VP of Customer Success になるまでに1年半かかった話と得た学び
こんにちは。株式会社SmartHRでカスタマーサクセスをしている稲船です。
2023年末、そろそろ仕事納めという方も多いかと思います。
私も仕事納め且つ大きな節目を迎えたということもあり、個人的なnoteを書いて締めたいと思います。(写真は長距離歩行部で訪れた神田川源流です)
私は23年末に1年半勤めた「執行役員 / VP of Customer Success」を退任しますが、実はVPになるまでも1年半かかりました。今回はその経験と学びについて記します。退任の際に書いたnoteのリンクは一番下に置いておきますので興味のある方はそちらも併せてご覧ください。
会社によってVP(Vice President)に求める役割は異なると思いますので、そこは違いがあるということを前提にお読みいただけると助かります。また社内制度はアップデートされていくため、ここに記載している制度や基準は時を経るごとに異なる点が生じることをご理解ください。なお、VP任命のプロセスについては2022年末時点のもので、現在はすでにアップデートされています。
VP任命プロセスとアップデートされる基準
私は初めからVPを目指していたわけではありませんでしたが、事業や組織のフェーズと私の入社タイミングによって、その役割を担うチャンスをいただくことができました。タイミングが違えば別の道を歩んでいたと思います。
VP任命は昇格などと同様に社内基準・制度に基づいたプロセスを経て決まります。そのプロセスの概要は以下のようなものでした。
取締役よりVP候補として推薦をいただく
VPに求める期待値を満たすためにクリアして欲しい条件が明示される
通常の半期評価(6ヶ月)に加え、VP候補としての評価を受ける
基準を満たし判定に合格するとVP就任。不合格の場合は再チャレンジ。
私は半期ごとに行われる判定に2回落ち、3回目でやっと通過することができました。つまり、最初にVP候補として推薦をいただいてから、基準を満たすまでに1年半もかかりました。これはスタートアップが求める速度からするととても遅いと思いますし、その原因が自分自身の力不足にあったことをとても申し訳なく思っています。
一方で、事業と組織の成長スピードが早く「挑戦するたびに求められる基準が高くなっていった」という背景もありました。
当時の組織サイズは下記のような感じです。
1回目のチャレンジ(見送り)
時期:2021年1〜6月
組織:30名 > 50名
2回目のチャレンジ(見送り)
時期:2021年7〜12月
組織:50名 > 80名
3回目のチャレンジ(通過)
時期:2022年1〜6月
組織:80名 > 100名
1回目の挑戦から1年半の間に組織は約3倍に拡大し、求められる成果や解決しなければならない課題のサイズや難易度も大きく変わるタイミングでした。最初の1年はこの事業の急成長に、私個人の成長を追いつかせることができませんでした。
VPに求められる要素
前述の通り、会社によって求められる要素は異なりますが、私の場合は管掌領域となる「カスタマーサクセスの専門性や発揮するバリュー」に加え、下記の要素において高い基準を満たすことを期待されていました。カッコ内の数字はVP就任直後の22年下期の私に対する評価点(5点満点)です。
経営視点(3.80)
長期的視野(3.80)
通意性(3.00)
リーダーシップ(3.55)
マネジメント(3.10)
周囲からの信頼(4.00)
安全性(4.00)
モチベーション(4.60)
これらの要素において高い期待値を満たすことが求められていましたが、私のスコアは「8.モチベーション」を除く全ての項目でVP陣の全体平均を下回っていました。(VPのみなさんが強すぎて、残念なことに私はやる気しかない人みたいになっています)
また、特に点数が低くなっている「マネジメント」と「通意性」が大きな課題となっていて、改善してほしい点やその基準について具体的に明示していただきました。
マネジメントについて
マネジメントの中にもさまざまな要素がありますが、VPに求められる観点としては主に2つありました。
マネージャーを支援し、成果の創出と組織の健全性を両立させる
成果を上げられる後任を育成し、中長期に成果を出し続ける組織を作る
私は特に2つめの「中長期の組織づくり」に課題があり、事業成長を牽引しながら未来の持続的な成長を実現するための登用であったり権限委譲を行うことにおいて期待を上回るパフォーマンスを出せずにおり、VPとなった初年度も「中長期の成長を担うマネジメント、仕組みの強化」をうまく実現できていないというフィードバックをいただきました。
