駆け出し百人一首(36)散る花の忘れがたみの峰の雲そをだにのこせ春の山風(左近中将良平)
散(ち)る花(はな)の忘(わす)れがたみの峰(みね)の雲(くも)そをだにのこせ春(はる)の山風(やまかぜ)
新古今和歌集 春歌下 144番
散る桜の花が忘れ難いので、その忘れ形見である桜の花を思わせる雲、それだけは吹き飛ばさないで残してくれよ。花を散らせる春の山風よ。
Clouds seem to be remains of cherry blossoms, which I still yearn for. Spring wind, please keep clouds here though you scattered cherry petals.
風によって桜の花が散ってしまうことを残念がっています。その優美な感性は、峰にぼんやりとかかる白雲に、桜の花を連想します(実際、「花の雲」という、山の峰でやわらかに桜が開花するさまを雲に喩えるイディオムもあるんですよね)。
桜を散らしてしまうなら、せめてそれによく似た雲だけは吹き飛ばさないでおくれ、それを花を偲ぶよすがにするから、と山風に語りかけます。
和歌の修辞法
忘れがたみ:「忘れ難み」「忘れ形見」の掛詞。
忘れ形見の峰の雲:春の峰にかかる、ぼんやりとした雲を山桜の花が咲いているのに見立てて詠んでいる。
文法事項
忘れ難み:形容詞の語幹+み。「〜ので」と訳す。
そをだにのこせ:副助詞「だに」は、後に願望や命令形が来る場合は「せめて〜だけでも」の訳になる。
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