駆け出し百人一首(6)朝まだき嵐の山の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき(藤原公任)
朝(あさ)まだき嵐(あらし)の山(やま)の寒(さむ)ければ紅葉(もみぢ)の錦(にしき)着(き)ぬ人(ひと)ぞなき
拾遺和歌集 秋 210番
訳:まだ朝早く、強風吹きすさぶ嵐山は寒いので、木々は皆、上着を着込むかのように、錦のような紅葉をまとっていることよ。
In the early morning, wind blowing, it is so cold in Arashiyama Mountain that every tree is wearing a jacket of beautiful autumn leaves.
才能豊かで、和漢朗詠集の編者としても知られる藤原公任(966‐1041年)。彼の名声が今日に轟いているのは、『大鏡』に記されたエピソードです。「三船の才」もしくは「三舟の才」と呼ばれています。
道長の主宰する華やかな宴で、和歌の船、漢詩(作文)の船、管弦の船が用意されました。おのおの得意なジャンルの船に乗るわけですが、公任はどのジャンルにも秀でていたので、いったいどの船に乗るのか注目されました。
結局、和歌の船に乗って、一番になりました。本人は後で「漢詩の船で一番になっていた方が、名誉なことであったなぁ」などと贅沢な後悔をしていますが……。
そのときに読んだのが今回の歌です。
大鏡では、少し表記が違って「小倉山あらしの風の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき」です。
和歌の修辞法
嵐の山:地名としての「嵐山」と、強風を意味する「嵐」の掛詞。
紅葉の錦着ぬ人ぞなき:山の紅葉を豪華絢爛な着物の錦にたとえ、木々がそれを纏っていると擬人法の表現をしている。いわゆる「見立て」の技法。
文法事項
寒ければ:形容詞ク活用「寒し」の已然形+接続助詞「ば」。確定条件の原因・理由。過去の「けり」ではないのに注意。
人ぞなき:係助詞「ぞ」は形容詞ク活用「なし」にかかって連体形にしている。強意。
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