2023-24 年末年始 酒。読書。観劇。それだけ in 京都
私の「note」のプロフィールは、『酒。読書。観劇。それだけ』とそっけない、というか投げやりな一文だが、それで充分説明に足りている。
たとえば、2023年12月28日~2024年1月3日にかけての京都にて……
2023年12月28日(初日。お店の予約に奔走)
12:30 東京駅
今年から年末年始の「のぞみ号」が全車両で指定席になった(つまり自由席がなくなった)ので少しは余裕があるのかと思っていたら、ワゴンサービスがなくなった(これも今年から)せいで、ホームの売店が大混雑。缶ビール1本を買うのに大行列に並ぶ……
ビールを持って指定席に座ったところで新幹線が出発。危うく乗り遅れるところだった。
早々にビールを飲み干し、持参した『少女マンガはどこからきたの? 「少女マンガを語る会」全記録』(青土社、2023年)を読む。
この「少女マンガを語る会」は一般のファンではなく、(あの「トキワ荘」の唯一の女性住人といわれている)マンガ家の水野英子氏を発起人とし、戦後、少女マンガを起こし発展させた少女マンガ家や関係者の皆さんの集いである。といっても、ただただ昔を懐かしむ会ではない。
巻頭の「ごあいさつ」に水野氏はこう寄せている。
この本は「語る会」のメンバーの他にゲストの方々を交えて、1999年から2000年にかけて開かれた4回の座談会の書き起こしで、つまりは当時渦中の人であった方々による「公式な歴史的資料」ということになる。
昭和45(1970)年生まれの男としては、第1回目の会の話はあまり馴染みがないものの、掲載されているマンガの絵柄には懐かしさを覚える。
で、何故上記で水野氏が指摘するように『20年間の一番重要な時期の記録が、ほとんどのこされていない』かというと、座談会にあるように、つまりは「出版社・編集者・マンガ家が著作権法はあったものの、その意識が著しく欠けていた」ということだ。
原稿が出版社によって焼却・断裁されていたり、マンガ家も訪れたファン(当時は掲載誌に作者の住所が堂々と載っていた)に、生原稿を切ってサインをして手渡していたりということで、原稿が残っていない、残っていても、連載数話分がないとか、数ページ欠けているということで復刻版が出せない(出しにくい)ということで、だから、『世の中に勝手な解釈や間違いが流布されていた』のである。
夢中で読み耽っているうちに、まさか乗り過ごしてしまったのではと不安になる……と、タイミングよく「まもなく京都です」のアナウンス。
もうほとんど定宿と化している「チェックイン四条烏丸」にチェックインし、荷物をほどき、デスクにパソコンと本を置いてWi-Fiの設定をして、セッティング完了。時刻は16時前。
部屋を出て「和鉄板ぞろんぱ」へ。
まだ仕込み中の時間だが窓から店内を覗くと、店長が作業しているのが見える。軽く窓を叩くと店長が気づいて入り口まで来てくれる。手に何か持っている。
「(今日)忙しい?」
「今日は満席です(と、持っていた「本日満席」の紙を見せる)」
「明日(29日)は?」
「明日も明後日(30日)も満席です」
「……大晦日(31日)は?」
「21時過ぎなら、1席空いてます」
「じゃあ、そこ」
「わかりました。大晦日お待ちしてます」
年末年始の京都の賑わいは、年々激しくなっている。
昨年末も飛び込みでの入店は厳しかったが、どうやら今年はそれ以上のようだ。
ということで、慌ててお店の予約に奔走。
四条通から室町通を少し上がった「大八寿司」に行く。開店準備中だった大将の奥様が気がついてくれる。
「今日は満席なんですよ」
「明日は空いてますか?」
「(大将と相談して)17時半なら」
