焼き鳥の先に見えた夜空のムコウ側
「今日晩ごはん、焼き鳥!?」
5人の子どもたちの目がキラリと光る。
しかし春の嵐。風激強。めちゃ肌寒い。それでもやるよ。だってもう60本買っちゃってるんだもん。他のおかずも一切作ってない。やるっきゃない。
なぜこんなに業スーのお家焼き鳥を食べたいか…それは猿荻レオンさんのnoteを読んでしまったから。
君は愛する人のために真冬に七輪で焼き鳥を焼けるか?答えはNOだ。だって普通に寒すぎるよね。
愛しかない、愛だぜ。
なんなんこのフレーズ?
完全に頭の中に「 夜空ノムコウ 」流れるやん。(スガシカオverね)
こんなん酒飲みながらサラッと書ける猿荻ハンパないって。思わずロッカールームで嘆いたよね。
この感覚を味わいたい。
我が家も夜空のムコウ側を探しに行こう。
「こんな時間から炭起こすの?」
奥さんはちょっと渋っていた。夜空のムコウ側、見せてやっから2歳次男と風呂でもはいってきな。
というのも私には心強い相棒がいる。BBQが大好きなパーチーピーポーの小3三女だ。奥さんが風呂に入ってる間に5月だというのに2人ダウンを着こんで準備開始。
BBQテーブル、ベンチも組み立て、取り皿にタレの準備、トングの使い分けもできる頼りになる相棒だ。強風のおかげですぐに火を起こすことができた。
「このパチパチ音がたまらないんだよね……」
着火剤から湧きあがる炎。遠い目でそれを見ながら語る小3女子がヒロシに見える。準備から楽しいことを知っている8歳には、もうすでに夜空のムコウ側が見えているのかもしれない。
まずは火力をあげるために皮から焼いてみよう。
少しすると皮の油が1滴、また1滴と炭に滴り落ち、心配は杞憂に終わる。
「ギャーー!!」三女が焼き場から離れ、炎に包まれた皮を指差し、顎をクイッとして(君が処理しなさい)私に無言で指示をする。
お任せください。お嬢様。
2人、焼き鳥屋さんごっこを楽しむ。
そして焼き場を管理するものたちの特権。
一番肉が仕上がった。
三女が、猫が魚を咥えるようなスピードで串から皮をすっと外す。ハフハフと熱い息を吐く。油まみれでグロッシーになった唇が月夜に輝いている。
「う、うまぁぁぁぁい」
皮だから当然、油っこいと思っていたけど余分な油が抜けて、いい塩梅にカリっと仕上がっている。やっぱり皮は塩だね、うん。
オレンジジュースを飲んで、くぅ〜っと唸る三女の幸せそうな横顔を見て思わず頬が緩む。焼けた串から部屋の中の子豚ちゃんたちに次々とパスしていく。
一度に焼けるのは8本程度。一串ずつチビチビとしか食べられない現状に、暇を持て余した子どもたちがゾロゾロと外に出てくる。
焼き鳥を顔の近くに持って自撮りを繰り返すJK長女・次女。手にはねぎま串。いつBeRealの通知が来てもいいように準備しているそうだ。
「エモい!焼き鳥エモい!ねぎま旨い!」
焼き鳥はエモいのね。飾ることのない今が大切。
Z世代から学ぶべきことは多い。
長女が作ってくれたタレも出来上がり、風呂上がりの奥さんと乾杯。
塗れ髪で立ったまま、もも串のタレを食べ、ビールを流し込む。
「くぅーーー、いけるねぇ!」
「お肉、お肉、おわーり(たぶんおかわり)」
2歳次男も串から肉をはぎとる行為が楽しそう。
窓に腰掛け、次から次へと肉を食らう。
あっという間に60本の焼き鳥がなくなった。
「あれ、やってもいい??」
少し前に食事を終えた三女。
聞いてくる前にもう準備をしている。
BBQ後の子どもたちの定番。
トロッとしたマシュマロの食感とサクッとしたクラッカーの歯触りが楽しい。温めたマシュマロってやみつきになる甘さなんだよな。
あいにくクラッカーがなく、焼きマシュマロになってしまったが、スモア愛好会の次女、長男、三女がそれぞれに楽しんでいた。
「でも何か物足りない……」
ずっとクラッカーを探していた三女が、シェアパックのパイの実を持ってきた。
「これ焼いていい?」
焼けたマシュマロをパイの実に乗せてパクリ。。。
パイの実を手にして三女のリアクションを見守る愛好会メンバー。
「絶対、別の方がいい!」
おいっ!もったいないっ!
パイの実は高級お菓子やぞ。
それを見たスモア焼き名人の次女が閃いたという表情で、次はパイの実を焼きだした。
ちょっと待て。完成されたお菓子は、絶対そのまま食べた方が美味しいんだ。
アツアツのパイの実をパクリ。
「ナニコレ発見!めっちゃ旨いサクサク!」
大絶賛。みんなで焼き始めた。後ろの穴からチョコが漏れ出してきそうになったら食べごろらしい。
私のパイの実が、深みのある美味しそうなキツネ色に仕上がった。裏面からチョコのトロトロ具合も確認。さぁ食べ頃だ。
アツアツのパイの実を口へ運ぶ。
一瞬の出来事だった。
パイの実は解体、芝生に落ちた下半分のパイは風に煽られ、はるか彼方まで飛んでいった。
しかもそっちチョコ多い方。
パイの実の弱点はサイドからの圧力。
そして、これが私たち最後のパイの実だった。
みんなの笑い声が冷え切った夜空に響きわたる。
半パイのサクサク感だけが口の中に残る。
パイのゴミが風に煽られ踊り続けている。
空を見上げると夕方見えた下弦の月が同じ場所で私たちをニヤリと見守っているように見えた。
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