クリエーターにとっての「ブロックチェーン」

2020年7月10日の朝日新聞朝刊「文化・文芸」欄に、「note」についての記事が掲載されていた。

「note」には広告もアクセスランキングもない。書き手が作品を有料にするか無料にするか決められ、単発や定期購読、投げ銭など様々な課金機能がある。(略)サービス開始からディレクターを務める三原琴実さん(35)は「アクセス数に過度にとらわれないことで多様性が生まれ、作者に利益が還元されることで創作を続けやすい環境になっている」と話す。

(朝日新聞 2020年7月10日付朝刊)

課金などと言われても、誰にも読まれない記事を嬉々として投稿し続けている私には全く関係ない話だが、まぁそれでも、ネット技術によって、クリエーターが作品発表の場とともに作品に対する正当な評価・利益を得られるというのは、とても良いことなのだろうと(他人事ながら)思うわけである。

課金と無縁な私は、実際に「note」がどういう仕組みでクリエーターと購入者を(金銭的な意味で)仲介しているのかは知らないし興味もない。そういった課金などはやっぱり、最近(でもないが)話題の「仮想通貨」や「ブロックチェーン」などの技術が使われているのだろうか?

とはいえ、技術的なことにも興味がないので、実際のところ、それらがどういうものなのかよくわかっていない。そんな情報はインターネット上…それこそ「note」にも数多転がっているのだろうが、やっぱり読む気はない。

技術的な理解を省略して、純粋にそれらの技術が課金やコンテンツ管理に使われている(あるいは使える)のかを知るために、オリバー・ラケットとマイケル・ケーシー著(森内薫 訳)『ソーシャルメディアの生態系』(東洋経済新報社。以下、本書)を開いてみた。

重要なのはこのブロックチェーンという仕組みが、500年ものあいだ人類を悩ませてきた問題を ーつまり、相手が情報を公正かつ正直に共有しているかどうか信頼できず、いわゆる「信用できる第三者機関」に価値の交換を仲介させざるをえなかったことをー 解決した点だ。これは進化上、きわめて大きな飛躍と言える。現在、こうした交換は ーお金によるものであれ、ビデオクリップや歌や独自な芸術作品など、収益化が可能な何らかの形のデジタル資産によるものであれー ピアトゥピアで直接的に行うことが可能だ。世界の反対側にいる赤の他人とも、価値を交換することができ、そのさいにどちらの側も、相手がデジタルに通貨を偽造したり、歌や芸術作品をひそかにコピーしたりよその誰かとこっそり共有したりしていないか確認する必要がないのがブロックチェーンだ。

クリエーターにとっての「ブロックチェーン」

本書によると、ブロックチェーンによって「コンテンツの使われ方や収益方法を、製作者自ら決定できる」というのである。

我々は「見たいものを自由に見ている」わけではない

この先の引用に当たり、まずは前提の説明を。
何かコンテンツにアクセスする場合、GoogleやYahoo!などの検索サイトもしくはSNSを経由することが多いが、我々はそれらで表示されたコンテンツを「自らの意思で」選択していると思っている。何かコンテンツにアクセスする場合、GoogleやYahoo!などの検索サイトもしくはSNSを利用することになるが、我々はそれらで表示されたコンテンツを「自らの意思で」選択していると思っている。
確かに表示されたものを選んでいるのは自分自身だが、選択肢を与えているのはプラットフォーマー側である。で、プラットフォーマーは「検閲」と「選択」によって、ユーザーの選択肢をコントロールしているのである。そして、「プラットフォーマーの収入源は、主に広告料」である。ということは、プラットフォーマーによって選択されるコンテンツは、つまり…

勝手に入り込んでくるバナー広告や見たくもないのに見せられるテレビコマーシャルは、これまでいつも、情報やエンターテインメントの消費にかかる一種の税金のような存在だった。(略)ある意味、社会はつねに自分たちが受け取るコンテンツの「代金を支払って」きたようなものだ。ただそれが、隠された、不平等な分配の仕方で行われていただけだ。もし私たちがこのパラダイムを崩し、読者や視聴者に、自分が受け取ったコンテンツに対して直接料金を払って欲しいと単純に頼むようにしたら、いったいどうなるだろう?