「じゃあ、明日の17時半に来ますので、よろしくお願いします」
室町通を下がって、「串鉄板ぞろんぱ(和鉄板の姉妹店)」に行く。店内を覗くと「ちょんまげパスタ侍」が仕込みをしているが、こちらに気づいてくれない。諦めて、また室町通を上がり、「五黄の寅」に向かう。
16:30 五黄の寅
毎日15時に開店するこのお店。
入り口側の座敷は、どこかの会社の納会らしく団体さんが賑やかに飲んでいる。
奥のカウンター席は空いているので、迷わず着席。
楽しそうに飲んでいる団体客が羨ましい。
コロナ前は、私の会社も午前中に大掃除をして、午後から納会だった。
今はそれも無くなって、午前中に大掃除をして、"半ドン"(懐かしい言葉)になった。
「えっ、じゃあ、そのまま京都に来たんですか! どんだけ、京都に来たいんですか!」
現店長が呆れる。
それにしても、団体客の「飲み放題」は凄まじい。カウンター越しの流しには、洗っても洗っても、次から次へと飲み干したグラスが置かれる。
その間に、店員さんが段ボール箱から新しいグラスを出し始める。
「年末に向けて、グラスの補充です」
「まぁ、酔っ払い、すぐにグラス割るしね」
「いやぁ、ボクら(店員)もよく割りますし」
その会話を聞いていた現店長が、「イライラしても割りますから」と冗談を言う。
17時過ぎ、団体客退店。
少し落ち着くのかと思ったら、ここからが本番だった。
次の客のためにテーブルを片付ける。その間にも予約客ばかりか飛び込みの客も入店し、ひっきりなしに問い合わせの電話が鳴る。
出勤してきた前店長・アカリさんも最初からフルパワー。
「アカリ、今から15分、真剣モードに入ります」
わざわざ私に宣言する。まぁ、声を掛けるなということだろうと、既に切り替えていた日本酒をちびちび呑みながら、作業を見守ることにする。
飛び込みの客や電話での問い合わせでも、このお店はとにかく引き受けようとする。
入れる店も凄いが、1時間弱で退店と予め告げられても入って来る客も凄い。それだけ、今日はどのお店も予約で満席だということだろう。
昨年末には、「30分だけなら」と告げられた4人組がそれでも入店したのを目の当たりにした。
18時半前に退店。
そこから「串鉄板ぞろんぱ」に行き、既に開店している店のドアを開ける。
「今日、満席なんですよ」
「いや、予約をお願いしたいんですけど。1月1日は、何時なら入れます?」
「(開店から)18時半までか、20時以降なら」
「じゃあ、20時に来ますんで、よろしくお願いします。良いお年を」
よかった。これで、お正月の寒空の中、お店を探して彷徨わなくて済む。
19:00 ひっとぽいんと
「うち、明日、お客さんと『闇鍋パーティー』やるねんけど、来る? 条件は、とりあえず何でもいいから、食材を1つ持ってくること。それを鍋に入れて食う」
……いや、遠慮しておこう。明日はもう「大八寿司」を予約してあるのだから。
ふとスマホを見ると、Yちゃんからメールが来ていて「年末は忙しくて京都に行けない。良いお年を」とのこと。残念だが仕方がない。こちらも「良いお年を」と返信。
帰りに少し遠回りして、「ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店」を覗くが、どうもいっぱいのようだ。後で来ようとホテルで休憩しているうちにいつの間にか寝てしまっていて、気がつくと、日付が変わっていた。ホテル備え付けのパジャマに着替え、ちゃんとベッドに入る。
2023年12月29日(2日目。酒と映画)
5時半起床。
6時過ぎにホテルの大浴場へ。すでに先客が2人。皆、朝が早い。
このホテルは、コーヒーやジュースの無料サービスがあるのでそれをいただきながら、本稿をここまで書き進める。