23年はこの課題を解決することに注力し、マネージャーの皆さんと共に一つのチームとしてまとめ、マネージャーの皆さんが中長期的なパフォーマンスを最大限に発揮できるようにすることに取り組みました。この取り組みは一定の成果を挙げることができ、次の新しい組織に移行するために必要な土台を築くことに繋がりました。
通意性について
「通意性」はあまり聞き馴染みのない要素かもしませんが「情報や指針をわかりやすく伝える力」というイメージです。リーダーシップ行動に挙げられる4つの要素にも「通意性」が含まれています。
要望性
共感性
通意性
信頼性
いずれも大切な要素ですが、組織が大きくなると普段はあまりコミュニケーションを取らない組織や人も含めて方針が伝わるようにしなければならず、そういった点で「通意性」は欠かせません。
私はこの「通意性」が低く、何度もフィードバックをもらいました。
自分自身としてはうまく伝えられるように工夫や努力をしていたのですが、なかなか改善には繋がりませんでした。
現在もまだまだ途上ではありますが、フィードバックやアドバイスをもらうことで改善のきっかけを掴むことができました。そのきっかけは「自分の思考の癖を認識すること」にありました。
私はそこまでロジカルなタイプではなく直感派で、点と点が結びついていなくても俯瞰で捉えることで納得したり、ロジックで説明できないことも感覚で埋めてしまう癖がありました。
このような考え方や思考の癖を持つ私が出す方針は、どこか欠けているように見えるし、思った以上に背景説明が必要になる場合が多いということを教えてくださる方がいて、明確に自覚することができました。
それ以降は自分の癖や弱みを理解して、方針の組み立てやその伝え方における粒度や順序を工夫することができるようになってきました。
実力主義と挑戦を支援する文化
このように求められる基準を満たしきれずにいた状況が続きましたので、正直「自分は適任ではないのではないか」「このチャンスを活かせなかったら身を引いた方がいいのではないか」と考えたこともありました。
しかし2度目の「見送り決定」の通知をいただいた際、「1年前の事業フェーズであったら十分合格でしたが、事業が大きくなる中で求められる基準も日に日に高くなっています。このように基準が高くなる中での挑戦であるということをご理解ください。そして諦めずに挑戦してください。」と言っていただき、3度目の挑戦の機会をいただきました。
SmartHRは実力主義でそこに妥協はありませんが、挑戦を支援してくれる文化があります。あと一歩、もうちょっとの差であっても厳しくみられますが、その差を埋める努力を怠らずポジティブに挑戦する人への支援は惜しみません。その組織文化と多くの方の支援とアドバイスのおかげで、VPを務めさせていただくことができたのだと思っています。
あと、年末なのでここまで心折れずに挑戦を続けた自分も少し褒めてあげたいです。
次の挑戦に向けて
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。もうすぐ〆です。
ご覧の通り、VPになるまでもなった後も多くの課題を抱え、期待を大きく上回る成果を出せたとは言い切れない私ですが、この経験の中で本当に多くを学ばせていただきました。
これらの経験を通じ、今後も大切にしていきたい学びは下記です。
フィードバックを成長に繋げるための具体的なアクションを取り続ける
挑戦することでしか得られないものがあり、活かすも殺すも自分次第
特に「マネジメント」と「通意性」の改善は、自分自身の強みの活かし方と弱みの補い方を学ぶ貴重な機会になりました。あと、40代になってもめちゃくちゃ成長できるという実感を得られたことも今後を生きる上での勇気になりましたし、自分の強みがレジリエンス(resilience)にあることも分かりました。
おそらくVPに挑戦する前と後の私では、考え方も視野も背負える責任も格段に広く大きくなっていると思います。これは挑戦を続けたからこそ得られたものです。そして得たものを活かすために退任がゴールではなく次のスタートと捉え、またゼロから学ぶ挑戦者のマインドを持ち続けて必ず結果を出していきます。
ということで、2023年もお疲れ様でした。
パフォーマンスを出すためには充電も必要です。休みましょう。
私も休みます。みなさま、よいお年を。