飯田線乗り通しの旅
2024年夏、ひさしぶりに青春18きっぷを購入した。
青春18きっぷ不毛の地であった北陸は、北陸新幹線の敦賀開業によりさらにその不毛度合を深めた。しかしながら僕は敦賀在住であり、北陸新幹線敦賀開業によるインパクトの影響をもっとも受けなかった種類に属する人間と言えるだろう。福井県嶺北地方の住民は、サンダーバードが敦賀で止まってしまい、京都・大阪に行くのに敦賀で乗り換えねばならなくなったとぶうぶう文句を言っている。反対方面もまた然りで、関西民は福井や金沢へ行くのに敦賀で乗り換えねばならなくなったとぶうぶう文句を言っている。なにか新しいことを始めるときは、必ず文句を言う奴が現れる。くだらないと思うが、今回はそういったくだらない奴らにも最適なソリューションがある。敦賀に住めばよいのだ。どこへ行くにも始発駅だし、どこから帰ってくるのにも終着駅である。これは便利である。北陸新幹線の敦賀以西のルートが議論の俎上に載せられるのをたびたび目にするが、僕個人的には、敦賀駅がずっと終着駅のままでいいのにと思っている。
だが、敦賀駅の天下(?)がいつまでも続くものではないだろう。こういうことはできるときにやっておかないといつか後悔するときがやってくるのだ。「推しは推せるときに推せ」とは蓋し名言である。
今季、青春18きっぷを購入した主目的は飯田線乗り通しである。前回青春18きっぷを買ったのは4年前、飯田線に乗ろうとしてのことであった。が、その直前の豪雨災害により飯田線が一部不通となっており、迂闊な僕は現地に着いてからそのことを知り、すごすごと戻ってきたのである。
そのときの様子を書いたのはこちら。
つまり今回は4年前のリベンジなのである。今回は事前にちゃんと調べ、飯田線に不通区間がないことを確認した。4年前同様に、夕刻に豊橋に入り一泊し、翌朝飯田線に乗り込む。
飯田線には、豊橋を10:42に出発し17:33に岡谷に到着するという、飯田線を一気に乗り通す列車(全部で6時間51分!)もあってそれも魅力的なのだが、その一方でいわゆる「秘境駅」の宝庫と言われるのも飯田線である。折角なので上記の列車より早い列車に乗って、どこかの秘境駅で下車していろいろ見て、そのあとやってくる上記列車に再び乗り込むという計画を立てた。どの秘境駅にしようかと考えたが、飯田線随一の秘境駅と名高い小和田(こわだ)駅に途中下車することにした。
1.豊橋~小和田
豊橋を8:11に出発する天竜峡行の列車に合わせて、1時間ほど前に豊橋駅前に到着。壺屋で弁当を調達し、駅の中のプロントで朝食。豊橋に来たときの駅弁は壺屋のお稲荷さんを強く推奨する。とくにオススメは、ちりめん山椒のお稲荷さんと葉わさびのお稲荷さんと普通のお稲荷さんが入った「三色稲荷」だ。今回は壺屋で「三色稲荷」と「秘境駅弁当」を購入。壺屋のおばちゃんに「あんたこの弁当どのくらい持ち歩くの」と訊かれ、この後飯田線に乗ると答えたら「じゃあ保冷剤が要るね」と保冷剤を二つ付けてくれた。
発車20分前には飯田線のホームに立ち列車を待った。平日なのに、青春18きっぷの使用期間の終わりが近いからか飯田線乗車目的とおぼしき客がいっぱいいた。うわぁこれ座れるかなと心配になったが、座れないほどではなかった。定刻通り8:11豊橋を発車。
10:22中部天竜到着。20分間停車するとのことで駅の外に出て散歩する。最初に、列車の中からも見えた真っ赤な橋に向かう。立派な橋だなぁと思っていると、その橋から南側にもう一つ吊り橋のような橋が見えたのでそちらにも向かってみることにした。
遠目には細い吊り橋に見えたが近くに来てみると案外丈夫そうな橋だったのだが、橋の扁額に「なかつぺはし」とある。
「ぺ」?「ぺ」ってなんだろう…と思いつつ橋を渡って往復する。戻ってきたところで発車5分前となったので駅に戻ることにする。その途中で見かけたおとり鮎の店のホワイトボードに書かれた業務日誌のようなものが面白かった。ちゃんと今日の日付だったので、毎日更新されているのだろう。10:42予定通り発車。
