趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.014 読書 ドン・ウィンズロウ「失踪」
カメラマンの稲垣です。
今日は読書 ドン・ウィンズロウの「失踪」についてです。
大好きなドン・ウィンズロウ、麻薬戦争の犬の力シリーズ「犬の力」「ザ・カルテル」「ザ・ボーダー」、腐敗警察小説「ダ・フォース」短編集「壊れた世界の者たちよ」初期の傑作「ボビーZの気怠く優雅な人生」
そして先日は現代戦争小説「報復」をnoteで紹介しました。
今までハズレ無しの圧倒的な面白さ。
最近は彼のシリーズではない単発ものを読んでいる。
今回は「失踪」、誘拐事件もの。内容はきつい話ですが、割とバイオレンス要素は薄く今までにない気持ちよさも。
新しい風を感じました。
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物語は刑事が主人公。ある少女誘拐事件が起きるが結局迷宮入りに。
数年後また同じような誘拐事件が起きるが、子供は死に犯人は捕まえたが
最初の女の子は見つからない。
責任を感じた刑事は警察を辞職し、妻を置いて、単独で少女を探す旅に出る。
わずかな手がかりを追って、1年近く車でアメリカ中を探し、
ついに華やかなNYで少女に繋がるものを掴む。
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最初誘拐事件の警察小説かなと思ったら、辞職して1人で少女を探す話になった時
この物語は別の面を見せ、ものすごく魅力的に。
失踪事件、人身売買など、アメリカのダークな面がこの物語の筋だが、
この全米を車で旅するロードムービーがすごく良い!
安いモーテルやレストランなどの旅する生活が、なんとも読んでいて楽しかった。
そしてNYのファッション撮影業界でカメラマンとモデルが出てきて
まあ自分とは天と地との差があるが写真業界の話が面白い。
印象的なシーンは
少女と会ったかもしれないNYのカメラマンを訪ねて、そのカメラマンのモデルと話をするシーン
「モデルという職業は、そもそも、すごく個人的なの。
男性カメラマンに自分のからだを撮らせるのって、セックスより親密な行為かも。
だって、外見だけじゃなく、心の内側までさらけ出すんだから」
かっこいい!確かにそういう心の内側まで出た写真が撮れた時は傑作が生まれる。
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いや〜本当にドン・ウィンズロウどうしてこんなに面白いのでしょう。
失踪事件、人身売買とひどい話ながら孤独な男の車の旅と写真業界の華やかさを両立させながら圧倒的なエンターテイメントを作り出す。
最初警察をやめ一人で少女を探すなんて、リアリティに欠けると思いましたが
これは警察機構で自分の州だけの範囲で仕事としてはやはり無理で、
全てを投げ打って執念の塊で探し出したからこそ、この物語は成立したのではと思います。
男の執念
主人公の台詞で、警察をやめるときに。
「母親のシェリル・ハンセンに約束したんだ。捜査をぜったいやめないとね。」
倫理的相対主義とやらがもてはやされる昨今では、約束などたいした意味を持たないのだろうが、
私が父から教え込まれたのは、約束だけは、他人にけっして奪われない唯一の宝物なのだ、と。
誰にも渡さず、いつまでも持っていることができる。
痺れました。
男の生き方が書いてあるハードボイルな小説でもあります。
今日はここまで。
「ポットにコーヒーを淹れたわ」
愛とは、大仰なものばかりではない。
ときには、ささやかな行為に宿る
/P.72ドン・ウィンズロウ「失踪」より