリッド型」)でした。
「ジョブ型」とは、本来『ポジション(ポスト)型』のこと
これは、ある著名なコンサルタントの近著にあった一節です。「ジョブ型」に関する議論は、おおむねこの論調に近いでしょう。
私は長らくエグゼクティブサーチ事業にも携わってきて、外資系企業のクライアントから外部採用に際してのJDを多く預かってきましたが、「その人がどんな仕事をするかが明確に定められており、それ以外の仕事をすることはない」という内容のJDを見たことがありません。
失礼な表現を顧みずに言えば、概ねのJDは、例えば、マーケティングマネジャーのものだったとして、A社とB社、C社のJDを入れ替えたとしても、ほぼ同じ内容のものがほとんどです。要は、それぐらい「ざっくりとした」職務定義なのです。そうでなければ各社の事情に合わせて職務を遂行させようがありません。
“職務内容や求める要件をパーフェクトにJDに書き込む”ことなど、外資はやりません。日本企業の真面目さといいますか、職務定義書を作るという手段が目的化し、個別の職務をいちいち職務定義に落としにいき、内容が変わるとその都度更新するようなことを、かつて成果主義が流行った際にも行った企業がありました。当然、そんな書き換え更新に意味を持ち続けようもなく、2~3年で運用破綻しています。おそらく今回も、全く同様になるでしょう。
そういえば上記記事を書いた当時、記事中に引用している通り、日立製作所さんが「一般社員では約450の職種で標準となる職務記述書を作成した。経営戦略に基づき、システムエンジニアや設計など職種や等級などに応じ、個々のスキル内容や職務を明示する。」としていました。
さて、現在、この職務記述書の運用はいったいどうなっていることでしょう?
また、外資系企業でJDに記述していることだけやっていたら、必ず「お前のバリューは何だ」とボスから問い詰められます。標準的な職務定義項目に加えて、どんなプラスアルファ、自分でなければ出せないバリューを出せるかが勝負であり、それなくして生き馬の目を抜く外資系企業でプロモーション(昇進)などできようがありません。
もし、ジョブ型議論に本質があるとすれば、それは「適材適所」という考え方から「適所適材」へのリセットです。生かされるポストがまずあり、そのポストであなたが成果を出せるのか否かが明確に問われるようになったということです。
本来JDで定められるのは、詳細な職務ではなく「ポジション(ポスト)」であり、これこそがグローバルスタンダードなのです。
ミドル世代、シニア世代の幹部陣には「適所適材」を自覚させよ
私自身はジョブ型議論以前から、「適材適所」ではなく「適所適材」であると述べています。中堅世代やリーダークラス以上の採用、配置、育成は「その人を、どこに」ではなく、「このポストに対して、適する人は誰か」を前提として行われる必要があります。
幹部陣に対して、新卒入社の新人から、いわゆる若手層までについては「適材適所」が優先されます。まずその「適所」がある程度以上、特定されるまで、ポテンシャルとしての人材を、それなりにハマりそうな部署・職務に配置する「適材適所」を目指すわけです。
ミドル世代、シニア世代の人たちが、新人・若手時代の「適材適所」のままでキャリアや転職を考え、行動していることに、その世代が企業から本質的に求められることとのギャップが生じています。
その背景として、企業側がミドル世代、シニア世代の社員に新人・若手時代の延長戦のままで異動・昇進ルールを運用していたり、キャリアパスのイメージを持たせていたりすることも、構造的な課題と言えるでしょう。
皆さんの会社においては、ジョブ型議論などに惑わされたり、乗っかったりするのではなく、ミドル世代、シニア世代の幹部陣に意識・認識をしっかり切り替えさせ、「自分は、どのポストに適応できるのか」「そのポストで最大成果を出せるのかを問われ続けているのだ」ということをしっかり自問させ、任務遂行することを求めることが大事です。
これからの幹部に明確化させるべき3要素とは?
では、これからの幹部活用は、何を基軸とすれば良いのでしょうか。私は、「出せる成果」「なじむ風土」「動かせる組織・人材」の3つを明確化することをおすすめしています。
「出せる成果」とは、「どのような職務において、どのような成果・結果を出せるか」です。例えば、次のような内容となります。
●我が社がここからIPO(新規株式公開)を成し遂げるために必要な管理部門の構築・強化を行い、最高財務責任者(CFO)として上場へ導ける
●大手企業への食い込みのためにエンタープライズセールスをリードしハイタッチセールスの体制構築と自らのトップセールスで早期に大きな売り上げ数字を作れる
●DX(デジタルトランスフォーメーション)において、既存のSCMやマーケティングに関与しながら次世代型のDX体制の構築とバリューチェーンのデジタライゼーションを実現できる
業務範囲が明確で、目標も明示されているという意味ではジョブ型的といえるでしょうか。しかし、主な力点は「職務定義に合致しているか」という静的なスペックをみているというよりも、その職務に対して当人が取る「思考・行動スタイル」と、そこから生み出されるであろう「成果期待値」の動的・ダイナミックな部分にあります。
2つ目の「なじむ風土」とは、「どのような組織、企業風土にフィットするか」です。こちらはある面、メンバーシップ型的な側面といえるのかもしれません。
究極のところ、私たちが気持ちよく、楽しく職場で働けるベースラインは「そこにいる人たちとの相性」に尽きます。そして、組織フィット・企業カルチャーフィットは今、非常に重視されるようになっています。特に魅力的な事業を創出している成長ベンチャー各社では、ほぼ100%の確率で、どんなにスキルが高い人でも、自社のビジョンや人材価値観に合致しない人は採用しないという明確さを持っています。
逆に言えば、この部分について考えや基準があいまいな企業は職場コンディション・雰囲気はあまり良いものではないかもしれません。だとすれば、経営の最重要課題として明確化を急ぐべきだと思います。
最後の「動かせる組織・人材」は、「チーム(組織)やメンバー(人材)をどう動かしてくれるか」というリーダーシップを意味します。
●自社の組織や人材をうまく使って成果を出してくれるか(目標設定し、職務を割り当て、遂行し、結果についてレビューと評価・考課を行えるのか)
●それにとどまらず、組織を生成発展させていってくれそうか、人材を採用・育成・開発し成長へと導いてくれるか
この2点について、これまでの具体的な取り組みや実績、あるいは苦労を含めてしっかりアウトプットできる幹部は、今後も必ず成果をあげ貢献してくれるでしょう。
御社がメンバーシップ型かジョブ型か、どの雇用スタイルを取っていようとも、どの雇用スタイルに変えようとしていようとも、ミドル世代、シニア世代の幹部陣に今後求めるべきものは、この3つであることに変わりはありません。
「出せる成果」「なじむ風土」「動かせる組織・人材」についての3点セットを持つ幹部陣をラインアップできれば、ジョブ型雇用だろうがそうでなかろうが、彼らが御社の成長・変革を頼もしく牽引してくれることは揺るぎないはずです。