「RP重視」というマーダーミステリー作品の特徴づけに疑問を持つ制作者がその理由を語る
マーダーミステリーにおいて、しばしば「この作品はRP重視です」というような紹介のされ方をされます。
これ、どのような印象を受けるでしょうか?
僕としては正直「何が言いたいのかよく分からん」という感想になるのですが、今回はその理由について述べたいと思います。ちょっと急ぎ書くので、まとまりが悪くなってしまいそうですがご容赦ください。
まずは「ロールプレイ」の定義を整理する
そもそも「ロールプレイ」(以降RP)とはどういうことを指すのでしょうか。これはWikipediaのロールプレイングゲームのページの「ロールプレイングの意味」の項目が非常によくまとまっているので、以下引用します。
ロールプレイング(role-playing)とは、想像上のある役柄を演じることである。ロールプレイング(roleplaying)を英和辞典で引くと、役割演技と翻訳される。また、ロールプレイング(roleplaying)を英語で説明すると、その意味は「pretending to be someone else(他の誰かのふりをする)」となる。ゲームデザイナーのゲイリー・ガイギャックスは、「ロールプレイとは、想像上のある役柄を演じること」「自分が現在(または未来永劫)決してなることができない何者かを演じること」であるとしている。テーブルトークRPGでは、プレイヤーは、単なる無名の「戦士」や「魔法使い」ではなく、名前や仮想の人格などが付与されたプレイヤーキャラクターを担当する。ゲームによっては、「ライフパス」(出自や人生の遍歴を示す要素)や「性格」「属性」(あるいはシステムによっては「癖」や「趣味」といったところまで)といったルールにより、仮想の人格にシステム的な裏付けを与える工夫がなされる。同じ「戦士」であっても、豪胆な人物、細心な人物、明朗快活な人物、謎めいた影のある人物といった千差万別な個性を表現することにより、キャラクターは差別化され、一層生き生きとし、仮想世界での冒険の楽しみを増加させるのである。またプレイヤーが温厚で慎重な性格であるのにも拘らず、向こう見ずな戦士を演じたり、狡猾な魔術師を演じたりすることは、それがキャラクターに合致している限り、「上手なロールプレイ」であると見なされる。
長いですが非常に良いことが書いてあるので、一度読んでみてください。ここでのポイントは「演じる」「演技」という言葉です。
RP=芝居がかった表現のことではない
ロールプレイにおける「演技」の対象というのは、あくまで「役割(ロール)」になります。探偵であれば話を聞いて推理する、犯人であればなんとか逃れる、個人目標があればそれを達成すること。マーダーミステリーにおける役割、というのはそのようなものを指します。
ここで大事なのは、RPにおける「演技」というのは、ドラマや映画で役者がするような芝居がかった表現をすることを指すわけではないということです。それはRPの手法のひとつ、という位置づけであるのが正しいです。ですので、芝居がかった表現をしない人を「あなたはRPしていない」とするのは暴論になってしまいます。
ビデオゲームのドラクエを引き合いに出しますと、これはRPGですが、勇者という役割を演じるからそのようなジャンル付けがされています。決してコントローラーを握りながら芝居がかったセリフを言うわけではないですよね。(我ながら多少強引な説明ですが)
ここら辺の認識が違い「RPは芝居がかった表現のことを言うんだ!」という方にとっては「RP重視」という言葉がしっくり来ているのかもしれません。本当はRPというのは、プレイヤーがマーダーミステリーを遊ぶ際のかなり多くの行動や思考を指すのです。結局、ここらへんの認識の違いなのかなと思います。
「RP重視」と「推理重視」は背反ではない
どういうわけか「RP重視」という言葉の対義語的な意味合いで「推理重視」という言葉がしばしば使われるのを見受けられますが、僕としてはこれにも待ったをかけたいです。
RPと推理、これは粒度が異なります。先程も触れた通り、RPというのは役割を演じることであり、それには推理も包含されています。
腹落ちしない方のために言うと、例えば「犯人を見つけ出すための推理に命をかける探偵」の役が与えられた場合、その人のするべきRPは何になるでしょうか。推理をすること、ですよね。
つまり、RPと推理を背反のものとして扱うと、推理をする人のRPというのが理論上成り立たなくなってしまう、ということになります。
おそらく、RPと推理を対義しているとして扱いたい人は、後者を中の人が頭を使って考えている状態と考えているのだろうと思います。定義として、RPというのは中の人として考えるという内向的なアクションも含むものだと僕は考えています。
逆に考えてみる、「RP重視じゃない」って何?
