趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.229 映画 山田洋次「男はつらいよ 幸福の青い鳥」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は映画 山田洋次の「男はつらいよ 幸福の青い鳥」(1986/日)についてです。
「男はつらいよ」シリーズ第37作目、自分が観た今シリーズ43作目。
今作は若いカップルをくっつけるコーチもののパターン。
マドンナに志穂美悦子、その恋人の若い男に長渕剛。
ただ、長渕剛の存在感があり過ぎて、ちょっととらやの皆や寅さん自体が薄くなったような印象。
「男はつらいよ」フォーマットで長渕剛主演の映画を作ったようだ。
寅さんともほとんど会わず、唯一とらやで会って少し話をするだけ。
寅さんの表情も少し硬い。緊張感さえ漂う。
長渕剛さんって好き嫌いが分かれるミュージシャンであり俳優だが、
今回の長渕剛さんは、売れない絵描きで看板屋書きの仕事していてその意外性がとても良いです。
とらやでだんごを食べながらビール飲んで、絶対合わないでしょう。
不味そうにしていますがとても印象に残ります。
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物語は、九州、かつて炭鉱で賑わった街も閑散としていて、贔屓にしていた旅役者の座長が亡くなったと聞いて線香を上げに家を尋ねる。
その一座の花形だった座長の娘(志穂美悦子)に会い、昔を懐かしんで旧交を暖める。何かあったら東京の柴又に来いと。別れ際に売り物の” 幸せの青い鳥”を渡す。
その後座長の娘が上京してきたが寅さんに会えず、街でチンピラに絡まれたとき若い看板職人の青年(長渕剛)に出会う。体調を崩していたので彼の働く看板屋の部屋で一晩厄介になる。
親切をしてくれて同じ九州出身ということで親しみを覚える。
またとらやで寅さんに再会した娘はしばらくとらやで下宿することになり、仕事の当てのない彼女に、柴又の近所のラーメン屋を紹介する。
寅さんはとらやのみんなに今回の娘は恋愛感情はなしと説明し、下宿と仕事の次は
お婿さん探しだと結婚相談所へ行く。
看板屋の青年は美術展に落選し続けてくすぶっていた。応援する娘に青年は強引に抱きつこうとして拒絶され、喧嘩し部屋を去ってしまう。
数日後とらやで店番をしていた寅さんのところにその青年がやってくる。
店で待っている青年に寅さんが相談に乗っていると、ちょうどラーメンの出前を持ってきた娘と会う。
謝っても、お互いに不器用なので気を許せず口喧嘩して青年は店を出てしまう。
黙って聞いていた寅さんは、お互いに好きなんだろう。追っかけていけと言う。
さくらが団子のお釣りを渡してと言って背中を押す。
駅で追いつきお釣りを渡すと、その手を自分のポケットに入れてお互いに手を温めあう。
寅さんは役所の結婚相談所でもらった婚姻届の保証人に名前を書いてさくらに渡す。
正月になり娘と青年がさくらの家を訪ねる。結婚しても画家になる夢は諦めて欲しくないと言う。
寅さんは箱根で”幸せを呼ぶ青い鳥”を売っていた。
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本当に今回は珍しい作品。
今までもたくさんの男性ゲストが出てきたが、中村雅俊、布施明、武田鉄矢、沢田研二、渡瀬恒彦、三船敏郎、外国の役者ハーブ・エデルマンさん、それでもやはり寅さんが主人公でした。
確かにシリーズ後半は寅さん(渥美清さん)も歳を取り、満男(吉岡秀隆さん)が主人公になる作品もあります。
しかしまだ元気な寅さんなのに、主人公を食ってしまう存在感の長渕剛さんは凄いです。
そう、このシリーズと全く合っていないんです。
まるで団子とビールのように。
映画の中でそのシーンが出てきますが、絶対不味いでしょうw
寅さんとの絡みが少ないのも、映画制作の裏に何かあったかもしれません。
このシリーズにも何人ものやさぐれた人間は出てきます。
けど、長渕さんのように、一応画家志望で看板屋と言う設定ですが、妙に狂気を持った雰囲気なんです。
この違和感。
いやそれがすごく魅力的なんです。この50作もある伝統的な「男はつらいよ」シリーズのフォーマットに収まらない存在感の男。
シリーズものが大好きな人間にとって、フォーマットから逸脱する瞬間こそ
一番楽しみにしています。
ラスト長渕剛がさくらの家の満男の部屋でハーモニカを吹くシーンの意味不明さがたまらない。
そして今作以降実生活で長渕と結婚して、女優を引退した志穂美悦子さん、本当に絶頂期でやめた女優さんでした。
映画の中で柴又のラーメン屋で働くようになり、柴又中の男どもが押し寄せ大行列に、お店が大繁盛にw
あれだけ美しい人が働いていたら一度は行きたくなります。
今日はここまで。
「話は後で聞く、さ、すぐ追っかけて行きな」
「でも…」
「おまえはあの男が好きだし、あいつはおまえに惚れてるよ。
オレから見りゃよぉくわかるんだ」
「お兄ちゃんのいう通りよ。もしほんとにこのまま別れ別れになったらどうするつもり?」
「これ、おつり。渡してあげて、…さ、」
喧嘩別れした青年(長渕剛)を追っかけるように娘(志穂美悦子)に言い聞かせる寅さんとさくら。
/「男はつらいよ 幸福の青い鳥」より