見出し画像

山崎バニラの活弁小絵巻 2024(TIFF2024 ユース)

映画祭では普段観る機会のない作品や過去の名作、まだ公開前の作品まで様々な映画を観られるのが嬉しい。
さらに、こんな特別企画も観られて本当に嬉しい。

『唯一の弾き語り弁士である山崎バニラが、サイレント映画に合わせ、大正琴やピアノの生演奏をつけつつ、活弁をする』という「山崎バニラの活弁小絵巻」は、東京国際映画祭(TIFF)の名物企画で、今年で何と7回目なのだそうだ。
私は初めて参加したのだが、「ユースプログラム」に設定されているだけあって、老若男女が同じものを観て笑う、という幸せな時間だった。

今回上映されたのは、以下の3本。

上映作品: 三公と蛸~百万両珍騒動 [日本] 大正琴弾き語り 切り紙アニメの名手・村田安司作品。背景の上に登場人物の切り紙を作り、ひとコマごとに撮影。逓信省簡易保険局の委託で、コツコツ生きる大切さをユーモアいっぱいに描いた。 監督:村田安司 1933/16min/Japanese 配給:マツダ映画社

床屋のココさん [アメリカ] カスタネット弾き語り ベティ・ブープやポパイを生み出したフライシャー兄弟の初期作品。道化師ココは実写をなぞってアニメを作るロトスコープや、アニメと実写を融合させるロトグラフで描かれた。 監督:デイヴ・フライシャー 1925/6min/No dialogue 配給:おもちゃ映画ミュージアム

弗箱シーモン [アメリカ] ピアノ弾き語り ラリー・シモンは1922年には人気、興行収益、出演料においてアメリカ最大のスター・コメディアンに。アクションシーンはミニチュアやサイクロラマ(回り舞台)も多用。 監督:ラリー・シモン 出演:ラリー・シモン、ドロシー・ドワン、マリー・カー 1926/43min/English 配給:マツダ映画社

TIFF公式サイトより

どれも約100年前に撮られた映画とは思えないほど素晴らしい。
観ているうちに気がついたのだが、どうやらこれらの作品が魅力的なのは『この「映画」という新しいメディアを使って、どうやって楽しもうか』という作り手のワクワク感がフィルムに焼き付けられているからではないか。

それにしても、「活動写真」「活弁」という名前は何と的確なのだろう。
3本とも人物たちがそれこそ「活き活き」と動き回っているし、それを弁士が「活き活き」と語るのである。
そのライブ感が観客を惹きつける。

劇場からは子どもたちの笑い声も聞こえる。
「ドタバタ劇」とはいえ約100年前のアメリカ映画で43分間、子どもたちを飽きさせないのは弁士の魅力と技だ。
山崎バニラは、例えば『三公と蛸~百万両珍騒動』という「沈没した船に載っていた(だろう)お宝を探しに行く」物語で、沈没船をタイタニック号に例え、海中に潜った三公が海の中を自由に動き回るシーンで『息は苦しくないのだろうか?』とツッコんだり、引き上げたお宝が一瞬消える場面を先に教えてくれたりしてくれる。
子どもも大人もそれを観て大喜びする(観客みんなが揃って大笑いするというのは、なんて楽しいのだろう)。

先に『ドタバタ』と書いたが、『弗箱シーモン』は「スラップスティック・コメディー」と呼ばれるもので、私は43分という長尺の物語を観るのは初めてだった(ただし、これがこの作品の全てではない。山崎バニラの説明にもあったとおり、『消失したと思われていたフィルムの一部が2020年に日本で発見された』ものが上映されたのである(物凄く貴重な体験だった))。

主役のラリー・シーモンはもちろん他の俳優たちも、「笑いの為なら死んでも構わない」という表現が大袈裟に思えないほど、文字どおり「体を張った演技」だった。
それを観ながら私は、スラップスティック・コメディーを敬愛する劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ナイロン100℃主宰)の作品ーその名も『SLAPSTICKS』(1993年初演)ーで描かれる、スラップスティック・コメディーのために体を張り続ける俳優たちの物語について、「ああ、こういう世界を描いていたんだな」と改めて思い返していた。

メモ

山崎バニラの活弁小絵巻 2024(TIFF2024 ユース)
2024年11月4日。@TOHOシネマズ シャンテ

「活弁」はライブ・エンターテインメントなんだと知った。
(「サイレント」に対する)「トーキー」映画ばかり観ている(当たり前といえば当たり前だ)私としては、「活弁」の世界に入り込めるか不安だったが、それは全くの杞憂だった。
最初から最後まで、『この「映画」という新しいメディアを使って、どうやって楽しもうか』という作り手のワクワク感と、「活き活き」と語る山崎バニラさんの話術・話芸に惹きこまれっぱなしだった。

別稿にも書いたが、当日の午前にこれを観て、同日夜TIFFプログラムで映画『サンセット・サンライズ』(岸善幸監督、2025年1月17日公開予定)を観た。
上述の『三公と蛸~百万両珍騒動』はタイトルにあるとおり、三公という主人公が蛸と格闘するアニメだったのだが、『サンセット・サンライズ』では主人公が本物の蛸と格闘していた。
蛸で始まり蛸で終わった一日だった。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集