10時半過ぎにホテルを出て、細い通りを適当に曲がりながら北へ向かう。
11:30 カプリ食堂 Verde
今出川通を少し下がった御所西の住宅街にある、先日5周年を迎えた「カプリ食堂 Verde」、開店時間きっちりに入店。
「ああ、もうそんな季節ですか」
オーナーのようへいさんが笑顔で迎えてくれる。
私は開店当初から年末年始にこのお店を訪れ、他愛ない話をするのを楽しみにしている。
繁華街から外れた住宅街にあるお店は、お客さんもまばらで、ゆったりした時間が流れている。
「昨日はずっと満席だったんですけど、今日からはボチボチってとこですね。年末年始、ずっとランチ・ディナーやってるんで、入れるお店がなくて困ったらウチの店に来てください」
ビール1杯、ハイボール3杯飲んで、13時過ぎに退店。
今出川通を東に歩く。右手はずっと京都御苑、左手はずっと同志社大学で、ふと『ニ十歳の原点』(新潮文庫)の高野悦子さんは、同志社大学に通っていたのだと思い出す。
このまま東へ向かい、鴨川を超えると今度は京都大学のエリアとなるが、私はそこまで行かず、寺町通を超えたところで北上し、出町枡形商店街に入る。
昔ながらの商店街が年末ということもあり、いつも以上に賑わっている。その商店街の一角にあるのが、出町座。
書店を併設した映画館で、まず自動券売機でチケットを買った後、受付で観たい映画を告げて座席を選ぶ。
上映開始までの時間つぶしに鴨川まで歩く。
ここは鴨川(加茂川)と高野川が合流する「鴨川デルタ」でお馴染みだ。
名物の飛び石を子どもだけでなく大人も飛び越えている。さすがにオヤジ一人で飛び石というのは恥ずかしく、私はただ眺めるだけに留め、出町座に戻る。
13:55 映画『うかうかと終焉』(@出町座)
映画『うかうかと終焉』(大田雄史監督、2023年)を観る。
架空の地方都市の100年続いた学生寮が終焉を迎えるという話は、どこか京都大学吉田寮を想起させる(実際、京大生の大田監督は吉田寮の寮生ではなかったが、頻繁に寮を利用していたらしい)。
別稿にも書いたが、最終盤に白いヘルメットと角材で野球をするというエピソードがあり、それが高野悦子さんらが暮らした時代のヘルメットとゲバ棒とダブり、時の流れを強烈に感じた(劇中の寮は100年続いたとあり、だから高野さんの時代は、寮が出来て廃寮になるまでのちょうど中間点になる)。
出町座を出て、鴨川の川べりを歩く。犬の散歩、ジョギング、マラソン、ただ川を眺めているだけの人……色んな人とすれ違う。
ホテルに向かう途中、ふと思いついて錦市場を通ってみる。
想像以上、いや、想像通りの混雑ぶり。途中、何度も立ち往生してしまう。
ホテルに戻り、少し休憩して大浴場に入り、「大八寿司」に向かう。
17:30 大八寿司
「昨日は仕事納めの人が多くて満席だったんですが、今日は余裕がありますから、ゆっくりしていってください」
大将が笑顔で迎えてくれる。
開店直後のお店の客は私一人。
寿司をつまみにお酒を飲みながら大将と話しをする。
以前は年末年始も休まず営業していたそうだが、「この頃は、年もとって、体がキツくて、休むことにしました」。
ふとスマホを見ると、Yちゃんからメールが来ていて「大阪・難波までなら何とか行けそう」とのこと。こんな私のためにわざわざ時間を作ってくれるなんて、感謝しかない。ということで、明日は難波で昼飲み決定。とりあえず「カプリ食堂」に通うことは回避できそう。
18時半を超えたところで予約のお客さんが来店し始め、19時を超えると、ひっきりなしに外国人たちが飛び込みで入って来る。日本人は、18時、19時ときっちりした時間が好きだが、外国人もそうなのだろうか?
