貯めているお金を使うタイミングはいつなんだ。
お金を使うタイミングは、いつも「もっと先」があるように思えてしまう。子どもの頃から「将来のために貯蓄すること」を教えられてきたし、大人になってからも「備えあれば憂いなし」が頭のどこかにある。だから、使うことより貯めることに安心を感じてしまうのだ。
でも、ふと考える。
使いどころの将来って、いつなんだろう?
健康なうちにお金を使い切る。言葉にすると簡単だけれど、現実は難しい。老後の不安、予測できない出来事、もしかしたら100歳まで生きるかもしれない未来。そういう不安が、財布の紐を硬く締めさせる。だけど、その「何か」に備えている間に、使いたい瞬間がするりと過ぎ去ってしまうこともある。
お金を使うのは、意外と勇気が必要なのかもしれない。貯めることは安全だけれど、使うには決断がいる。ましてや、自分が本当に欲しいものに使うというのは、もっと難しい。それが大きな金額であればなおさらだ。
もちろん、全てのお金を使い切るなんて怖くてできないのだけれど、私はお金と上手に付き合ってみたいなぁとずっと思っている。
貯金も大事だけれど、そのお金が何かを生み出す瞬間に喜びを感じていたいのだ。
「物は歳を重ねたらいずれ手放す時が来るから、経験にお金を使いなさい」とよく言われてきた。
経験は形に残らないけれど、心の中に刻まれる。旅先で見た美しい風景、初めて食べた味に驚いた瞬間、大切な人と過ごした何気ないひととき。それらは、一度経験してしまえば、誰にも奪われることがない。
最近私が「最期」を考えるのは、何かを決めるためじゃなくて、ただ、今の自分をもう少し丁寧に生きるための目印にしているのかもしれない。先延ばしにしていたこと、しまい込んでいたもの、無意識に我慢していた小さな楽しみ。それらを少しずつ引っ張り出すために、「最期」を隣に置いているのかも。
人生の中で経験した感動や喜びは、最後の瞬間まで自分のものだから。たとえあの世に何も持っていけなくても、たくさんの経験を積んだ自分なら、「良い人生だった」と思える気がする。
経験をすることは、未来の自分への贈り物なのかもしれない。誰も持っていけないけれど、誰も奪えない。そんな贈り物を、お金をうまく味方につけてこれからも少しずつ積み重ねていきたい。