趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.089 読書 月村了衛「悪の五輪」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は読書 月村了衛さんの「悪の五輪」についてです。
今結構ハマっている月村了衛さんの作品。
「機龍警察」、「機龍警察 自爆条項」、「土漠の花」、「機龍警察 暗黒市場」、「欺す衆生」、ときて
六作品目。
近未来の警察、戦争もの、詐欺師の話とどんなジャンルでも面白い月村さん。
今回は最近の東京オリンピックではなく前の五輪 1964年の東京オリンピックの記録映画についてのお話。
黒澤明が辞退して市川崑が監督になった事実は知っています。
この事実の中でフィクションを入れて、物語が始まります。
そのオリンピック記録映画の監督選びで、中堅の監督を推して興行会に進出しようとするヤクザのお話。
昭和の時代の興行会、政治家、ヤクザ、たちが莫大の利権を狙って奪い合い、急激に変貌を遂げるその時代の日本をアンダーグランドから描いていく。
もう黒すぎで面白い。
最近の東京オリンピックもいろいろといざこざや問題も噴出しましたが、1964年のオリンピックはもうそれは凄かったでしょうね。
その黒いエネルギーを存分に感じました。
・
物語は、映画好きのヤクザが主人公。
来年に控えている東京オリンピックの公式記録映画、巨匠黒澤明が降板した。
監督選びが始まる中、主人公や彼の組みは後任に中堅監督を推して、興行会に打って出ようとする。
昭和の時代はまだ、映画界とヤクザの世界は裏ではかなりつながっている。
ただ単なる映画ではなく、オリンピックの記録映画なので、
組織委員会には政治家や財界関係者も絡んでいて、主人公はあらゆる手を使って自分の推す監督に投票してもらおうと駆け回る。
・
もちろん、そのヤクザの推す中堅監督は実在しないが、その代わり映画監督や俳優、政治家、右翼、ヤクザなどどんどん実名が出てくる。
先日読んだ佐々木譲さんの「ベルリン飛行指令」も漫画「イサック」もキングの「11/22/63」も。一つの大きな嘘をあとはまわりは徹底的にリアルで固める手法がある。
零戦をライセンス生産するためにドイツへ運んだり、火縄銃の名手の武士がヨーロッパに行ったり、タイムスリップしてケネディ暗殺を食い止める。これらはフィクション。
それを、徹底的にリアルに実在の人を出したりするともうこれはノンフィクションではないかと錯覚してしまうほどになってしまう。
この悪の五輪、もう本当にそんな黒い黒いことがあったのではと思ってしまうほど。
けど表に出ないだけであったのでしょう。
・
自分が映画が好きな理由に近いことが書いてありました。
全部嘘の世界の映画。
そうその嘘を本物らしく見せてほしい。自分を完全に騙してほしい、という願望があるかもしれません。
嘘でも良いから”本物”らしいものを見たいんです。
今日はここまで。
小便臭い劇場の硬い椅子に座るだけで、1時間か2時間、目の前に嘘が広がる。色のない、あるいわ極彩色の嘘、欺瞞だらけの世の中で、明白な嘘はいっそ芯から心地好かった。うまく俺をだましてくれ。世の中にも綺麗なことがあるのだと。この俺をだましれくれ。
/P.26「悪の五輪」