地方における飲食、コロナの影響をどう見るか?【#1.愛される飲食のつくり方】
私たちジソウラボは、「つくる人をつくる」をビジョンに掲げ、富山県南砺市の井波地域で活動している起業家支援チームです。
地方で、そして井波で起業したいという方々をサポートさせていただく中で、よく伺うのが「食文化をつくりたい」という声です。一方で、飲食ビジネスや地方での起業に関心がありながらも、コロナ禍のためになかなか一歩を踏み出せないという方が多くいらっしゃると感じています。
そこで、サステナブル都市計画家の山崎満広さん、建築家でジソウラボメンバーでもある山川智嗣さんをお迎えして、飲食ビジネスを志す方に向けた対談動画を収録しました。それらをテキストで再録し、4回にわたってお届けします。
南砺市井波と米国ポートランドから見る飲食ビジネス
――今回のテーマは「地方における飲食、コロナの影響をどう見るか?」です。まずは、ゲストのお二人から簡単に自己紹介を。まず、ジソウラボメンバーでもある山崎さんからお願いします。
山崎:建築家、そしてコアレアルチザンジャパンという会社の代表をしています。同社は「お抱え職人文化を再興する」をコンセプトに、ものづくり職人と新たな価値をつくっていく新しい形のデザイン会社です。また、井波で日本初の「職人に弟子入りできる宿」である「Bed and Craft」や、飲食店「nomi」のプロデュースも行っています。
――飲食ビジネスはどのようなきっかけで、いつ頃から始めたのですか?
山崎:分散型ホテルの「Bed and Craft」を運営していく中で、その地域らしい飲食店がもっと街にあったらいいなと思い、「nomi」を3年ほど前に立ち上げました。飲食ビジネスに関してはまったくの初心者でしたが、この4月で4年目を迎えました。
――次はサステナブル都市計画家の山川さん、お願いします。1995年からのべ24年間アメリカにいらっしゃったんですよね。
山川:はい。アメリカで修士号を取得し、経済開発機関やポートランド開発局などを経て2019年に帰国しました。現在は、世界銀行のシニア・アーバン・コンサルタントや、つくば市まちづくりアドバイザー、横浜国立大学の客員教授などを務めています。
――ポートランドに関する2冊の本も出されていますね。ポートランドだけでなく、アメリカや日本のさまざまな地域を見られていると思いますので、そんな視点も交えながらお話を伺えたらいいなと思っています。ところで、山川さんの元にはどんな相談が来ることが多いのでしょうか?
山川:メインは地方創生ですね。地方都市のこれからを考えるというものが多いです。例えば、再生可能エネルギーの電力会社や、デベロッパーなどから相談をいただいています。
――ありがとうございます。次に、本日取り上げる地域についてそれぞれご紹介いただけますか?
山崎:富山県南砺市は人口約8万人、その中にある井波地域は約8,000人ほどが暮らす本当に小さなまちです。木彫が非常に盛んな地域であることが最大の特徴で、今でも200人以上が木彫を生業としています。井波に住む40人に1人が彫刻師という計算になりますね。来ていただくとわかるのですが、ノミや木槌をふるうカンカンという音がまちのあちこちから聞こえてくるのです。瑞泉寺という大きなお寺があり、その門前町として栄えたまちでもあります。
――次は山川さんから、米国オレゴン州のポートランドのご紹介を。
山川:ポートランドは人口約64万人、日本だと姫路市や船橋市と同規模の都市です。都市圏として見ると約200万人規模で、神戸と同じくらいですね。「アメリカ人が最も住みたがるまち」のひとつとして有名で、その主な理由は3つあります。
1つ目は、起業する人が多かったり、人種に文化の違いに寛容だったりするなど、自分らしく生活できる街として知られていること。2つ目は、アメリカの中で公共交通が非常に発達していることです。車がないと生きていけない地方都市がほとんどの中、ポートランドは電車は5路線くらいが通り、バス網も非常に細かく張り巡らされています。3つ目は、ローカル文化が盛んであること。地元で食べる・買う・遊ぶ・働く、すべてが充足できる街です。ナイキやコロンビアなどスポーツ産業が集積しており、こうした企業に関係するマーケティングやデザイン系職種の人が多く住む街でもあります。
持続可能性の鍵は「地元コミュニティ」と「柔軟さ」
――それでは1つ目の問いとして、地方におけるコロナ禍の飲食ビジネスへの影響について考えていきます。まずは、井波で飲食店を経営されている山崎さん、いかがですか?
