駆け出し百人一首(42)花散ると厭ひしものを夏衣たつや遅きと風を待つかな(盛明親王)
花(はな)散(ち)ると厭(いと)ひしものを夏衣(なつごろも)たつや遅(おそ)きと風(かぜ)を待(ま)つかな(盛明親王)
拾遺和歌集、夏、82番
現代語訳
風が吹くと桜の花が散ってしまう、と、風を嫌がっていたのに、夏になるや否や、暑さをやわらげてくれる風を待望するようになるのだなぁ。
和歌英訳
As soon as summer comes, We begin waiting for cool wind, which we had disliked as scattering wind until yesterday.
解説
平安時代の貴族たちは、暦やその季節の象徴的な風物を大切にしていました。
花鳥風月や雪月花という語がありますが、春には梅や桜を愛で、夏にはホトトギスの声に耳を澄まします。そして、涼しい風に秋を感じては澄んだ夜の月に語りかけ、雪降る冬の日には、美しく変化した庭を眺めます。
そうした自然愛は、目の前にあるものを愛でるだけでなく、その時季にふさわしい風物を探し求めるという積極的な姿勢をも生み出しました。初夏になると、人々はホトトギスの初音を聞くべく、夜通し起きていることもあったそうです。
この歌でも、4月1日になり、暦の上で夏になった瞬間(まだ盛夏でなく初夏なのに)、早くも、夏の風物たる「暑さをやわらげ、秋の訪れをにおわせる風」を求めるというのです。つい昨日までは、風は桜を散らすものだと憎んでいたというのに……。
和歌の修辞法
夏衣たつ:掛詞。「夏立つ」(夏になる)と「夏衣裁つ」がかかっている。「夏衣を裁つ」の「たつ」ではないが、夏立つと。
古典文法
厭ひしものを:「し」は過去の助動詞の「き」連体形。「ものを」は逆接の接続助詞。
かな:詠嘆の終助詞
古文単語
や遅き:〜するとすぐに。
読み方(ローマ字)
Hana chiru to
itoishi monowo
natsugoromo
tatsu ya osoki to
kaze wo matsu kana
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