趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.094 映画 ウィリアム・A・ウェルマン「牛泥棒」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は映画、ウィリアム・A・ウェルマンの「牛泥棒」(1943/米)についてです。
西部劇で”リンチ”がテーマの作品。
人間の犯す罪の中で、リンチは一番嫌な感じがするものの一つ。
リンチ、私刑、集団心理、集団ヒステリーなど古今東西の多くの作品で描かれている。
裁判もなく証拠もないのに、集団の心理が動いていく様は誰にも止められないし、また一人の個人が決めたわけでないので、誰が裁いたのかもわからない。
西部劇の時代、保安官はいるけど基本自分の身は自分で守るし、裁判も毎回あるわけではない。
結構、簡単に私刑のシーンが多いが、それがメインテーマの作品は珍しく、興味深い。
また作品自体がしっかりしているので、コンパクトながら(大平原、牛の群れ、ガンファイトはなく)厚みのある良い作品でした。
ヘンリー・フォンダって西部劇のアクションだけでなく「十二人の怒れる男」などこういう社会的なテーマの良作にもよく出ていますね。
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物語は、西部のある町に主人公と友人が帰ってくる。
酒場で馴染みの女を探し、喧嘩をし、そして巷で起きている牛泥棒の話を聞く。
そこへ酒場に「誰かが殺され牛泥棒にあった」と駆け込んでくる。
町の住人たちは犯人を追って、吊るし首にしようと騒ぎ始める。
判事などが止めても住人たちの怒りは抑えられなく、主人公や友人もその町の自衛団に加わることに。
そして自衛団は犯人を追っていき、あるところで三人の人間を見つける。
三人は何もやっていないと言うが、彼らが怪しいと言うことになって朝になったら縛首にしようと決まってしまう。
はたしてその私刑は実行されるでしょうか・・・。
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ついテーマが刺激的なのでそちらに目がいくが、結構細かい演出が光る作品だと思います。
ファーストシーンとラストシーンで同じ画角で同じように道を横切る犬は、いろいろな監督に影響を与えたと思います。
このテーマや演出はスピルバーグやイーストウッドがこの監督を好きなのもわかります。
そして一番印象的なのは、ラストの手紙の内容。
処刑されようとする男が家族に書いた手紙の内容がズシリと心に残る。
良心。
どこまでその良心を持てるか、どこまで集団心理の中でその良心に従えるのか。
1943年というと日本では1945年に終戦なので、完全に集団心理で戦争をしていた頃ですね。
戦中は良心を出すことは許されなかったと思います。
そして今の現代でも、このようなリンチや集団心理はまだまだ残っています。
いじめやネットの炎上なども。
今日はここまで。
「愛する妻よ、仔細はデイビスが話してくれるだろう。おれの苦痛は一瞬だが、彼らは終生、良心の呵責からのがれられまい。気の毒にさえ、おれは思えてくる。掟というのは、法律書のことでもなければ、判事のことでも弁護士のことでも、保安官のことを指すのでもない。掟とは、めいめいが心の中にもっている、善悪の見分けをつける良心のことなのだ。その良心こそが、ヒューマニティの真髄なのだ。その良心なくしては、文明というものもありえない。その良心を通して、われわれは神に触れることもできるのではないか。めいめいの人が、心の中に持っているささやかな良心、それが最も尊いものなのだ」
/「牛泥棒」より