山崎:この3年の間に、丸2年以上はコロナの影響下にあったことになります。オープンして1年でコロナ禍となり、経営的には非常に厳しい時が多かったです。休業した月ももちろんありましたし。
――「nomi」は、井波の木彫文化にインスパイアされてできたお店なんですよね。
山崎:はい。店名の「nomi」は、彫刻に使う「ノミ」からとったものです。木彫が盛んな井波には、彫り道具を扱うお店も2、3軒あります。こうしたお店の方から、「ノミ代を返す」という言葉を聞いたことがありまして。一般的には「飲み屋にツケを払う」という意味ですが、井波の場合は、外から木彫の修行に来た人が親方の保証によっていわばローンで道具を揃えて、仕事をしながらこつこつとそれを返していくという意味になります。こうした信用経済、地域の産業を支え合っている仕組みが面白くて、お店の名前にしたのです。
――コロナ禍になって、具体的にどんな変化がありましたか?
山崎:この3年間、本当にいろいろな試行錯誤をしてきました。コロナ前は「Bed and Craft」に宿泊されたお客様に使っていただくなど、地域外の方も多く来ていましたが、コロナ禍で「自粛」が叫ばれるようになると人が移動しなくなり、飲みに行くような雰囲気ではなくなってしまいました。そのため一時的には、売上が7、8割落ちてしまった月もありました。
しかし、そういう時に支えてくれたのが地域の方々でした。「井波らしい」飲食店をという思いから、地元の人たちにも気軽に使ってもらえるようなお店を意識して作ってきました。来客があったら絶対連れて行くお店、普段はすっぴん割烹着でも、ちょっと口紅塗っておしゃれして行けるお店。そんなお店を目指したのです。ですから、実はお客さんの7割が地元の方で。地元向けにやってきたのが、コロナ禍でも続けてこられたひとつの要因じゃないかなと思っています。
――上場企業が運営する飲食店でも、コロナの影響で7割以上が売上減となったという報道やデータを目にしてきました。特に駅前なんかにある、どの地域にでもあるようなフランチャイズ型の飲食店は苦境を強いられていると聞きます。一方で、山崎さんたちのように、地域の人たちがちょっと「よそ行き」で使うようなお店はコロナの中でも支えられて生き残ってこられたということですね。次は山川さん、ポートランドについてはいかがでしょうか?