19時半、お店も忙しくなってきたので、お店を出る。
20:00 ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店
昨日行けなかった「ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店」に行くと、ちょうどお客さんが帰ったところか何かで、運よく入店させてもらえる。
おでんをつまみに飲み直し。
目の前には日本酒の一升瓶が並んだ冷蔵庫があり、ビール片手にどのお酒を飲もうか思案していると……
「鳴海」ならぬ「にゃるか」。一瞬、酔って読み違えたのかと思ったが、本当にそう書いてある。猫の絵まで付いているから、間違いない。
ということで、「にゃるか」を頼み、猫つながりで「にゃんぺん」を注文。
程よく酔って、21時に退店。早めに就寝。
2023年12月30日(3日目。大阪で飲む)
6時起床。いつものとおり、大浴場に行く。
本稿を書き進めるうちに9時になって洗濯機が使えるようになる。
洗濯が終わるまでの間『うかうかと終焉』の感想文を書き、投稿。
Yちゃんから「所用で1時間ほど遅れます」とメールが届く。
ベッドでごろごろしながら『少女マンガはどこからきたの?』を少し読み進めるが、このままだと寝落ちしてしまって遅刻するかもしれないと思い。早めに出ることにする。
待ち合わせは南海難波駅なので、阪急京都線で大阪梅田駅まで行き、地下鉄に乗り換えるのが良いと思うが、阪急から地下鉄の乗り換えが大変(人の多さとか……)だと思い、日本橋を目指す。これなら、阪急線内の駅で乗り換えるだけでいい。日本橋から難波まではそう遠くはない。
特急(といっても特急券は不要)を利用すれば1時間弱で着くが、時間に余裕があるので、各駅停車に乗る。
長い乗車時間の間、宮下奈都著『ワンさぶ子の怠惰な冒険』(光文社文庫、2023年)を読む。
「あとがき」にあるように、『前作にあたる『神様の遊ぶ庭』(光文社文庫、2017年)』の続きになるが、前作と今作の間の宮下家の暮らしについては、福井新聞の連載をまとめた『緑の庭で寝ころんで 完全版』(実業之日本社文庫、2020年)に詳しい。
途中で乗り換えつつ夢中で読んでいる間に日本橋に到着。なんばまで適当に歩くが、14時過ぎの飲食店はどこも賑わい、行列になっているところも多い。
ふと思いついて、以前行ったことがある「鉄板神社 総本店」の前を通ると、カウンターに空席が見えた。
14:45 鉄板神社 総本店
で、南海線の難波駅で合流したYちゃんと、そこに入り、生ビールと「おまかせコース」を注文。このコースは、客がストップを掛けるまで店員さんが状況をみながら様々な鉄板焼きを出してくれる。たとえば、こんな感じ。
京都に来てからお店をハシゴできず、従って酒量も多くなく、だからよく寝ているせいか、今までにないくらいに食が進む。Yちゃんもビックリ。
「いつもは、ずっと飲み続けてて食べなかったのに。こんな食べるの初めて見た!」
Yちゃんはずっとビール。私はビール1杯で焼酎のロックに切り替える。その焼酎をおかわりするのに「ロックおかわりで」と言って思い出した。
以前このお店に来た時、焼酎のロックを注文した私に店員さんが「ヤザワ(恐らく矢沢永吉氏のこと)ですね」と応えたのだ(この時、別の店員さんに「ヤザワおかわり」と言っても全く通じなかった)。
そんなことをYちゃんと話しつつ、酒と料理が進む。
だんだんと皿に鉄板焼きが残るようになったのを見計らって、店員さんが「一旦ストップしときましょうか?」と声を掛けてくれ、それに従う。
で、結局そのまま完全ストップし、〆にオムライスを注文。
年長らしき店員さんが、目の前でオムライスを作ってくれていた若い店員さんのことを指して、「コイツ、"ハルオミ(仮名)"ってゆうんですけど、だから、彼が作ったオムライスは、"オミライス"っていうんです」。
ホントかウソかわからない紹介に"ハルオミ(仮名)"君は苦笑する。
それをきっかけに少し話をすると、どうやら"ハルオミ(仮名)"君はイジられ体質のようだ。
Yちゃんが化粧を直しに行ったので会計を済ませようとしたら、さっきの店員さんに「今日は、"ハルオミ(仮名)"が払ってくれるそうです」と言われて慌てている。が、もちろん、彼が支払うことなく、私が支払う。
