駐車場の奥の家
今回の家特集の完成まであと一歩と迫った月曜日、私は仕事で京都にいた。出張には上司も部下もおらず、やるべきことさえやればあとは晩御飯を何にしようが私の自由だった。
帰る時の楽さを優先して京都駅前に宿を構えたが、そこはいわゆる繁華街ではない。たまたま私が京都に行く前日に、同じく京都出張に行っていた大学時代の後輩にオススメのお店を聞いたところ、烏丸御池にあるバーの名前が返ってきた。ならばその辺りで晩御飯を、と思ってググっていると今回の特集にふさわしいお店が見つかった。
地下鉄に揺られて10分ほどの烏丸御池駅からさらに歩いて5分でそれらしき場所に着いた。しかし、地図で示されたところには大きめの駐車場しかなく、周囲を10分ほどうろうろとしてはこっちじゃない、あっちかな、と繰り返してしまった。もしかして…と思い最初の地点にある駐車場の奥に進むと、そこに一軒の古民家が現れた。
外観だけ見るとただの家で、中から笑い声でもしなければ入ることすらできなかったかもしれない。ガラガラと戸板を横にずらすと、中は立派なお店だった。左手には調理場も覗けるカウンターが数席、右手は上り框のようになっているが土足で上がれるという。私はカウンターに腰掛けてお酒を頼んだ。
ここは山形料理がメインのお店で、郷土料理やお酒がメニューに並ぶ。京都まで行って山形?と思うかもしれないが(実際私もそう考えた)、じゃあ京都らしい晩御飯ってなんだと考えると、湯葉・京野菜しか思い当たらなかった。前日にはお好み焼きを食べていたし、おいしければなんでもいいや、という気持ちだった。
頼んだのは、だしどうふ、砂肝、焼きネギ。山形でだし、というのは鰹出汁や白だしのようなものではなく、夏野菜と香味野菜を細かく刻み、醤油などで和えたものを指す。きゅうりやみょうがなどでさっぱりしつつ、オクラの粘り気もある。冷奴ともよく合い、酒の肴としては最高だった。
砂肝も一個一個が分厚く大きい。牛タンですと言って出されても信じる人はいる気がした。辛味噌は結構ピリ辛で、牛タンチェーンのねぎしで出される物をイメージして貰えばわかりやすいかもしれない。焼きネギは辛味が全くなく、くたっとした食感がたまらない。お皿にてんこ盛りに盛られた塩は気をつけないとつけすぎてしまう。
蕎麦焼酎とハイボールを一杯ずつ頼み、すっかり満足してしまったが、最後に〆を頼まなければ、と思っていた。というのもこの店の名物は〆のそばなのだ。私はつったい肉そばを注文(つったいは方言でつめたいの意味)。蕎麦は一本一本が太くて噛みごたえもあるけれど、味も濃すぎずにスルスルと胃に収まっていく。肌寒くなっても、冷たいそばで体が冷えてしまうということもないから不思議だった。
お店を出るとまた静かな駐車場が目の前に広がっていた。振り返ったら何もなかった…なんてこともありそうで、私はまっすぐ後輩に教わったバーへ向かった。
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