先日(2020年)、テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで優勝し、それと併せて、試合ごとに着けていたマスクも話題になった。
大坂選手は、その前に出場したウエスタン・アンド・サザン・オープンの準決勝でも、棄権を表明し話題になった(その後、大会側の対応により撤回)。その際、「私はアスリートである前に一人の黒人女性です」と発言して物議を呼んだ。
本稿では発言自体の是非ではなく、「黒人女性」と発言したことを、あえて深読みしてみる。
たぶん自然な流れで「黒人女性」と発言したのだと思うが、もしかしたら、そこには「ブラックフェミニズム」への含みもあったのではないだろうか。
つまり、「BLMからも、(#MeTooに代表される)フェミニズム運動からも、黒人女性は排除されている」という抗議の意味もあったのかもしれない、というのは考え過ぎだろうか。
ブラックフェミニズムとは
現代思想 2020年三月臨時増刊号『フェミニズムの現在』(青土社)に掲載された、藤原和輝氏寄稿「インターセクショナル・フェミニズムから/へ」から引用する。
我々が「BLM」を考えるとき、無意識のうちに、被害者は「黒人男性」と思ってしまっていないだろうか?
「#MeToo」の記事を目にしたとき、ハラスメントを受けている「白人女性」を思い浮かべてしまっていないだろうか?
もしそうなら我々だって、(たとえ無意識だとしても、いや、無意識だからこそ)差別の加害者側に立っているのではないだろうか、と自問してみる。
日本人とインターセクショナリティ
BLMと関連付けるとどうしても日本人とは無縁な印象を持ってしまうが、では本当に無関係なのかというと、そうではない。同寄稿の続きをさらに引用する。
ということは、日本人だって、「差別やハラスメントの被害者であるにも関わらず、社会的要因によって無自覚のうちに排除されてしまっている」、つまり、「気付かないうちにインターセクショナリティの被当事者になってしまっている」可能性があるということだ。
(2021.04.07 追記:最近、COVID-19に端を発した「アジア人へのヘイトクライム」が問題になっている。アジア人女性についても「インターセクショナリティ」の問題は顕著になっていくのかもしれない)
注記:本稿について
本稿は、以前BLMについて書いた拙稿『2020年5月にアメリカで起こったことを SNSの観点で見てみる』から、「こういう「社会運動」に関するような文章はあまり書きたくないし、別記事にするほどの分量でもないので、「参考」ということで」と載せていた「ブラックフェミニズム」引用部を転記/加筆したものです。
なお、その拙稿や本稿でも書いたとおり、BLMはとてもナーバスな問題であり、自身の狭い知識や経験、一時の正義感だけで不用意に発言すると、そのことが逆に差別の肯定/助長と捉えられてしまう可能性があります。そうならないよう、様々な情報や意見を調べて、まずは、自分なりの意見/意思を確立していただきたいと思っています。
本稿がその一助になれば幸いです。
(2021.12.23 追記)
Web版「現代ビジネス」 2021年12月23日配信に社会学者・下地ローレンス吉孝氏の、『現代社会の最重要概念「インターセクショナリティ」をご存知ですか?』という寄稿文が掲載されています。とても参考になります。