列車の中で「なかつぺはし」について調べてみる。何事にも先人はいるもので、「なかつぺはし」についてもまとめておられる方がおられた。「なかつぺはし」は「中部橋」なのだそうだ。詳しくはリンク先を。
11:02水窪(みさくぼ)到着。4年前はこの先が不通となっていた。
2.小和田駅滞在
豊橋を発って3時間が経過した11:15小和田到着。唾をゴクリと飲み込み、秘境駅に下り立つ。僕以外に下車した人はもう一人いてジンバルを持っていた。YouTuberかな。
次の列車到着は13:19。たっぷり2時間ある。そんなに時間潰せるかと最初は心配だったが結論から言うと2時間でも足りないくらいだった。
駅の待合室でとりあえず腹ごしらえ。秘境駅弁当を食す。天気が良くて暑い日だったが、駅舎内は涼しくてありがたい。
駅舎を出て少し下ったところに廃屋がある。製茶工場だったところらしいが、日用品などが生々しく残されている。
製茶工場から北へと道が伸びており歩いてみたが、途中で倒木に道を塞がれていた。倒木を乗り越えてその先に行けなくはなかったが、軽装だったのと、列車の時刻に戻って来れるかどうかが心配だったのでそこで引き返した。
舗装されている道などないのに、どこから持ってきたのかミゼットが3台も捨てられていた。
いろいろ探検してもいいし(廃屋に入るのは自己責任で)、どこかに座って滝の流れを見ながらぼんやりしてもよいし、一日居られるところだなぁと思った。やってきた列車に乗って小和田駅を去るときは、不思議と愛着さえおぼえていた。
せっかく自転車を持っているので組み立てて、いかにも乗ってきましたみたいにして写真を撮ってみたが、駅周辺にチャリに乗れるところなんてありゃしませんぜ。へへへ。
3.小和田~辰野(~岡谷~上諏訪)
13:19定刻通り岡谷行が到着。2時間前に一緒に下り立ったYouTuber(?)は乗らないようだ。この30分後の豊橋行に乗って帰るのだろう。
僕自身はといえば、もう小和田駅でお腹いっぱいになってしまい、これ以降の飯田線については非常に内容が薄い。申し訳ない。
小和田を出て次の駅は中井侍(なかいさむらい)。こちらも秘境駅として有名で、切り立った崖がホームに迫る勢いだ。
14:13天竜峡到着。いわゆる秘境駅エリアはここで終了。14:17まで3分間の停車。ここで車掌さんが交代している。ここまでの車掌さんは、各秘境駅や沿線の風景について丁寧にアナウンスしていた。僕は最後尾に座っていたので、ふと車掌室を見ると、大学ノートにびっしり文章が書いてあり車掌さんはそれをアナウンスしていたのだ。「この先左前方に天竜川がきれいに見えます」(それに合わせてか、列車はスピードを落としてくれる)とか、「この駅にはきれいなお花がたくさん咲いています」とか、いろんなランドスケープの来歴を解説してくれるとか、乗客を少しでも楽しませようとする努力が垣間見えてじんわり感動した。小和田駅まで乗っていた列車ではそういったアナウンスはなかったので(「渡らずの鉄橋」がどのへんかよくわからなかった)、飯田線の車掌みんなが丁寧にアナウンスしているのではなく、この車掌さん個人の努力なのだろう。いい車掌さんに当たったものだ。
天竜峡を出て時又を過ぎると天竜川は視界から消えて、高原を走る鉄道の雰囲気に変わる。車窓から遠くに南アルプスの山々を眺めながら列車はコトコト走る。壺屋の三色稲荷を食べる。食べ終わると眠気が出てうとうとする。「下山ダッシュ」区間とか、JRの最急勾配区間とかがあったはずなのだが、いつの間にか通り過ぎていた。
17:20辰野到着。飯田線は豊橋から辰野までであり、ここで一応飯田線完乗を果たしたことになる。列車は岡谷行なのでもう少し乗る。本日の宿はさらにもう少し先の上諏訪だ。
17:33終着駅岡谷到着。小和田からは4時間強の旅だった。20分ほど待って甲府行に乗り換え、18:05上諏訪で下車。自転車を組み立てて薄暮の諏訪湖を走り、本日の宿に向かう。
ふと思ったのだが、飯田線ってあんなところを走っているのに、全線電化なのね!あらためて驚く。
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