躁鬱病と入院 6
「今回の事は薬とか色々な要因があると思いますが、一番大きいのはアルコールの問題だと思います。井上さんはアルコールに依存しています。」
そう。よく飲んでいた。鬱の苦しさから逃れる為、逃れられない焦りを振り払う為、振り払えない不安を誤魔化す為、仕事中以外はずっと飲んでいた。そんなもので誤魔化せないのは分かっているし、薬と一緒に飲んではいけないのも分かっていたのだが、飲まずにはいられなかった。飲んでいる時だけ平静を保っていられると思っていたが、もうその時点でコントロールが利かなくなっていたのだと思う。入院前にもビールを3本空けている。
でもアルコール依存症だなんて大袈裟だなと思った。俺は普段は節度ある飲酒が出来ているし、入院前はたまたま飲み過ぎただけだと。しかし、アルコール依存症は躁鬱病に対し蛇の様にきつく巻き付いていた。退院後の禁酒生活は厳しいものになる。
入院生活最後の夜。記念に乾杯でもしたいところだ。退院してからの事を考える。明日になると子供に会える。俺の入院で夏休みの予定がなくなったので、存分に遊んであげよう。おもちゃも買ってあげよう。PIGGSのライブには行けるだろうか。行けるだろうが、退院してすぐにアイドルに会いに行くのは気まずくないか。スマホがない生活もなかなか良かったが、やっぱり見たいものがある。YouTube、Netflix、amazon prime video、鈴村あいり。
同室の〇〇さん、××君はすっかり寝ている。この二人はやはり俺とは格が違ったな。俺なんて何で入院したのだろうって感じだ。短い間だったし、特別関わりが深かった訳でもないが、同室という事もあり、二人の事を考えてしまう。二人は良くなるのかとか。外でやって行けるのかとか。何故か自分の事より、よく考えた。考えていると頭が冴えて眠れなくなったが、今夜は看護師さんに睡眠薬を貰わずに、ずっとそのまま眠らずに考え事をしていた。