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【感想・紹介】インディゴの夜

DJやダンサーのような風貌の個性派ばかりが集まる渋谷のホストクラブ〈club indigo〉。カジュアルな雰囲気と個性派ぞろいのホストたちがウケて人気は上々だが、たびたび事件に巻き込まれ、オーナーの晶、ホストたちとともに店に持ち込まれる事件を追うことに……。

集英社文庫 インディゴの夜 裏表紙より

昔ドラマやってたような…?興味がない自分でも名前を聞くくらいだから評判だったんだろうなー。

という動機で手に取った一冊でした。

普段自分が選ばないジャンルの世界観だったので、すぐには読まず表紙のイラストからチェックしました。


うん、好み。

歌舞伎町をはじめ、繁華街やホストクラブの界隈イメージが某龍の付くアクションゲームくらいなので、イラストの主人公と思しき女性とホストたちがどんな事件をどのような切り口で解決していくのか、などなど想像していたら次第に楽しみになってきました。

物語を楽しめるか少しの不安とそれを上回る好奇心。

夜の世界に一歩踏み出す時の気持ちのままに。

しらんけど。

カクテルやビール、アルコール(飲めない方は炭酸とか)と一緒に読むのがおすすめです。

(存在忘れてぬるくなるかも)


オーナーの正体

特筆すべき機密事項のようですが、作品の超序盤で本業も副業も、副業を始めるきっかけも明らかになります。

ここで言いたいのは、オーナーの本質というべきでしょうか。

主人公の晶について第一印象は、結構ガッツで乗り切る場面があったし、グレていた頃のノウハウもあるし、仕事において男性的な面が強いのかな?という印象でした。

しかし、読み進めていくと割と面倒ごとに巻き込まれていくし、見捨てず励ましたり行く末を案じたりしています。

(これ、ホストを束ねる姐さんかと思ってたら、みんなの姉ちゃんだな。)

そもそもホストクラブのオーナーも、共同オーナーの塩谷に話を持ち掛けられて外堀埋められてますしね。

運命共同体として信念に反することは嫌うが、頼られると突っぱねられないガラが悪くてガッツのある後輩選ぶところは、塩谷さん自身も人間みあって気に入っています。

扱いがわからないといいながらおませな女の子の一方的な恋バナをさえぎらず、相槌うって話題を振ったりするところ。苦しんでいる人にも選択の瑕疵があったとはいえ、まず心配しているところ。

二足のわらじの片方が黒めグレー案件呼び込むし、人のために無茶もするし、男性より女性にモテてる(?)姉ちゃん。幸せになってほしいっす。

お前だったかもしれねぇ…

主人公の晶、共同オーナーの塩谷、〈club indigo〉のホスト達、事件の関係者、そして加害者と被害者。

各話でいろんな人生を歩んできた登場人物が描かれています。

一度目は読者として神の視点から、登場人物の役割や関係性を追いながら読んでいました。

読み返している時は各登場人物への親しみが加わっているので、もう少し視点が変わって、

もしかしたらあの時違う選択をしていたらここに立っているのは自分(知っている人)かもしれない。

という紙一重の「もしも」がよぎる中読んでいました。

ありえない。と思うことは本当にありえないのか。

自分の知る常識や前提が通用しない場所に迷い込んだ時。

対人において前提の良心が相手になかったら、善意が存在する世界観のまま行動していたら、被害者や被害者を助けるためにあがいて失う側になっていたのかもしれない。

加害側が生活のためにとか情状酌量の余地が無い悪意マシマシタイプが多いのも、渦中の救いのなさ、絶望感につながるのかなと思います。

だからこそ晶のヒロイックが強烈に際立つんですよね。

性善説と性悪説

ざっくり、性善説とは人間には生まれた時から善の素養があって、悪行は物欲やその他の欲によって生ずる後天的なもの。

性悪説は、性善説の対と言われがちですが少し違います。

生来本質は悪で、教育や修養で善なる行いができている。というのが性悪説です。

みんなもともといい人だけど欲が暴走するから犯罪に走るんだよね。というのと、みんな欲しいものを我慢したり、気に入らないことがあった時人をぶん殴ったりせずにいられるのはその人の努力や訓練のたまものなんだよという感じです。

愚かな行いをしたから悪なのか、善行をするから善なのか。

とはいえ、人はその場その場で違う立場になって意見が変わったり、本音と建て前を使い分ける多面性のある生き物です。

見た目だけではわからない。

だから、一面面白くて、一面怖いんですよね。



いろんな人と関われば関わるほど、いろんな価値観があることに気づきます。

双子でさえ育ってきた環境が同じでも考え方が違うので、そりゃ育った環境も違えば常識もズレが他人なら善悪の判断や金銭感覚など多種多様になります。

それぞれがそれぞれの都合で生きているこの世では、どこかで誰かとぶつかる日も来るでしょう。

でも、人生は続いていく。

性善説も性悪説も人間について一説であるように、善も悪も人間のすべてではありません。

正直、人生大きいことも小さいこともうまくいかないことの方が多いです。

そんな時は自分に寄り添いながら、晶のように「少しでも潔く」生きることが、その先に続く道を拓くのかもしれません。

白黒つけないと!と焦る時こそ、《indigo》という選択肢があることを思い出して。

今回読んだ本

インディゴの夜 加藤実秋 著
集英社 集英社文庫 ISBN 978-4-08-745058-3

こちらは加筆・再編集されているそうなので元の版も読み比べてみたいです。

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