作物が育つ養分を生み出すシステムを農地にもたらす栽培管理
有機農業の目指す姿は、施肥に頼らずに「作物を育てる養分を生み出すシステムを農地に再現する」ことを意識した栽培です。
土壌にそなわる機能を引き出す栽培について紹介します。
人間の関与のしかたで異なる農地の機能
農地に棲息している多種多様の生きものと、それらの生活の基盤となっている土壌、水、気象などの物理的化学的な環境は、全体として一つのシステムとして機能しています。
このシステムは、人間の関与の仕方によって大きく異なります。
農地と言えども、複雑で多様な関係が保たれている生態系(エコシステム)は、生物多様性とそこにそなわる機能において「健全」な状態です。
農地に野生の生きものが生き生きと生活できる環境が維持されていることは、農地にそなわる機能(生態系サービス)を発揮できる基礎条件であり、持続可能な食料生産の場としての本来の姿だと考えられます。
土壌にそなわる養分を生み出す機能
土は単に作物を支えているだけの存在ではありません。そこには多種多様な生きものが生活することで、時間をかけて形成された複雑なしくみと多様なはたらきがあります。
土壌が生成されていく過程は、作物の生育に適した土づくりの参考になります。そこには、人間の関与がなくても植物(作物)が必要とする養分を生み出すシステムが存在します。
生物による時間の蓄積が持続可能な栽培を保障する
不耕起栽培ではその年の管理が次年以降にも影響し、安易に効率化できない「生物による時間の蓄積」が見られます。
「作物を育てる養分を生み出すシステムを農地につくる」ことを意識した栽培こそが、施肥に頼らない持続的な栽培法だと考えられます。
この持続性のある栽培法こそが、私たちの暮らしやすい環境を保障し、人間にとっても大きな利益をもたらすと確信しています。
土壌にそなわる機能を引き出す栽培
作物にとって最高の条件(栽培環境)が必ずしも最適な条件ではありません。ここでの適正な生育に必要な養分量とは、少し養分が足りない状況で、作物が根を張り周りの環境と調和しながら生育する状態を言います。
根張りが良くなれば、その分利用可能な養分量も増加します。
土壌にそなわる養分を生み出す機能を高めるには、土壌生物の餌となり棲みかとなる良質な堆肥の施用、有機物の被覆、緑肥作物の刈り敷きが重要な役割を果たします。
もちろん、作物の種類によって生育に必要な養分量は異なります。少ない養分で育つ作物から栽培を始めることで、施肥に頼らずに減収を回避しながら土壌の機能を高める栽培が可能です。
土壌環境に適応した作物の種で栽培することで、作物(植物)の側からも土壌にそなわる機能をより引き出すことができます。