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ひどいことばかりが起こるのに、後味すっきり~映画『思い立っても凶日』~

人はどうして、覚えていたい事を忘れてしまって、忘れてしまいたい事ばかりを覚えているのだろう。
人に言われた事、された事。
言ってもらえなかった事、してもらえなかった事。
人に言ってしまった事、してしまった事。
言ってあげられなかった事、してあげられなかった事。
悔しさ、悲しさ、後悔……

映画『思い立っても凶日』(野本梢監督、2023年。以下、本作)は、実に「映画らしい手法」で観客の胸をチクリとさせ、実に「映画らしい手法」でそれをポジティブに転化させてくれる。

誠(田村魁成)が高校生のとき、ひょんなことからキャプテンの未生みお(村上由規乃)に頼まれ、女子フットサル部の引退試合の記録係を手伝うことになった。
そのときの未生の采配によって、試合に出られずに悔しい思いをしていた秋保(田中なつ)に誠は励ましの言葉をかけるものの、未生に遮られ秋保とは微妙な空気のまま別れてしまう。誠にとって「凶日」であった。
誠は卒業してからも彼女を想い続けていたのだが、街で彼氏らしき男性といるのを目撃してしまい、"秋保奪還計画"と題して特技・ティッシュの早取りでギネス記録を目指すため、謎のトレーニングに励む。
(中略)
秋保を励ます言葉が未生を傷つけ、未生の采配が秋保を傷つけた。
誠・未生・秋保は互いにあの日を乗り越えるべく、模索をしていく。

本作パンフレット「Story」(抜粋)

「映画らしい手法」とはつまり、人物やエピソードのカリカチュアが見事だということで、人間誰しも「ついてない日」というのがあるが、それがこんなにも(ある意味「運良く」)重なる「凶日」を描くことによって、まさに「"絵に描いたような"ついてない日」を表現している(エピソードたちがまた、そんなに深刻でないのも見事)。
そんな事が立て続けに起こる人物たちが、「映画」というものの中で「それでもタフに生きている」ことに観客は勇気づけられる。

とはいえ、本作はただただ主人公に不幸なことが起こるというだけの物語ではなく、ちゃんと「心の痛み」という本筋がとおっている(それが観客の胸をチクリとさせる)。
それは「相手に投げつけてしまった言葉・してしまった行為」に対する後悔で、実に「映画らしい手法」でそれらが回収されるラストシーンは、本当に見事だ。

アフタートークにゲスト登壇した俳優の芋生悠さん(本作には出演していない)が、『ひどいことばかりが起こるのに、後味すっきり』(このとおりの発言ではなく、私の意訳)と感想を述べていたが、まさに、上映前まで嫌な事を引きずっていた観客も劇場を出る時にはスッキリ晴れやかになれる、実に「映画らしい映画」だった。

メモ

映画『思い立っても凶日』(再解釈ロードショー)
2024年7月30日。@シモキタ・エキマエ・シネマK2(アフタートークあり)

表題の写真、左からゲストの芋生悠さん、本作の主演兼プロデューサー・田村魁成さん、野本梢監督。

劇中に登場する「ティッシュ早取り」。
全然知らなくて「何だかくだらない(失礼)けど、ギネスなら記録認定してそうだな」とぼんやり思っていたのだが、アフタートークを聞いて驚いた。
2024年7月現在のギネス記録保持者は、俳優の橋本環奈さん(2021年達成。記録は1分間で157枚)なのだそう。
で、アフタートークに登壇した主演であり本作プロデューサーでもある田村魁成さんは、橋本環奈さんのマネージャー氏に『ティッシュ早取りの映画を作りました』とメールしたとのこと(ちなみに、本作は「映画らしい手法」でそれらしく見せているが、実際は両手を使う「ズル」をしているとのこと)。

ちなみに、上述のとおり、本作主演の田村魁成さんはプロデューサーも兼ねている。最近、俳優がプロデューサーや監督を務める作品が出てきているが、芋生悠さんも自身の主演作で監督を務め、2025年の公開を目指してクラウドファンディングを始めたそうである。


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