便秘に用いる漢方薬

お久しぶりです。
最近は調剤室を回せるようになってきて、実際は知識は全然ないけど仕事ができていると勘違いしているいのたろうです。

さて、本日はカルテを閲覧していて便秘に対して服用していると記載があった漢方が「ダレデスカ...??」状態でしたので、そのあたりをまとめてみようかなと思い記事を書くことにしました。

では一緒に勉強していきましょう!!

まず便秘の定義から復習していきましょう。

定義自体はいくつもありますが、日本内科学会は「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」と定義しています。
慢性便秘症診療ガイドラインでは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。

薬剤師という立場では、客観的に判断できるような数値などがあるとうれしいですが、個人的には患者が普段より便がでない、つらいと感じたらそれはもう十分便秘である、と思っております。

今回はあくまで便秘に用いる漢方薬がテーマなので、便秘自体の学習は各自でお願いします。

便秘に適応のある漢方エキス剤は種類が多いですし、なんなら何が適応あるのか知らないものも多いですよね。

まずは便秘に用いる漢方薬における「Key生薬」である大黄から見ていきましょう!!

大黄の主要活性成分はアントラキノン類、センノシドです。副作用は言うまでもなく「下痢」です。

ではここでセンノシドの代謝について復習しましょう。
大黄にはセンノシドA及びBが含まれており、経口的に服用されるとヒト由来腸内細菌のβ-グルコシダーゼによりグルコース残基が加水分解で外され、おのおのセンニジンA及びBが生じます。さらにこれらが腸内細菌のNADH-フラビン還元酵素により還元されて、レインアンスロンになり瀉下活性を示します。レインアンスロンはさらにレインに代謝されるが、レインは一部の腸内細菌に抗菌活性を示すことから、ネガティブフィードバック機構が働き瀉下活性が調節されていることが考えられています。
最後にセンノシドとアローゼンについて少し書きますね!

あとは芒硝もたまに含まれています。主要活性成分は硝酸ナトリウムであり、副作用は下痢や浮腫があります。

では、漢方の説明に移ります!

書籍、医師により意見は様々ですが、便秘における漢方の第一選択薬は

大黄甘草湯や麻子仁丸です!!

大黄甘草湯は主成分のセンノシドとその瀉下作用により起こる腹痛を改善する甘草が含まれた漢方であり、市販薬の漢方便秘薬は割と大黄甘草湯なのではないでしょうか。

麻子仁丸は大黄に加え麻子仁も含有しており、麻子仁は腸管内を潤す効果があるとされているので、コロコロとした固い便を軟化する効果が期待できます。

両者の違いで重要と思われるものは甘草が含有しているかどうかです。甘草を含有している大黄甘草湯は、有名な副作用である偽アルドステロン症に注意する必要があります。甘草1g中にはグリチルリチンが約40mg含まれており、1日の上限として甘草は7.5g、グリチルリチンは300mgであるため基本的には問題ないと思われます。しかし芍薬甘草湯は1日量に6gも甘草が含まれているため甘草を含有する漢方を併用する際は注意が必要です。

偽アルドステロン症や低カリウム血症、アルドステロン関連の生理学についてこれを機に復習してみてください。
ちょこちょこ関連知識を復習することで知識に幅と奥行きができてよいですよ!

使い分けをするとするならば、高齢者には麻子仁丸が良さそうです。

その他もサクッと解説します。

調胃承気湯:大黄甘草湯に芒硝(塩類下剤)が加わり、便を軟化させる効果が得られ、瀉下効果が増強されています。腹部膨満を訴える便秘症例に良いと考えられ、大黄甘草湯では不十分な場合に使うことがあります。

桃核承気湯:調胃承気湯に桃仁と桂枝を加えたものであり、駆瘀血効果が高く、月経痛や月経前症候群、頭痛、肩こり、腰痛、イライラ感の改善も期待でき、エキス剤では最も瀉下効果が強力であると言われています。

大承気湯:調胃承気湯から肝臓が抜けており、大黄の瀉下効果が緩和されないため、大黄の効果が強く出ると考えられます。また枳実・厚朴も含まれており、胃腸機能調節や腹部膨満の改善だけでなく、自律神経系の副交感神経を優位にする効果もあるとされているため、パーキンソン病などの便秘にも効果が期待できると言われたりもしています。

潤腸湯:麻子仁丸よりも硬い便に有効であるとされています。滋潤作用が麻子仁丸より強いですが甘草を含むので注意が必要です。ちなみに潤腸湯は分泌型の便秘薬(クロライドチャネル活性化薬)と類似のメカニズムを有し、排便を促進することが判明しています。機序は①クラロイドチャネル(CFTR)の活性化、②クロライドイオンがCFTRを通って腸管内腔に移動、③水がナトリウムとともに腸管内腔へ移動し、腸管の水分量が増加する、といった感じです。
わかりやすく言うと、アミティーザ®(ルビプロストン)と類似の作用機序です。

桂枝加芍薬大黄湯:通常の刺激性下剤で腹痛を訴えるような人に使いやすいマイルドな瀉下効果が期待でき、痙攣性便秘に有効であると言われています。

大柴胡湯:便秘に加え肩こりや不眠を訴えるようなストレスを感じている患者に良く効くと言われています。

乙字湯:痔疾による肛門痛があり、排便がつらい患者に使うとよいと言われています。

防風通聖散:肥満の患者が便秘を訴えるときに有効です。学生のときは防風通聖散は肥満とだけ覚えていましたが、今回より肥満患者の便秘にアップデートします!!

まあ実際の使い分けなどは医師の好みなどにもよるでしょうし、これらの漢方をみたら「この患者は便秘なのかな?」とイメージできるようになればいいのかなと思います。

どんな便秘なのか、便秘の原因などを考えて個々の患者に適切に対応することが一番重要かなと思います。

便の性状を評価するのは「ブリストル便形状スケール(BSFS)」が有名ですよね。

酸化マグネシウムなど普段よく見かける薬にも高齢者の場合、高マグネシウム血症など注意が必要ですし、便秘のガイドラインもあるくらい便秘は奥が深いです。うんち専門薬剤師がいたっておかしくないくらいです!!

余談でセンノシドとアローゼンについてですが、センノシドは12mg、アローゼンはセンノシド換算で1g中に10-20mgと幅があります。そしてセンノシドは1回48mgまで、アローゼンは1回1gまでと添付文書には記載があります。アローゼンについては調べるサイトにより含有量が違うので、医師等に情報提供する場合は10-20mgと幅があることを伝えるのがいいのかなと個人的には思います。

けいしゅけ先生が素晴らしい記事を書いているのでセンノシドについてはそちらも見てください。

ではまた!!