戻って来たYちゃんに「今日は"ハルオミ(仮名)"君がご馳走してくれたので、二人でお礼を言いましょう」と言うと、Yちゃんは素直に「ありがとうございます」と返すのが面白い(もちろん、Yちゃんはその話を信じていない)。
17時半にお店を出る。Yちゃんは、まだ時間に余裕があると言うが、この時間に飛び込みで入れるお店を探すのは難しい。YちゃんがJR大阪駅から帰るというので、地下鉄で大阪駅に向かう。
阪急線の改札近くにある「新梅田食堂街」に行くが、ここも人だらけ。多くの店(特に「たこ梅」)で長蛇の列。とりあえずお酒を飲んで話ができればいいということで、「洋食&ビール自由亭」に入り、2時間ほど話して別れる。
20時半過ぎの阪急京都線は程よい混み具合。座れなかったことが功を奏してか、眠りこけることなく、『ワンさぶ子の怠惰な冒険』を読みながら無事京都に帰還。
烏丸駅から少し歩いて「一政」へ向かうが、本年最後の営業とあってか、カンターも満席。ドアを開けることなく、ホテルへ帰る。
2023年12月31日(4日目。大晦日)
毎日22時くらいに寝て、6時前後に起きるという、今までにない健康的(?)な京都ライフを過ごしている。
『ワンさぶ子の怠惰な冒険』を読了し、大浴場へ向かう。
宮下家のほのぼのした暮らしぶりが面白おかしく書かれているが、最終盤のトミーのくだりで、ちょっと泣いてしまった。
というのも、私の父を思い出したからで、父は幸い軽度で自覚症状が出て早期発見できたこともあり、手術ではなく薬で治療し、後遺症もなく、今も健在だが、あの時、トミーのようになっていたっておかしくはなかったのだ。
大浴場を出て、近所のFresco(京都にたくさんある24時間営業のスーパー)に「年越しどん兵衛」を買いに行く。
MOVIX京都で映画を観るため、ネット予約し、今日も洗濯をしながら、本稿をここまで書く。
11:30 出石庵
今年も出石庵で、年越しそばをいただく。
美味しくいただき、店員さんと「良いお年を」と年末の挨拶を交わし、お店を出る。
寺町商店街にあるスマート珈琲の行列を横目にMOVIX京都へ向かう。
12:35 映画『阪神タイガース THE MOVIE 2023 -栄光のARE』(@MOVIX京都)
野球の試合を映画館の大スクリーンで観て感無量。もちろん、「アレ」にも感無量。
14:15 ひっとぽいんと
映画を観終わって再び出石庵まで戻り、そこを通過して「ひっとぽいんと」に向かう。
この時間にマスターの安原氏がいるか不安だったが、エレベータの表示はお店のある4階になっている。ということで、4階に上がるが、お店の前には食材などが放置されているような感じで、マスターの姿は見えない。
そっと中を覗こうとしたら、マスターが扉を開け、私を見て「ぎゃーっ」と声を上げる。
動物もそうだが、人間も本気で驚くと跳び上がってしまうものだということがわかる。確実に10cmは飛んでいた。
一昨日の闇鍋は?
「俺が最初に潰れて、会計してもらったかどうかも覚えてない。どうも、お客さんが俺をソファーに寝かせてくれて、洗いものもしてくれたらしい」
さぞ美味しかったのだろうと思うが……
「ていうか、俺、ほとんど鍋食べてない……」
なのに、何故に最初に潰れるのか……
「でも、残った出汁がめちゃめちゃ美味いから美味しかったと思うで」
で、昨日はその出汁にカレールーを入れてカレーを振る舞い、大晦日の今日は、「まだルーがちょっと残ってるんで、継ぎ足して、年越しカレーうどんにするつもり。食べにくる?」
……カレーうどんには食指をそそられるが、きっと戻ってはこないだろう。
16:00 JAM
大晦日の先斗町は、まだ営業していないお店が多いにも拘わらず、外国人をメインに人通りが多い。その人たちをかきわけ、四条通に出て四条大橋を渡り、「JAM」へ向かう。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
オーナーの池田さんが気の早い挨拶をしてくれる。その気の早さはお酒にも表れ、「新年のメニューにしようと思ってたんですけど、ちょっと前に飲んでみます?」。
「なんで、いっつも間際にならんとやらないんですかね?」
池田さんは、溜息をつきながら明日からの新年メニュー作りをしている。
今年から一応、コロナ対策が全面解除になったが、お客さんの入りはどうなのだろう?
