趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.308 読書 伊岡 瞬「代償」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は読書 伊岡 瞬さんの「代償」についてです。
嫌ミス、読後嫌な気持ちになるミステリー。
もう嫌な気持ち以上で、読んでいて途中耐えられなくなるほど。
いろいろな小説を読んできて、凶悪な殺人者の作品とかありますが、怖いけどカラッとしていてさほど嫌悪感は湧かない。
この小説の達也は今まで読んできた犯罪小説の中でも1、2位を争うほど
の極悪。
何かやむ得ない事情があって悪の道へ入った人ではありません。
生まれながらの悪。
また殺人鬼とかそう言うわかりやすいのではなく、本当に身近にいるかもしれないというリアルな怖さ。
自分の手を汚さす、人をコントロールしてしまう人間。
人をいじめたり不幸にさせることを喜ぶ人間。
この圧倒的な”悪”を作り出した作者伊岡 瞬さんは素晴らしい。
今までもジェフリーディーバーの天才犯罪者ウォッチメーカーや、羊たちの沈黙のレクター博士など、圧倒的な頭脳を持って、凶悪な犯罪者はいた。
けどそう言うスーパー能力のある悪人じゃ怖くないんです。
見た目は普通で、一緒に暮らしていると言うのが、逃げられず怖い。
そして生まれながらに子供の頃から悪人だけど誰も気づかない。
この身近なのが、これだけ嫌な感じがするのでしょうね。
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物語は、主人公圭輔は小学生。幸せな生活を送っています。
ある日遠い親戚の従兄弟の達也が家に来ます。
言葉巧みに圭輔の両親に気に入られ、次第によく遊びに来るようになりました。
それから家の物がなくなったり、お金が無くなったりします。
その達也が圭輔の家に遊びに来たとき、火事が起き、両親は死んでしまいます。
達也とその母親の家に預けられます。
そこからまるで打って変わったように母親と達也は本性を出して、圭輔はいじめられ奴隷のような生活を送ります。
両親が残したお金は全部二人に取られて使われてしまいます。
達也と母親は義理の親子で、二人は性行為もしています。
そんな地獄のような生活の中、友人ができ、好きな女の子ができます。唯一の救いです。
しかしその女の子は、達也の仲間の不良たちにレイプされ、引っ越しをしてしまいます。
圭輔は友人の家族のお陰で、やっと救い出されて、弁護士になります。
ここまでが前半。
もう達也とその母親から奴隷のような扱いを受ける地獄の生活が永遠に続き、もう何度もこの本をやめようと思いました。
もう普通気が狂うか、逃げ出すか、どこか施設に行くか、それとも戦うか。
しかし弱みを握られ、マインドコントロールされ、反撃することもできません。
もう前半でやっと救い出されて良かったと思ったら後半が始まります。
圭輔は弁護士になっていて、ある日長い間音信不通だったその達也から、強盗殺人の容疑で逮捕されたから弁護してくれと依頼が来ます。
両親が死んだ原因が自分かもしれないという部分を巧みに達也に操られて、渋々弁護を引き受けます。
昔レイプされた彼女の妹が現れ、証人になってくれると。
二転三転して、達也は余裕しゃくしゃくです。
実は巧妙に仕組まれた罠で、裁判と並行して、過去の事実も明るみになり、一気にドラマチックに展開します。
果たして達也と圭輔はどのような決着がつくでしょう。
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まあ文体はとても読みやすく、物語はどんどん展開しますので、面白いことは面白いです。
でもそこは嫌ミス。
達也の極悪ぶりに耐えられるかが、この本のミソです。
ここまで酷い人間はなかなかいません。
そんな人間に弱みを握られ一緒に暮らして奴隷扱いされるのに耐えられるか!
それもすごくリアリティがある表現なので本当に”嫌”な感じがします!
本当にきつい読書でしたが、なぜかクセになるような予感もします。
また伊岡 瞬さんの違う本も読んでみたいです。
今日はここまで。
まず、今まで自分の書いたものを振り返ってみました。ミステリなので犯人・悪人が出てきますが、その人たちにも事情があって、弱さゆえに罪を犯したり道を踏み外したりする人が多かったんですね。今度はそうではなくて、全く人を顧みない、全く反省しない根っからの悪を書いてみたいと思い書き始めたのが『代償』です
/伊岡 瞬