5分間のウマ娘と10年分の感謝
いまから1年前、私はウマになった。
「何食べる?ご飯?パン?」
「リンゴなくなるでー」
「スッキリに加藤さん出てきたよー」
あの手この手をつかい、朝が弱い6歳娘を起こそうとしますが、なかなか起きません。
ちょうどその頃、彼女はカワイイ女子が走りまくるアニメ「ウマ娘」にはまっていて、保育園から帰ってくると、そればかり観ていました。
「今日、パパとウマ娘して保育園いく?」
寝癖ボサボサの髪で、目だけキラキラさせてむくっと起きあがり…
「なにそれ………、、、……………、、、する!」
ほんまかいな…。スキの力ってすごい!
この時、私の心は小躍りしていました。
次男の出産を控え、お姉ちゃんになる準備が必要だったのか、娘は急にママっ子になり、私と一緒に保育園に行ってくれなくなっていました。
ここは絶好のチャンス!失敗は許されないウマ娘。
娘はお気に入りの
私は逃げウマのサイレンススズカ。
家を出た瞬間からレースがスタートします。保育園まで約400m、5分ほどの道のりを娘と全力疾走。
はぁはぁ息を切らしながらの実況付きです。
その日を境に私と娘の登園が再開しました。
それからというもの……
彼女は暑い日も、寒い日も、風の日も、走り続けました。
始めたばかりの頃は、途中で休憩や応援が必要でしたが、今は保育園まで止まらず、走れるようになりました。
そしていつのまにかクラスで一番足が速くなるほど立派なウマ娘となり、私も途中から自転車が必要になりました。
「おーっと!ここでスペシャルウィークが差してきた!差すか!差すか!ゴール。どうだ?判定です」
競馬好きのおっさんが子どもを追いかけてる光景。ウマ娘を知らない人が見たら、相当、変な親子だっただろうな。。
* * *
そして3月31日。
ついに最終レースの日がやってきました。
「今日はパパ何で行く?」
「うーん、メジロマックイーンかな」
娘はすぐにお気に入りの白のロングコートをなびかせて走り出しました。私も最後は一緒に走ろう。
娘と共に走った1年間は、私にとって宝物のような時間でした。
成長した娘の後ろ姿を見ていると、それを応援しているかのように満開に咲く桜が少し霞んで見えました。
この道を一緒に走るのも今日が最後。
うちの子たちがお世話になった保育園に行く最後の日でした。長女から始まり、次女、長男、三女と10年間、お世話になった保育園。
保育園に着くと、走り疲れ、大の字で寝転ぶ娘に
「最後まで走ってきたの?すごいね」
先生はいつも通り優しく声をかけてくれました。
三女をはじめ、子どもたちみんなが毎日楽しく保育園に行けたのは、先生が変わっても、いつも変わらない保育園のホスピタリティのおかげです。
夕方、奥さんとお迎えに行くと、園長先生が挨拶に来てくれました。
「長い間、本当にありがとうございました。当園に一番長く通ってくださったんですよ。保育士たちもご家族のことが大好きだったので本当に寂しいです」
開園からお世話になった園長の目に浮かんだ涙をみて、奥さんも私もまともに目線をあわせていられなくなりました。
「引っ越し先でも、みなさんどうか元気に過ごしてくださいね。いつでも遊びに来てください」
こういうロケーションが苦手な娘は、園庭をひたすら全力で走り続けていました。
挨拶ができるようになったり…
なんでも食べられるようになったり…
ひらがなが書けるようになったり…
はじめて友達ができたり…
誰かに優しくできたり…
小さい頃の子どもたちの表情が蘇ってきます。
「本当にお世話になりました。子どもたちとまた必ずみんなで遊びにきます」
濃密な10年間。親子含めて成長させてもらったことに感謝を申し上げました。
* * *
園長先生の卒園式の言葉。
「自分から話しかけることを大切にしてください」
困っている人がいたり、自分が困ったりした時、また誰かと仲良くなりたい時も、ぜひ自分から話かけてみてください。そしてお友達をたくさん作ってくださいね。
園長をはじめ、保育士のみなさんが長い時間かけて、私たちや子どもたちに教えてくれた大切なこと。
引っ越し先でも、自ら話しかけ、次はお友達とウマ娘できるといいね。
毎日、楽しい5分間をありがとう。
そして楽しい10年間をありがとうございました。