ランビキ
蘭引は積乱雲だと思う。
用途から生まれた層状のこんもりした形も、水を温めて上昇気流を作り、雨のよう蒸留水を集めるその流れも、まさに積乱雲だと思う。
初めて蘭引を見たのは、まだ滋賀県の土鍋屋さんで働いていた頃のことです。比較的行きやすかったこともあり三重県の伊賀に時々遊びに行っていたのですが、人生初の蘭引は伊賀焼伝統産業会館に展示されておりました。その時は用途や使い方があまりよくがわからなかったので、こんな変な形のやきものの道具があるのかというそれだけの印象でした。
その後、灯火具の燃料とする油を蒸留して自分で作りたいと思うようになってから、蒸留器具について調べてはじめ、やきものの蒸留器具として蘭引を再認識することとなりました。
やきものをやっている者として、これは蒸留道具の蘭引も自分で作りたいものだと改めてて実物を見たくなり、説明動画があったこともあり、大阪の市立科学館にある蘭引を見に行きました。しかし、触れるわけでもなく、ただ静かに陳列されているだけなので、構造をもっとよく知りたいと古道具屋等で実物を探すよになりました。
そうして注目するようになると、今まで目に入らなかったものが、急に飛び込んでくるようになるもので、蓋がなかったり、中間層が抜けいてたり完品ではないのですが、比較的早く2つの蘭引をゲットすることが出来ました。完品だとオークションでは3万近かったりしましたが、自分は2つ合わせても1万以下で手に入れることができて、実はそこがちょっと嬉しいところでもありました。
これもあくまで構造を知るための資料としてなので、2つの蘭引を合わせてその全容が理解できれば、美品や完品でなくても良かったのが功を奏したのかもしれません。
さて実物を手にして、裏返したり、中の構造を自由に観察できるようになった訳ですが、それでもまだ実際にどんな感じで使われていたのかがイメージ出来ませんでした。
具体的な疑問点として、どのような熱源器具に据えて温めてていたのか?また第2層目と第3層目から蒸留水と冷却水の出口がにゅっと伸びている訳ですが、その水をどう受けて流していたのか?まさか垂れ流しでも有るまいし、床面からそれなりに高さのあるこの2つの注ぎ口からこぼれる水を受ける為の何か特別な道具があったのか?ホースみたいなモノにつないで流していたのか?そのあたりを知りたかった訳です。
そこでずっと行ってみたいと思っていた岐阜県の内藤記念くすり博物館で、3/16に行われたアロマテラピーに関する講演の案内文に蘭引の文字があったので、岐阜までその講演を聞きに行きました。
実際に蘭引を使って植物油を抽出する様子が見られるかなと期待して行ったわけですが、講義スライドでは、現代のガラス製蒸留器具を使っての説明でしたので、講義後、学芸員の方にいろいろと質問をして、少しだけ理解を深めることができました。
例えば、やきもの製の蘭引として目にするものは模様に若干の違いは有れど、どれも同じような形状で、同じように獅子の顔の取手が付いているのはなぜなのか?
これは昔、岐阜のある製陶所が作っていたもので、また土産用品として博物館でも、この形状の蘭引を販売しており、その形状のものが謂わば蘭引のスタンダードとして世に広く広まったことが一因だと思われます。
また博物館で昔、蘭引使った実験をした際の話しとして、例えばコンロのような直火では、最下層の水を溜める部分がひび割れてしまったこと、なので火鉢のようなものの上に乗せて、炭火でトロトロと温めてやること、という教訓を得ました。
ただ博物館の方も、実際に現役で蘭引を嗜んでいる人物からその使い方を伝聞した訳ではないらしいので、蘭引に関する参考資料としては、昭和40年に薬事日報社から発行された宗田一著の 「日本製薬技術史の研究」を元にしていることが多いと教えて頂きました。
さてその書籍は古い本でしたが、自分もなんとか手に入れることができました。
そこに書かれていた内容ついては、また後日、まとめようと思います。