ドングリを食べて育った豚が「イベリコ豚」ではありません
「AERA.dot」の2021年6月16日配信の記事に「どんぐりを食べて育った豚をイベリコ豚と呼ぶのは間違い?暑い季節にピッタリの柑橘系の香りのする魚とは」というのがあった。
日本人は結構勘違いしているようだが、記事によるとイベリコ豚は『豚の血統』であり、『イベリア種の血が50%以上入った種類』とのこと。
『ドングリの餌を食べて育った最高級のイベリコ豚のことは、正確には「ベジョータ(スペイン語でどんぐりの意味とか)」と呼ぶ』のだそうで、ということはつまり、「ドングリを食べないイベリコ豚」も当たり前にいる」のである。
イベリコ豚とは
もう少し詳しく、野地秩嘉著『イベリコ豚を買いに』(小学館文庫、2016年。以下、本書)で見ていく。
先に書いたように、ドングリを食べないのも含め、イベリコ豚には3種類の育て方の違いがあり、それぞれ『肉の味はもちろん、呼び名も変わる』そうだ。
ドングリを食べないイベリコ豚は2種類に分けられる。
こうしてみると、最高品種の豚をつくるために人間がイベリコ豚にドングリを与え始めたと思いがちだが、『豚が昔から食べていた』という。ハーブもそうだ。
『彼らの習性をそのまま取り入れただけで人工的な方法で飼育しているのではない』。
日本での「イベリコ豚」の誤解
本書によると、『イベリコ豚が日本人に認識されるようになったのは2005年の秋頃ではないか』とのこと。
当時のスペインでも、ベジョータは『普通の豚肉の3倍はした』そうで、日本に輸入すればかなりの高級食材となってしまうため、当然輸入されていなかった。
しかし、2005年の秋頃、『全国チェーンのある大手スーパーがイベリコ豚(ベジョータではない)を買い付けに来た』そうである。
つまり、「イベリコ豚はドングリを食べる(種類もいる。この肉はその種類じゃないけど)」と(カッコ)の中の文章を意図的に省略して、消費者の目を欺いた業者がいた、ということだ。
その欺きが様々な誤解を生むことになり、それを蘊蓄としてドヤ顔でひけらかす輩が多数出現する。
本書では『典型的な「間違いの例」』が二つ、挙げられている。
前述のとおり、イベリコ豚が日本で知られるようになったのが2005年あたりというから、かれこれ15年以上は経っていることになる。
最初は知識がないから誤解もあったのだろうが、さすがに15年以上もあれば誤解が解けるだろう、と思うのだが、「AERA.dot」の記事からすると、実はそうでもないのかも…
本書について
本書はその書名からもわかるとおり、単にイベリコ豚を紹介したものではない。
著者の野地氏は、『トヨタ物語』『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』などの著書を持つノンフィクション作家であり、食肉に関わる職業の方ではない。
つまり「養豚」「加工」「輸入」「販売」の実態を知るために、自身でイベリコ豚(しかもベジョータ)を輸入して販売を実体験したのである。
これは、2010年代始め頃の話だから少し情報としては古いかもしれないが、食肉の輸入販売という点においては、2020年代になっても大きくは変化していないと思われるので、大いに参考になるだろう。
で、さっき「情報が古い」と言ったが、上述のとおり、未だに「AERA.dot」のような記事が出ているのだから、あながち「古い」とも言い切れないのかもしれない…
ということで、「イベリコ豚」について「本当の蘊蓄」を語りたい人も一読の価値はあると思うのである。