ダイダラボッチvsポール・バニヤン(4)
承前
「いいかげんにしろクソガキどもが!」
太平洋でなおも殴り合いを続けるダイダラちゃんとポールくんに声をかけるものがありました。2人は殴りあうのを止めて声の方を向くと、3つの影が天から降りてきました。
「我が名はギュゲス。」
「我が名はコットス。」
「我が名はアイガイオン。」
「「「3人揃って、ヘカトンケイル!!!」」」
KABOOM!!!!!!!
ギリシャの方に住んでいる手の多い巨人さんです。ざばざばとダイダラちゃんたちに近付いてくると、殴りあう2人を制止するかのように肩をドンと押してきました。たくさんの腕があるので軽く押してもなかなかの重さです。
「あァ?!んだよテメェ!」
水を差されたダイダラちゃんとポールくんも、相手の肩をドンと押し返します。
どん
どん
どん
ばしゃーん
「「「「「ウオオオオオーッ!!!」」」」」
たいへんたいへん。
止めに来たはずのヘカトンケイルの皆さんも思わずヒートアップして殴り合いに加わってしまいました。
ヘカトンケイルの皆さんは人数も手数も多くてとても手強い相手ですが、ダイダラちゃんとポールくんも暴れに暴れて抵抗します。あまりの大騒ぎに洋上は爆炎のような水蒸気に包まれ、そこから丸太のような手足が出入りする終末のような光景になってしまいました。
山という山は投げ飛ばされ、建物という建物が跡形もなくなり、海もそろそろ干上がってきました。もはやこのケンカを止める事はだれにも出来ないのでしょうか?
「いいかげんにせんか!!!」
天地を揺るがす怒号にダイダラちゃんとポールくんは2人はびっくり仰天。ヘカトンケイルの皆さんもハッと正気に戻りました。しかし、あたりを見回しても誰もいません。ただ大きな柱だけがあるのみです。柱?
「やべぇ!」
「サンダルフォンのおっさんだ!」
「だれがおっさんだ!貴様らいい加減にしろ!」
ダイダラちゃんが酸欠に陥った大きさを遥かに超える巨体の天使がそこにいました。大きすぎて全く姿が捉えられません。天使は高次元生命体なので特に酸欠とかにはならないようです。
「っべ!逃げんぞ!」
「てめーがサッサとやめねーから!」
2人は大慌てで逃げ出しました。
だだだだだっ!
「「「おのれ逃すか!」」」
ヘカトンケイルの皆さんも後を追おうとします。しかしサンダルフォンおじさんは3人を制止し、あわてずサッと手をかざしました。すると逃げる2人の左右から天に届くような大きな口が現れて、一口に飲み込んでしまいました。全ては一瞬でした。
「休みのところすまんな。フェンリル、マダ。」
北欧神話のオオカミ、フェンリル。
インド神話のアスラ、マダ。
どちらも口の大きさには自信がありました。
暴れん坊をモグモグ咀嚼してお仕置きしています。
「「グワーッ!唾液グワーッ!」」
これには2人も降参です。
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破壊し尽くされた地上ですが、ユミル、盤古、ブラフマー達が新たな世界を創造してくれました。おかげで下界の命達は新たな周回で生きていけそうです。さて、懲らしめられた2人はどうしているのでしょうか?
おーえす
おーえす
おーえす
おーえす
「オラッ!手を休めんな!あと800年だ!」
破壊神シヴァの怒号が飛びます。
ダイダラちゃんとポールくんは2人だけで乳海攪拌当番にされてしまいました。ションボリした顔で大マンダラ山に巻きつけられた龍王ヴァスキを引っ張っています。
「ほらほら!ヴァスキから毒がもれてんぞ!舐めろ!」
「は、はいーっ!ウワーッ苦い!」
「もう、ケンカなんてこりごりだぁ〜!」
おーえす
おーえす
おーえす
おーえす
その後2人は必ずお菓子に名前を書くようにしたのだとさ。これが仏教に伝わる「真言」の由来です。
【おしまい】