趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.341 読書 伊坂 幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」
こんにちは、カメラマンの稲垣です。
今日は読書 伊坂 幸太郎さんの「アイネクライネナハトムジーク」についてです。
伊坂 幸太郎さんの6章からなる連作短編集。テーマは恋愛、出会い。
いつもは伊坂と言えば犯罪絡み(殺し屋や死神や銀行強盗)の作品が多いが、今回は誰も死なない。
なので淡々として読めて、読後感も良い感じ。
6つの話が伊坂さんの特徴でうまくリンクしていて、短編だけど一つの世界観で繋がっているので、いろいろな状況を描く普通の長編としても読めます。
いつものように複数の話、伏線回収、時系列を変えるなど伊坂さんらしいが、連作短編集という形と、犯罪が出てこないというところが珍しい。
しかし死者や犯罪が出てこないからってスリリングではないかというとそうではなく、十分に面白い。
特に昔学生の頃いじめられた女性が社会人になったからいじめた女性と仕事で出会い、そのいじめた女性は主人公のことを気付かず、復讐するかどうか迷う話はとってもスリリングで面白かったです。
あとボクシングの話も。結構試合のシーンの描写は、ボクサーからの主観の視点で、伊坂さんの筆力に感心いたしました。
今作で伊坂作品18冊目ですが、またいつもと少し違う一面も見れて、楽しかったです。
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物語は、6章からなる連作短編です。
第一章は、主人公の青年は街頭でアンケートを取っていた。なぜなら会社の調査データを先輩が壊してしまい、復旧できなかった分をアンケートで集めていた。
あまりアンケートに答えてくれない中、ある女性が応じてくれて、彼女がキャラクターのついたストラップをしていました。
街頭ビジョンにはボクシングの試合が映し出されています。
また別の日主人公は大学の同期の夫婦のところへ遊びに行き、そのキャラクターの話をすると、それって出会いじゃないのと言われ、キャラが出ているDVDを借ります。
また違う日データを壊した先輩が出社し、奥さんとの出会いの話を聞く。
第二章
主人公は女性美容師。お客で友達の女性と髪を切りながら、美容室に貼ってあるボクシングのポスターの話をしていると「彼氏がいないなら、うちの弟と電話して欲しいと」紹介される。
最初は乗り気ではなかったが徐々に打ち解けて、電話だけで話す関係は長く続く。
ある日紹介した姉は、今度日本のボクサーが世界チャンピオンになったら主人公に告白すると聞く。そんな他力本願に複雑な気持ちを抱きながら、その姉と一緒にテレビで試合を観ます。
第三章
主人公はデータを壊してしまった先輩。奥さんが娘を連れて家を出ていってしまっています。
ある日5年に一度の免許の更新に行きます。
そこで10年前と5年前に会った女性のことを思い出します。
10年前の出会いは視力検査の時に主人公のメガネを貸したことがきっかけでした。
5年前も偶然会い、彼女は通帳に記帳をしないことが原因で夫と別居している。
そして主人公は出ていった娘から生活のことや通帳の記載をしている?と聞かれ、免許センターで会った彼女のことを思い出し、今年もまた出会えるか彼女の姿を探します。
第四章、女の子がファミレスでバイトをしていると年配の人からクレームをつけられ、その時ある若者がとっさの判断で「このお嬢さんの父親はどんな人か知っていますか?」と言い彼女を助けました。その後それがきっかけで二人は付き合うようになります。
高校生の男の子と女の子。女の子が駐輪場で自分の自転車に入場の60円のシールを貼ってあるのに、誰かが自分のを取っているので男の子と一緒に犯人を探して欲しいと頼まれる。
女の子と男の子はシールを取ったおじさんを見つけるが、逆ギレされ大変なことになりそう。
そこへ担任の英語の教師がやってきて、「このお嬢さんのお父さんは誰なのか知っていますか?」と言いその場を収めます。
第五章、化粧品メーカーで働く女性はかつて太っていていじめられっ子でした。
ある日広告会社の人と打ち合わせで会うと、そこにかつて自分をいじめていた女性がいることに気が付きます。しかし相手は自分のことを気が付きません。
主人公はダイエットしてかつ化粧も上手くなっていて結婚して苗字も変わっていたからです。
友人に話すとこれは復讐のチャンスだと言われますが、主人公は乗り気ではありません。
ある日そのいじめっ子に合コンの人数合わせにどうしてもきて欲しいと誘われます。
その合コンの席でバレやしないかドキドキしながら、そのいじめっ子を観察すると、昔と同じように偽の情報を出して、恋のライバルを蹴落として自分は狙った男性といい感じに。
主人公はその後復讐するでしょうか?
第六章、ボクシングの話が中心に、今までの1〜5章の話が時系列を交互させながら緩やかに繋がっていきます。
主人公は一度ボクシングの世界チャンピオンになったが、防衛戦で負けて
それから10年後、再び世界チャンピオンと試合をします。
果たして試合の結果は?
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まあやはり連作短編ですね。
一つの長い話ではありません。
出会いをテーマにした話。
それが緩やかにリンクして繋がっている。
繋がっているけどあくまでも別の話なので、その出会いというテーマがある短編集を読むように淡々とした印象を受ける。
居心地の良い短編集。
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昔いじめられた人間と会ったら復讐するだろうか?
相手はこちらのことを知らない。
そして仕事で自分の方が上の立場。
まあネタバレになるのでこの話の結末は言えませんが、良い着地点でした。
自分だったら、本当に良い人間だと思われたいとも考えず、復讐はしないと思います。
相手を落とし込むのではなく、逆に良いところを見せて、昔とは違う側面を見せてどうだ!という感じに。それもある意味復讐でしょうか。
今日はここまで。
自分がどの子を好きになるかなんて、分かんねえだろ。だから、『自分が好きになったのが、この女の子で良かった。ナイス判断だったな』って後で思えるような出会いが最高だ、ってことだ
/「アイネクライネナハトムジーク」より