「外国人は戻ってきましたね。といっても、中国人は少ないですが……でもお店には来てくれるようになりました。前までは、中国の人って日本酒を呑まなかったんですよ。まぁ、今は呑むといっても、ほとんどの方は『新政』を注文しますけどね。でも、観光客の総数が少ない中で日本に来てくれるってことは、(日本酒を呑むなどの)明確な目的があって来てるような気がします」
「来年もよろしくお願いします……っていうか、明日もお待ちしてます」
などと見送られ、お店を出る。
大晦日の四条通は、それなりの混雑ぶり。
21時半の予約まで時間があるので、「五黄の寅」に行ってみることにする。
外から中の様子を窺うと、カウンターまで満席のよう。ドアを開けてみるか躊躇していると、若い男性の一人客がドアを開ける。
出てきた店員さんが「ただいま満席なんで、空き次第お電話差し上げるのでよろしいですか?」と聞き、男性客はそれに応じて電話番号を伝えている。
通りがかった外国人カップルがその様子を見て、入店できると思ったらしく、中に入ろうとするのを店員さんが「Sorry、Sorry」と繰り返しながら押し戻す。
男性客と外国人カップルがいなくなって取り残された私……
「入れる?」「すんません、ムリです」
諦めてホテルに帰り、仮眠をとることにする。
20:30 五黄の寅
20時に目覚め、大浴場で2023年の垢を落とし、「五黄の寅」再チャレンジ。
「タイミングが良い時に来ましたね。おひとり様のお客様に電話したんですけど、出なかったんで、たまたま1席空いてるんですよ」とアカリさん。
まさか、さっきの男性だったりして……
とはいえ空いていたのはラッキーで、21時半まで1時間ほど飲ませてもらう。
料理を食べる余裕があまりない短い時間ではあるが、お酒ばかり飲んでいると良くないと思い、炙り明太子を注文。アカリさんが察してくれて、「通常は2本なんですど、1本にしときましょうか?」。
女性店員さんが、「28日にも来られましたよね?その時、『大晦日にも来ます』っておっしゃってましたけど……」
そんなことを言ったのか?まぁ、私なら言いそう、というか絶対に言ったと思う。
「約束を守る男なんで」
そんな会話を交わしつつ時間を過ごし、いよいよ2023年の最終目的地へ。
21:45 和鉄板ぞろんぱ
「いやぁ、今年は良い年でした」
大の阪神ファンである店長が満面の笑みで言う。
映画を観てきたことを告げると、「ボクも行きたいんですけど、突発性難聴になってしまって、映画館禁止なんですよ」。
それだけでなく、自身の体は不調が続いたらしいが、「でも、阪神が優勝したんで、いいんです」
阪神ファンはどこまでもポジティブだ。
まぁ、今年は阪神タイガース(虎)の年だった。ということで、1杯目の日本酒は「越乃景虎」(新潟・諸橋酒造)。
店長らと今年の阪神タイガースを振り返っているうちに2023年の終わりが近づいてくる。
常連のお客さんが開けたシャンパンをご馳走になり、みんなでカウントダウン。
小雨が降る中、でも温かい気持ちでホテルに帰る。
2024年1月1日(5日目。元日。スパークリングワイン)
薄日が差しているのに雨が降っているという何だか不思議な元旦。
9:30 松尾大社~梅宮大社
阪急電車でお酒の神様・松尾大社へ向かう。
去年の「服酒守り」をお返しし、お参りをしてから新しい「服酒守り」を購入。
恒例のお神酒を購入(ではなく、一応「お布施」のお礼としてお神酒と升が供される体になっている)。
升に直接お神酒を注いでくれるのを当たり前のように眺めていたのだが、そういえば、コロナ禍にはカップに予め入れられたお神酒をいただいていた。
改めて、ようやくコロナ禍が(それなりに)明けたんだなぁと実感。
おみくじは「吉」。特別良い事も起こらない代わりに、そんなに悪いことも起こらない……まぁ、こんな年が一番良いのかもしれない。
その後、近くにある梅宮大社まで歩く。ここもお酒の神様。
昨年お参りした時より時間が早く、小雨が降っているからか、参拝客が比較的少なく、少し並んだだけでお参りできた。
一旦ホテルに帰り、関西テレビの「よ~いドン!」のスペシャル番組を見ながら休憩し、再び外出する。