山川:アメリカは国レベルで見ると、日本の十数倍〜20倍くらいコロナの感染率が高かったんです。ですから、飲食店も日本の10倍くらいは影響を受けているという感じでした。今日もいろいろお見せしたいと思ってお店の写真を集めていたのですが、僕が大好きだったレストランのひとつが完全に閉店してしまったことを知り、すごくショックで…。僕たちは「持続可能性」とか「サステナブル」とかさらっと口にしてきましたが、本当に持続可能かどうかがこのコロナ禍で明らかにされました。生き残ったお店に共通していたのが、先ほど山川さんがおっしゃったような、地元とのつながりやコミュニティの存在です。それだけ人気があるところは、皆がこぞって助けるわけですよね。
そして、状況に応じた工夫と切り替えができたかどうか。ポートランドではどのお店も比較的すぐにテイクアウトに切り替えていましたが、感染状況の悪化によりテイクアウトのためにすら外に出ない人が増えたことがありました。そうすると、次はUber Eatsに。それでもダメなら、人がいる近くまで自分が出向いて、フードカートやキッチンカーで出そうと。そうして生き残れたお店がある一方で、強いこだわりからそうした工夫ができず、畳まざるを得なかったお店もありました。
先ほど話した僕が大好きだったお店は、テクノロジーに頼らないというポリシーを持ち、調理には一切電気やガスを使わず、石窯を使っていたんですね。サラダ以外は、フライパンや板ごと石窯に突っ込んで料理をする。ですから、テイクアウトには向かないし、キッチンカーも厳しい。地元の人たちに愛されていた予約も取りづらいほどの人気店でしたが、通常時は大きな魅力となる頑固なまでのこだわりは、今回のコロナ禍のような激変が起こった時には持続不可能の要因となってしまった。それはひとつの教訓と言えるのではないでしょうか。
地方のお店を都市が支える仕組みができた
――コロナ前とコロナ禍となってからの飲食のスタイルは、まったく異なりますよね。おいしい食を提供するという本質は変わらないのですが、テイクアウトや宅配、オンライン販売など、その場で食べてもらう以外のスタイルへの対応が必須となりました。この2年で飲食の形がリセットされつつあって、再構築を迫られているという印象があります。山崎さんも、Uber Eatsに対応されていましたよね。
山崎:めっちゃしていましたよ。一時期本当にバーンと売上が下がった時には、名物料理の燻製を使ったサンドイッチを作って、自ら運んだりもしました。20個のオーダーをいただいて、市民病院まで届けに行ったこともあります。「あれ?山崎さんですか?」なんて驚かれて、そんな大変なら行ってあげないとという雰囲気になって、買いに来てくださった方もいました。それはすごく嬉しかったですね。
――一方で、Uber Eatsやオンライン販売といったデジタルのインフラは、個人事業主が多い飲食店にとって導入は決して簡単なことではないと思います。デジタル化が進んでいるアメリカではいかがでしょうか?
山川:アメリカでは、Uber Eatsはコロナ前から流行っていました。タクシーのUberはすでに定着していましたし、自分たちの元に何かを呼び寄せる、来てもらうという文化がだいぶ熟した頃だったので、飲食でも切り替えは比較的早かったと思います。飲食ビジネスにおいて、問題は料理の扱いですね。今までは、お店の厨房から客席まで運べばそれで良かったのですが、テイクアウトや宅配だと、容器に入れた状態で品質を保ち、盛り付けもなるべく崩れないように運ばなければいけません。調理や盛り付けも、マーケティングやコストも大きく変わりますよね。その点が、コロナ禍で飲食店を続けていくための難しいところだったのではないでしょうか。そういう意味では、どれだけ自分たちが進化できるかという勝負ですね。
――サステナブルに生きていくためには、変化し続ける強さが必要ということですね。
山崎:ある意味、このコロナ禍はすごく良いきっかけだったと思います。うちのような地方の飲食店にとっては、オンライン販売で新しい販路を開拓するきっかけとなるなど、コロナ禍がいろいろな可能性を広げてくれたという一面もあります。以前なら、その場所に行かないと食べられなかったお店の味が、東京などの大都市圏にいながらでも食べられる。都市に住んでいる人たちが、地方の飲食店を遠くからでもサポートできる仕組みが成り立ったということです。それはお互いにとって新しい生き方であると思います。
――飲食ビジネスというのは、ただおいしいものを作ればよいのではない。それを届ける方法を模索しながら、時代に合わせて変化していくことが大切だということがよくわかりました。日本でも規制緩和により、道路にテラス席を設けたり、キッチンカーで営業したりと、密にならないようにどんどん外に出ていっても良いよ、という形になってきています。そうした行政など外側の変化も見ながら、「おいしい」を届ける方法を皆さん模索しているということですね。山崎さん、山川さん、本日はありがとうございました
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