ブロックチェーンによるライセンスモデルの転換

著者は、これらを解決する技術こそが「ブロックチェーン」だという。

重要なのはこのブロックチェーンという仕組みが、500年ものあいだ人類を悩ませてきた問題を (略) 解決した点だ。これは進化上、きわめて大きな飛躍と言える。現在、こうした交換は ーお金によるものであれ、ビデオクリップや歌や独自な芸術作品など、収益化が可能な何らかの形のデジタル資産によるものであれー ピアトゥピアで直接的に行うことが可能だ。世界の反対側にいる赤の他人とも、価値を交換することができ、そのさいにどちらの側も、相手がデジタルに通貨を偽造したり、歌や芸術作品をひそかにコピーしたりよその誰かとこっそり共有したりしていないか確認する必要がないのがブロックチェーンだ。
(略)
これはソーシャルメディアにとって何を意味するのだろう? (略) この新しいコミュニケーション構造における力関係を再構成し、さらに、中央集権的な組織がユーザーの利益や活動を統制する力を減少させる。 (略)いいかえれば、コンテンツの使われ方や収益方法を決定するのが、フェイスブックではなく、コンテンツの制作者である私たちになるということだ。

ライセンスモデルの転換について、著者は「2つの道」を提示している。
1つ目は、「コンテンツの制作者に代金を支払う新しい方法を作る」こと。
2つ目は、「デジタルコンテンツ制作者にとって、彼らだけが、永久に自身の作品の所有者であると証明可能になった」こと。

製作者が購入者から直接代金を受け取る

著者によると、『とりわけ重要』な点として、『少額決済を簡易化することだ』と指摘する。現状では、例えば一つの記事に対して数十円の代金を支払うのは事実上不可能である。なぜなら、『仲介者に支配された非効率的なバンキング・システムやクレジットカードのシステムでは、少額決済は利益を生むことができない』からである。

そこで今、イノベーターたちが着目しているのが、仮想通貨の貯金機能をもつ特別なブラウザ拡張機能をあらかじめ組み込んでおくことだ。
そうすれば、パブリッシャーとあらかじめ何かの取り決めを交わしておくことで、コンテンツに対する少額の支払いを、仲介抜きで平穏に行うことができる。こうした商取引が数十億単位で積み重なれば、仮想通貨による少額決済は、広告に頼らずとも実行可能な収益源をメディア産業に提供できる。それは、不要な広告を避けようと全力を尽くすコンテンツ消費者と、補償を求めるコンテンツ制作者とのあいだに、より健康的な関係を打ち立てることができるはずだ。
(※太字は引用者)

ブロックチェーンによるコンテンツの保護

さて、コンテンツ制作者にとって、少額決済で手軽に購入してもらえるようになったが、ここで新たな心配事が出てくる。それは、コンテンツが「デジタル」であるが故、「コピーや改竄、無断配布が容易にできてしまう」ことである。
この心配事に対して著者は、ブロックチェーン技術に加え、

仮想通貨のプログラマビリティや、スマートコントラクトの名でしられるソフトウェアベースの法的同意措置を利用できるようになったことで、コンテンツ制作者は自分の作品を自分で管理し、自分の指示にもとづいてコンテンツを使用させられるようになる。このようにデータの身元をはっきりさせることで、アーチストは自分たちの作品を真の「デジタル資産」にできる。

と、デジタル技術によって解決できると説明する。

ブロックチェーンによって人々はコンテンツを、独立したデジタル資産として ーいいかえれば、ソフトウェアを通じて直接作者が管理可能で、自動的な仮想通貨の支払い契約に結びついている作品としてー 扱うようになるだろう。コンテンツは、買って、所有するものになるのだ。スマートコントラクトによって禁止されていれば、コンテンツの複製をすることはできない。これはデジタル環境における著作権管理において、長年用いられてきたライセンスモデルをひっくり返す可能性がある。
(※太字は引用者)

コンテンツ制作者が自分で管理できる世界が来ると

さて、そうしたデジタル技術によって、製作者がコンテンツの収益と使われ方の管理ができるようになる時代が、そこまで来ている。

こうした環境下で、人々はどのように行動することになるのだろう? ひとたびデータのコントロールを手にしたら、個々人は、現在の大手メディア企業やブランドオーナーと同じように、自分のコンテンツを独占し、使用を制限するようになるのだろうか。そうかもしれない。技術の発達により、ユーザーが望めばそれはできるようになるはずだ。

こう疑問を呈した著者は、しかし、そうはならないだろうと予測している。

排他的な姿勢のままでいてはおそらく、もっと広範でオープンな姿勢の競争者に蹴散らされてしまうだろう。価値は、あなたが自身のマテリアルやデータを自身で管理するところから生じるが、コンテンツに関心を集める競争に打って出るなら、ある意味コンテンツを手放す必要が生じてくるのだ。

果たして、どういう世界が来るのだろうか?

と、投げやりな感じで終わらせてしまう私は、結局、収益とか考えたこともなく(そんなものが得られるとも思ったことはない)、嬉々として誰にも読まれない記事を投稿しているだけで、十分楽しいのである。


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