趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.203 読書 岩井志麻子 「岡山女 」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は 読書 岩井志麻子さんの 「岡山女 」についてです。
岩井志麻子さんと言えば「ぼっけえ、きょうてえ」が印象深い。
彼女の本はこの一冊しか読んでいないが、あまりにもの怖さに只者でない感じがし、自分の人生の中で一番怖い本です。
その後で豹柄のコスプレしてバラエティ番組に出てきた彼女の姿を見て、二度驚きました。
ある意味そのギャップさに余計に怖くなり、作品と作者は一緒ではないと言う自分の中の事例になっております。
そんな最も怖い小説を書く作者の作品。
明治時代の岡山、妾として囲われた女が夫に日本刀で切りつけられ失った左目と美貌。
その代償にその左目で霊が見えるようになる。
岡山に女性霊媒師が現れると新聞の取り上げられ彼女の元に次々と依頼者が来るようになる。
隻眼の霊媒師の連作短編集。
あのえげつない描写の「ぼっけえ、きょうてえ」よりは割とソフトだが、
やはり岩井さん抜群の構成力、描写力、まさにプロで、怖さと人間のいやらしさと本当に見事に描いている。
そして岡山の方言が、怖い。
そしてこれが圧倒的に岩井さんの武器です。
宮部みゆきさんや小野不由美さんのホラーも怖いですが、岩井さんにはこの方言がある。
方言を聞くと遠い昔の田舎の世界へ、リアリティを伴ってトリップできます。
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物語は、明治時代の岡山、妾として囲われたタミエは、事業に失敗し狂乱した夫に日本刀で左目を切られ、夫自身はその刀で自害してしまった。
瀕死の重体から奇跡的に助かったが、左目と美貌を失ってしまった。
その代償に、その見えない左目に、この世のものでない死霊の影を見ることができるようになった。
妾商売から食べていかなくてはいけないので、両親の協力を得て霊媒師の仕事をするようになる。
新聞にも岡山に女霊媒師が現れると取り上げられると、
いろいろな事情を抱えた依頼客が来るようになる。
ただタミエはまだ能力がおぼつかず、少しだけ霊が見えたり感じたりするだけで、探偵のように両親が相手の周りの状況を調べていく。
双子のように育った少女の食い違う話、コーヒーを扱う店の男が義母を探して欲しいという話、美人写真絵葉書のお店で出会った男に母を探してくれと頼まれる話、ステン所、ステーションを舞台に当時最先端の蒸気機関車にまつわる話、勧商場今でいうデパートで怪異が続発する話、ハレー彗星が近づく頃子供の神隠しがありそれを調べる話。
6編の短編、当時明治の岡山で話題になったいろいろな時事ネタを舞台にしているのも楽しい。
コーヒー、写真、機関車、デパート、ハレー彗星。
主人公の夫に切られたこと、家族が自分を利用して生活しているところ、次々と相談しにくる霊に悩んでいる人、と暗くなりがちなのに、
妙にハイカラな時代へ突き進んでいく明治の時代描写が、夜に灯りがつくように、この物語の雰囲気を幽霊がでてき暗く怖いけど、明るいものも見えるような感じになっている。
このバランスの良さがとっても好印象。
最恐の小説家であり、バラエテイーでは豹柄のコスプレする、両極端のイメージ。
すみません、岩井志麻子さんとても上手く品のある素晴らしい物語も書かれるのですね!
彼女の作品を今後も読んでいきたいと思います。やっと「ぼっけえ、きょうてえ」の呪縛から逃れられました。
今日はここまで。
その彩色された美人達は皆どこか空洞の眼差しで、自分達の暗い過去と行く先を見つめているかのようだった。あの時のタミエや壮介の母親と同じで、決して目の前の男に微笑みかけたりはしていないのだー。
/P.106 「岡山女」より