14:30 八坂神社
京都のお正月といえば、八坂神社へ詣でなければ気分が出ない。
というわけで八坂神社へ向かうが、四条大橋を越えたあたりから流れが悪くなる。といっても、大きな混雑ではなく、ゆっくり歩いている人がいるだけのよう。
お馴染みの西門へはすんなり入れたが、そこからいきなり牛歩になる。
が、歩みのスピードは昨年より早く、イライラが頂点に達する前に本殿に到着。
お参りを済ませ、丸山公園を抜け、祇園北の歓楽街(お昼、しかも元日は静かだ)の狭い路地を抜けて、川端通の「JAM」へ到着。
15:00 JAM
池田ご夫妻と新年の挨拶を交わす。
ゆるゆると呑みながら外を眺めると、空は暗くないのに、傘をさしている人、さしていない人様々で、やっぱり中途半端な不思議な天気。
「今年はこんな変な年にならなきゃいいですけどね」などと話していた時は、それは全くの冗談で、誰も本気にしていなかったのだが……
16:00 ひっとぽいんと
マスターの安原氏と新年の挨拶を交わす。すでに常連の男性が飲んでいる。
3人で他愛のない話をしていると、何だか体の調子がおかしい。
そんなに呑んでいないはずなのに、深酔いしたような感覚……
「……揺れて……る?」
誰ともなく呟く。
そのうち、吊るしてあるシャンパングラスがカチカチと鳴り始め、しまい忘れたクリスマスツリーがユサユサと揺れる。
揺れは大きく、しかも長い時間続いた。
幸いお店の中は支障なかったが、窓がないお店からは、外がどうなっているのかわからない。
「(同棲している)彼女さんから、心配メールが来た」
安原氏の言葉に、これがお店の外でも起こっていたことだと実感する。
スマホなどで情報を入手しながらも余震の不安に怯える。
ようやく(一時的かもしれないが)落ち着いた17時頃、お店を出る。
エレベーターも動いていて、外を歩く人も普通の感じに見える。
ホテルに帰ってテレビをつけると、全てのチャンネルは地震速報に変わっている。
お正月、しかも元日という1年で一番のんびりしてホッとする日が一転してしまった感じがする。
小さな音量でテレビをつけっぱなしにして、少し仮眠する。
20:00 串鉄板ぞろんぱ
予約していた20時ちょうどに、「串鉄板ぞろんぱ」入店。
「地震、大丈夫でした?」
新年のあいさつより先にそう聞かれ、地震のインパクトが大きかったのだと実感する。
「なんか、1年に1回お会いしているような気がします」
オーナーの東さんの奥様、年末年始のピーク時にお手伝いとしてお店に入っていて、だからこの時期にしかお会いできない。
「昨日、"シャンパン大会"、やったんですか?」
"ちょんまげパスタ侍"が聞く。
「"大会"ではないけど、シャンパンはいただいた」
「ウチにもシャンパンありますよ」
……知っている。それが原因で、この6年ほど、この"シャンパン大会"でいぢられているのだから。
「ちなみにいくら?」
「1万円は超えますよ」
……高い……(だから、それが原因で、この6年ほど、この"シャンパン大会"でいぢられているのだ)。
「スパークリングなら、5000円ほどでありますよ」
日付は1月2日になっている。酒量も相当いっている。こうなりゃヤケだ。
酔いも手伝ってスパークリングワインを注文。
オーナーはじめ、全ての店員さんに振る舞う。
これで、もういぢられませんように。
2024年1月2日(6日目。謎の立ち飲み)
7時起床。民放テレビ局はお正月番組に戻っている。箱根駅伝も予定通りスタートするらしい。
本稿を書いているうちに9時を超えている。大浴場に行くと、さすがにこの時間には誰もいない。
またも洗濯しながら、本稿をここまで書き、『少女マンガはどこからきたの?』の続きを読み進める。
当時の資料があまり残っていないというのは、1955(昭和30)年頃に起こった「悪書追放運動」も一因のようだ。
ホテルを出て「ひっとぽいんと」に向かう。
途中、河原町御池の地下にある「ふたば書房」に立ち寄り、都築響一編『Neverland Diner 二度と行けないあの店で』(KENELE BOOKS、2021年)を見つけ、衝動買い。
15:00 ひっとぽいんと
