サプライズが過ぎるSみずさん
「どういう意味ですか?」
声を聞いただけで、お客さまの困惑した表情が想像できる。怒っているというより事態が飲み込めず混乱しているようだった。
電話口の相手は、撮影の依頼をいただいた企業の総務部の課長。
納品された写真の内容を確認しようと、段ボールを開けたら写真の上に鍵の束のようなものが入っていたそうだ。
謝罪しながらなんでこんなことになったのかな?と考えていたら、その企業の撮影〜納品まで担当していた部下と数日前に交わした会話が頭をよぎった。
「なんか家の鍵が見当たらないんですよね……」
部下のSみずさんは頑張り屋だが、たまに突拍子もないことをしでかす天然娘だ。でもいくらなんでも鍵はいれんやろ。
プリンターの目詰まりもあったりで夜遅くまでかかったけど無事にプリント・納品までできました!と報告を受けていた。
実際に総務課長にも撮影時に直接お会いしたり、撮影前後に何度もやりとりし、いい意味で親近感を感じながらいい仕事ができていたようだった。
だからなおのこと鍵を送りつけられた総務課長が言った「どういう意味ですか?」には含蓄があり、鈍いボディブローとなって、じわじわと私を襲ってくる。
ゲーム感覚のサプライズ?
お近づきのしるしのプレゼント?
いや違う、呪いのメッセージ?
考えれば考えるほど「どういう意味ですか?」の闇に、はまりそうだったので、商品と関係ないものを送ってしまったことをひたすら詫び、鍵の特徴をヒアリングし終電。
S~~~みず!!
さっそくヒアリングしてみると、家の鍵なんて送るわけがないと言う。そりゃそうだ。普通に考えたら送るわけはない。でも君の鍵は現に無くなっている。
「何か鍵についていた?」
「お風呂屋さんにあるような鍵がついています」
~総務課長から聞いた鍵の特徴~
ロッカーとかで使うような鍵がついてます。
番号も書いてますね。55と。
S~~~~~みず~~~!!!
ちゃっかり、しっかり送っとるがな。
君の大切な家の鍵は総務課長が持っている。送ってもらう訳にはいかないし、取りに伺うしかない。
再び総務課長に謝罪をして翌朝の始業前に少しお時間をいただけることに。
なんだか色んな意味でとても迷惑をおかけしたので、Sみずさんに詫びの菓子折りも買っておくよう前日にお願いをした。
これがいけなかった。
翌朝、7時30分。最寄りの駅で待ちあわせ。Sみずさんを見てまたビックリさせられた。
Sみずさんが大切そうに抱えていた菓子折りが
詫びにいくにはあまりにもファンタジーな菓子折りで、クッキー周りはピンクのチェックのラッピングが施され、お菓子の下にはあふれんばかりの白の可憐なほわほわがつめこまれていて、かわいいにスキがない。
S、S~~~~みぃずぅ~~~〜〜!!!
よく考えてみてくれ。どの角度から見てもかわいすぎるやろ。これから詫びに行くんやで。なんでこんなにファンタジーなバスケットやねん。
普通はこれぐらいの四角の上品な箱にクッキーとか煎餅とか入っていて、ソツなくラッピングされたやつ想像するやん。
「かわいいかなと思いまして……」
Sみずぅぅ~~~!
かわいいには違いない。でもこれから詫びに行くんだぜ。T P Oってやつがあるやないかぁ…泣きそうだ。
通勤ラッシュの改札で、ファンタジーバスケットを挟んでああだこうだと嘆いていても仕方ない。百貨店も開いていないし、もうこれで行くしかない!
覚悟を決めてカワイイがすぎる手土産をもって会社へお伺いすることに。
総務課長に連絡すると、もうすでに正門前で待っている。鍵束を持って苦笑いを浮かべながら…。
「このたびは申し訳ございませんでした!」
Sみずさんと2人で頭を下げ、あらためて丁重に謝罪をし、鍵を受け取った。
「すみません、Sみずがこんなに可愛いものを選んできてしまいまして…、こちらも大変恐縮なのですが、よろしければお召し上がりになってください」
ワケのわからないことを言いながら、ブツを渡したことだけはよく覚えている。
ファンシーバスケットのインパクトに一瞬、頭が真っ白になった総務課長は精一杯の笑顔を作り…
「こんなの初めてだったんでほんとビックリしました。いろいろありますが頑張ってくださいね」
と優しく声をかけてくれた。
その後も
S~~~~みず~~~~~!!!
何度叫んだか分からないが、頑張りやさんだったからこそ今でもこのように笑える思い出になっている。
今は結婚されてファンタジーに幸せな暮らしを送っているそうだ。
10年以上たっても鮮明に覚えている職場でのアクシデント。忙しかったり、充実していた時間より、不思議なものでこういう事の方がよく憶えている。
意味も他意もないけど一生懸命だったからこそ、こういう出来事はより面白いし、意味がないことの方が後から意味をなしてきたり、想像力も広がるものだ。
私のコミュ力をあげてくれたサプライズが過ぎるSみずさんには今も感謝している。