さよならぼくたちの幼稚園 2
入学式が終わった。
そう、入学式が終わったのである。卒園式はとっくに終わっている。
とはいっても、3/31まではお預かり保育にちょくちょく行っていたので卒園したと言うより、何だか長期休みにでも入ったかのような雰囲気だった。
卒園式は、涙あり笑いありのいい式だった。
通っていた幼稚園の卒園式には、ちょっとした演出があった。
修了証書をもらった子供が、親の元まで来てその修了証書を受け渡すのだが、その際に一言、親に向かって感謝の言葉を述べてくれるのだ。
きっと頑張って練習してきたのだろう、みんなたどたどしくも、それそれぞれの言葉を、母親なり父親なりにかけて、終了証書を渡していく。
まるで、親の卒園式をしてくれるのは子供だと言わんばかりに。
これで泣くなと言うのが無理である。
勿論、うまい言葉が出てこなくて前の子と似たようなことをいう子は多い。それでも、がんばって感謝を言葉にしてくれる我が子を前に、「立派になったな」と目を潤ませる親は圧倒的に多い。何なら、我が子でなくても同じクラスのお友達の言葉と、その親御さんの反応だけで涙が出る。
私も目を真っ赤にしてしまったタイプの人間だ。
他の子の言葉で目をはらしながら、「はて、自分は泣かずに子供に返事が出来るだろうか」と若干の不安を覚えていた。
実際の場面では、どうにか泣くのをこらえたが、声は震えてしまったと思う。
その瞬間を録画してもらったビデオがあるのだが、見直せていない。恥ずかしいしな……。
式では、表題にお借りした『さよならぼくたちのようちえん』も歌われた。
この式で、この園で、生活した日々を振り返る保護者からすれば、これほどに「ひどい歌」もない。歌詞の一つ一つに情景が浮かぶのだから。
泣くなと言うのが無理である。特にこれが最後の卒園式となれば、なおさら。
子供たちの元気な歌声に、しんみりする保護者席。
忘れないのは、私たちだ。
式の後は、本来なら謝恩会があるが、このご時世、大勢での会食はできない。なので「さよなら会」が開かれた。
先生に感謝と、子供と保護者からお歌を贈る会。これが本当に、最後の先生と過ごす時間。
ここでは童謡『にじ』を合唱した。これもまた、いい曲で。この時世に合った選曲をしてくれた委員さんには頭が下がる。卒園式、入学式準備で忙しかったろうに。
子供たちは進学プレゼントやお祝いのプレゼント、紅白饅頭に、さよなら会の飾りつけに使われた風船をもらって、園を後にした。
晴れて、暑いほどの昼下がり。きらきらした風船をもって無邪気に園庭を走る子供たちの姿は、まるで夢のようだった。
さて、6年もの間、この幼稚園に通い続けた。自転車をこいで、二人、もしくは一人を乗せて。
幼稚園から仕事にも通った。送っていって帰った日もあった。忘れ物を慌てて取りに帰った日もあった。電話をもらって早退した日もあった。
でも、今の通勤ルートからはもう幼稚園は反対方向で。
何より、住宅街へ一歩入ったところにある園には、用事がない限り隣を通ることもほとんどなく。
だから、もう本当に、園にはほとんど行くことはない。
寂しい。
6年間も通い続けたそこは、3/31をもって、少し遠い場所になってしまった。
勿論、お迎えは児童館の一か所になって、自宅からも近い今の方がとっても楽だけれど。
あの優しい園は、きっと今頃小さな新入園児を迎えて、てんやわんやしていることだろう。
少し遠くなって、今度は小学校へ通う予定の我が子にちょっとだけふざけて聞く。
「また幼稚園、行く~? 幼稚園生する~?」
「ちがうの! 小学生になるの!」
……こんなにさみしいのは、親だけなのかもしれない。
親だからこそなのかもしれない。
先生たち、本当にありがとうございました。どうぞ、健康に気を付けて、これからもたくさんの子供と保護者を見守ってください。
さよなら、僕たちの幼稚園。
こんにちは、小学校。