マーダーミステリーのプレイヤーは、放っておいてもちゃんとRPします。というよりは、設定書を受け取って遊ぼうとした瞬間から、誰もがロールプレイヤーであり、それはある種マーダーミステリーで遊ぶ上での必然、だとも言えます。
ですので、逆にRPを重視しないと言われてたとして、それがどういったものなのかが僕にはいまいちピンと来ないのです。少なくとも、僕が今まで遊んでいたマーダーミステリーで「この作品はRPを重視していないな」と感じたことはありません。
ただ、ちょろっと聞いた話ですと「このマーダーミステリーにRP要素はありません」みたいなのもごく一部にあるようです。この場合も、先程説明したRPの定義の理解が僕と異なるんじゃないかな、と考えています。中身見てないのでなんとも言えませんが。
「RP重視」は逃げの言葉になっていないか
これは穿った見方(誤用であると指摘される方の意味)かもしれませんが、どうも「RP重視」という言葉にはプレイヤーが楽しもうとする姿勢におんぶにだっこしたいというような、ちょっとずるい何かを感じてしまうのです。
ゲーム性の部分が薄いので、プレイヤーが率先してRPをするくらいでしか楽しめる要素がありません、というのを「RP重視」と言うのだとしたら、それはもういっそおもんないマダミスと言ったほうが的を射てるんじゃないかと思います。
決してそうではなく、逆にRP重視という言葉の真意が「良いキャラクター、良い物語、良いゲーム性で作りましたので、きっとRPが好きな方に楽しんでもらえるはずです!」というのであれば、それはもう素晴らしいことなので、わたしの作ったマダミス最高やでと言った方がよいでしょう。
「〇〇重視」というのは個人のプレイスタイルを示す言葉だ
僕の考えですと、○○重視というのはプレイヤーの傾向を示すための言葉であり、作品側から言う言葉ではないです。
ここでまたビデオゲームを引き合いに出すと、ダークソウルという高難易度で有名なアクションゲームは、RP要素があります。例えば極端な例ですが、ベルセルクの主人公ガッツのような武器や見た目にして、ガッツのように振る舞うこと、これはプレイヤー自らこのゲームにおいてガッツという役割を設定し、それを演じることを重視しているといえます。これは楽しみ方のひとつであり、決してメーカーのフロム・ソフトウェアが「このゲームはRP重視です」と言っているわけではありません。(こっちの引用は分かりやすいのではないだろうか)
とはいえ、RP重視というのは「俺は全力でマーダーミステリーを楽しむぜ」くらいのニュアンスとして捉えるべきで、そこまでその人の傾向が分かるような言葉でも無いのかなと思っています。
一方で「推理重視」というところまでレイヤーを変えると、「僕は推理重視のプレイスタイルなので、探偵役やってみたいです」とか言えますね。おお、これは我ながらめちゃくちゃしっくり来た。
結論:プレイヤーに何を求めるのか、具体的な言葉に言い換えよう
結局何が言いたいのかというと、「RP重視」という言葉は非常にふわっとしており、傾向を示す言葉としてはあまり意味がないので、もっと具体的に何をプレイヤーに求めているのか、どのようなプレイヤーが向いているのかを明示してあげた方が良いんじゃない? ということになります。
例えば「芝居がかった演技をすることでより一層楽しめます」とか、「犯人を見つけるための難易度は高く設定されており、情報量も多いです」とか。
そうした方が選ぶ側からしてもイメージがつかみやすく、ミスマッチが防げるのでお互いにとって良いんじゃないかと思います。
もしその作品が、本当にプレイヤーが楽しめるものを作ろう、として生み出されたものであれば、「RP重視」というよく分からない言葉で飾る必要はありません。きっとプレイヤーの方から「RPが楽しかった」という言葉を聞けることでしょう。
今回は以上です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?