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神が舞い降りたお宮参り
息子のお宮参り。
遠く離れて住む両親は、この日をまだか、まだかと楽しみに待ってくれていました。初めての息子とのご対面です。
私が45年前に着ていた祝い着が、親戚の家から偶然見つかり、それを大切そうに抱え、東京まで来てくれました。
両親がぜひ行ってみたいということで、お宮参りは東京を代表する神社、明治神宮へ。もちろん憶えているわけないけど、45年前から受け継がれている祝い着を見ると、とても感慨深いものがありました。
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想いのこもった祝い着に包まれた息子も、とてもご機嫌です。白い帽子を被せても嫌がることなく、明治神宮の荘厳な雰囲気に溶け込んでいます。
奥さんが、ご祈祷の申込みの記帳をしていると、神職さんが声をかけてくれました。
「どうぞ、お履き物を脱いでこちらにおかけになってください」
「いやや、わし!」
えっ!???
思わず二度見しましたが紛れもなく父でした。
隣にいた母は呆れ顔で「もう嫌やわ、またかいな…」と小さな声で吐き捨て、神職さんには何度も「すみません」とお詫びして、なんだかバツの悪い感じになりました。
足の悪い父をたくさん歩かせてしまった私も悪いのですが、父の天邪鬼は今も健在でした。
その後、写真を撮ったりなんかして、場の空気もいくぶん穏やかになってきた頃、次は息子がグズリだしました。
さっきミルク飲んだばかりだしきっとオムツだ。ご祈祷の前に綺麗にしておこうと息子とトイレへ。
さすが明治神宮、トイレまで気品たっぷりベビーシートには綺麗なタオルまで敷かれています。
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さすがだな…と気遣いに感謝しながら、そっとオムツを外してみると、やはりうんちをしていました。これが嫌だったのね。ごめん。
ウェットシートで十分に身を清めて新しいオムツをセット。その瞬間…、
プリプリっ!
狙ったかのようなタイミングで第2波が襲ってきました。ジーザス!!でもよくあることです。
まだ続くことを想定しながら「出すんだったら出しちゃいなよ」と息子にささやきかけながら、お尻を刺激しつつ、足のしわまで伸ばしながら慎重に吹き上げました。
気がつけば、これ以上ないくらい息子の肛門に神経を集中させている自分がいました……。
こ、これはお尻拭き職人だ……。
どうやら息子より先に神の御加護を受けたのは私のようです。
5人目、よりによってお宮参りにお尻拭き職人になるなんて……息子の顔を見て微笑みながら、真っ白なオムツをお尻の下にセットしました。
その瞬間、またしても…
プリプリプリ〜〜〜
より高音で響く屁音とともに、第3波が押し寄せてきました。絶妙なタイムラグ。これがお尻拭き職人に課せられた使命なのでしょうか。
すでにトイレに10分近く籠り、ご祈祷の時間も迫っています。さらに集中して丁寧に拭き上げました。
神様の前でこれだけのうんちをするなんて大した度胸だ…足を持ち上げ、お尻の下でオムツを丸めた瞬間のことでした……
プっ、プっ、プリプリプリ〜
うおぅーーーー!と1人トイレで声にならない声を上げていました。オムツは残り2枚。今だかつて経験したことのないビッグバンです。
少しでも雑にオムツを動かすと、神聖な明治神宮を汚してしまう……決壊寸前だ……。
これはもう事件だ!
オムツが封鎖できません!
なんで現場にうんちが流れるんだ?
うんちは会議室で起きているんじゃない!
オムツの中で起きているんだ!
3児のパパさんのお尻拭き職人の名シーンが何度も頭の中で蘇ります。
薄れゆく意識の中、気をなんとかとりなおし、お尻を拭こうとした刹那……
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ぎゃぁーー!!
本当にビックリしたときは、女子のような叫び声が出るものなのですね。
まさか、まさかのお聖水!
息子の服もオムツも私の手も全てお聖水でびしょ濡れです。八方塞がりとなり「ピンチすぐ来たれ」と奥さんにテレパシーを送りましたが、来るわけもありません。
何があっても息子を無事連れていく!
俺は俺の責務を全うする。
覚悟を決めた瞬間、身体が無意識に動きました。
片手で、オムツバッグの中に入っている着替えとビニール袋を広げ、次に息子の下腹部全体を猛スピードで拭きあげ、爆弾を取り扱うかのごとく慎重にオムツを丸めこむ。
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自分でもびっくりするほどの動きでした。ご祈祷の前に、職人の域を越え、お尻拭き聖人になっていました。
しかし息子の着替えを済ませ、ようやく本殿へ戻ったときには、すでに父の姿はありませんでした。
私たちがあまりに長い間、トイレから帰ってこないことに痺れをきらし、散策に出てしまったそうです。どこまでも自由な人です。
こうしてご祈祷は、父抜きで執り行われました。
息子はというと、スッキリして大人しくしているかと思いきや、最初から最後までずっと泣き散らかし、母を困らせました。
ご祈祷を終えたタイミングでちょうど
「おう!やっと終わったか?」
と何食わぬ顔で父が戻ってきました。息子もご祈祷が終わった瞬間にピタッと泣き止みご機嫌です。
父と息子の顔を交互に見て
どうか破天荒な子になりませんように。
そして健康でありますように。
最後に明治神宮の神さまにお願いして神社を後にしました。1年後、また父と母と一緒にここに来れるといいなと思います。
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