ビルの入口に看板が出ておらず不安になるが、エレベーターは(やっぱり)4階で止まっている。案の定、お店は開いている。
そのことを告げると安原氏は「やばっ、忘れてた。ビール注いだら看板出しにいこ」。
と言いつつ、私のビールを注いでいる間に自分も一杯ご馳走になろうと思いついた安原氏は、看板を出すことを忘れてしまう(途中で思い出す)。
小一時間、相変わらずの馬鹿話をして、「じゃ、また今度」と言って店を出る。
16:30 映画『ファンファーレ』(@UPLINK京都)
UPLINK京都、新年最初の営業。私も映画鑑賞始め。
映画『ファンファーレ』(吉野竜平監督、2023年)を観る。
満足して映画館を出て、ホテルへ帰り、少し休憩。
この休憩が大事だと、今回の旅で思い知る。
20時過ぎにホテルを出る。
それなりの人通り。行列になっている飲食店も多い。
「ぽんしゅや」の前にも人だかり。諦める。
たぶん皆、元日は家族と初詣に行って家でのんびりし、2日は地元に帰省した友人たちと過ごすということなのだろう。
20:30 五黄の寅
「五黄の寅」もそんな感じではないかと不安になったが、こちらはテーブル・座敷席が空いていて、カウンターが混んでいる。
「立ち飲みなら」とアカリさんが言うので、カウンターの隅っこ、厨房とホールの通路に立って飲む。
通常のスタイルではないが、カウンターが混んでいる時に、何度か経験があるので、驚きはしない。
ただ、カウンター席端のお客さんのスペースを少しいただくことになるので申し訳なくは思う。が、今日の中年男性のお客さんは「ボクも経験があるんで大丈夫ですよ」と寛大な笑顔。
カウンター席はスタッフと顔見知りの常連さんばかりで、「男気じゃんけん」が始まったりで大盛り上がり。
その後入店するのは常連の一人客ばかりで、テーブル・座敷席は空いているのにカウンターは立ち飲み客が、私を含めて3人になるという不思議な混雑ぶり。
私の後に来た2人は顔見知りのようで、やはり顔見知りだったカウンター席端のお客さんとともに、空いていたテーブル席に移動。
おかげで私はカウンター席に座ることができ、のんびりと日本酒を呑む。
「今年もよろしくお願いします」と挨拶を交わし、退店。
22:30 ぽんしゅや 三徳六味 四条烏丸店
さすがに表に人はいないが、店内は賑わっている。
このお店は、「五黄の寅」と違い、デフォルトが立ち飲みだ。
盛り上がっている右隣の若い男女は、どうやら知り合いではなさそうで、このお店で意気投合したらしい。男性が女性に恋愛の相談をしている、というか、もはや女性が男性を説教している状態(酔客の声は大きい)。
本日も「にゃんぺん」を注文する。
説教(じゃないけど……)していた女性が目ざとく私の「にゃんぺん」を見つけ、「かわいい」と言いながら自身も注文。
では、と、私もさっき彼女が注文していた日本酒を注文。
12年続いている京都で過ごす年末年始も、そろそろ終わり。
今回は途中休憩をふんだんに取り入れたからか、去年までより体調は良かった。
やはり、53歳にもなると、これまでのような飲み方はできなくなったということだろうか。
2024年1月3日(最終日。とはいえ、帰京するだけ)
7時に起床し、最後の大浴場へ。
荷物をまとめ、後は金庫にしまった貴重品だけ……と思ったら、最初に設定した金庫の電子ロックの暗証番号が思っていたものと違ったらしく、開けられない。何度か思いつく番号を入れるが全てダメで、しまいには、15分間操作できない状態に陥ってしまった。
仕方がないのでフロントに連絡。すぐに対応していただく。
最後の最後にこんなことが起こるなんて……
「旅慣れた」という自惚れが招いた気の緩みだろう。深く反省する。
9:30 京都駅
新幹線の改札内はかなりの混雑ぶり。売店の1つが閉店しており、だから、残った方のお店に長蛇の列。
何とかビールとおつまみを購入し、新幹線の車内で一人、ささやかな「さよなら京都」の打ち上げを敢行。
その後はずっと『少女マンガはどこからきたの?』を読み続ける。
東京駅のホームは凄い混雑。
人ごみをかき分け改札を出て、自宅へ戻る。
結局、まだ『少女マンガはどこからきたの?』は読了できていない。