わたしだけの
今までずっと誰かのことばを借りて生きてた
父や母や先生や
あの子のようになりたくて
父や母や先生や
あの子に愛してほしくて
わたしの目の前に起こる事象たちを
わたしは彼らの眼鏡を借りて見ていた
彼らのことばを借りて発言し
彼らの感情を借りて世界を選び取っていた
そしたらだんだん体がおかしくなった
そしたらだんだん脳みそがうるさくなった
ずっと探していた
わたしはどこだ
満身創痍の体とうるさく怒鳴る脳みそ
何度も何度も死にたくなった
そしたらこの体ともこの怒鳴り声ともおさらばできるから
けどやっと気がついた
やっとやっとやっと気がついた
真似をするのをやめればいいんだ
父や母や先生や
あの子の真似をするのをやめればいいんだ
ただそれだけのことだった
急に視界が明るくなり世界がわたしにやさしくなった
見えるもの感じるもの
すべて誰の真似でもないわたしのものになった
あんなにボロボロだった体が軽くなった
あんなにうるさかった脳みそが静かになった
わたしは自分の殺意が好きだった
いまならわかる
それは誰のものまねでもなかったからだ
わたしの、純粋な、濁りのない、わたしから溢れたものだったから
だから手放せずにいた
殺意をなくしたらわたしはどこに行ってしまうんだって
けどだれかの真似をすることをやめたいま
わたしがふれる世界すべてがわたしのものだ
まるで赤ん坊みたい
わたしはひとつひとつの感覚を
見えるもの触れるもの感じるものひとつひとつを
しっかりと噛み締めている
わたしだけの世界
わたしだけの感覚
わたしだけのことば
わたしだけの夢
わたしだけの