Infinite Music Odyssey_001
この一週間わたしとともにあった音楽を振り返る。
わたしのセンテンスは、いつも主題が散漫としているきらいがある。
ヤングコーンの美学を呟く舌の根も乾かぬうち、霊柩車の「ファーン」を考える。
辞書っていいよね、と謳ったそばから、ねえ、隕石って怖いよね…と俄かに渋面。
高校倫理の教科書への愛を語った勢いでサウナ万歳を三唱してみせる。
先生に叱られても怖くない「魔法」を伝導したかとおもえば駄菓子を褒めそやす。
猫かわゆい、ああ、ダンボール戦機懐かしい、あとは若菜集も面白くってね…
文化人類学を専攻し、美術館・博物館を研究していると掲げていながらこの為体。
フォロワー諸賢を筆頭として、安定して読者がいらっしゃることが不思議である。
傍目八目、自分で気づいていないだけでどこかに滋味が内蔵されているのかも。
いつもありがとうございます。
諸君にヤングコーン十字の祝福のありますように。
というわけで今回は、この一週間わたしが親しんだ音楽を5曲紹介したい。
無論、専門家でもなんでもないが、好きであれこれ聴いている自負はある。
それにわたしは、やたら物事に感動するタチの言語化マニヤでもある。
なにかつらつらと書き連ねてみるのも、存外悪くないかもしれない。
ものは試しで、これから毎週日曜日の恒例企画に位置づけたいとおもう。
Infinite Music Odyssey——わたしI.M.O.とともに、いざ音楽の遥かなる旅路へ。
♫ I'm confessin' (That I Love You) / Thelonious Monk
NHK Eテレの番組「2355」を視聴して、その日いちにちに決着をつける。
それがここ数年来、縷々と続けてきた習慣である。
風呂に入っていても「あと少しで始まるな…」と急いで浴槽から飛び出す。
課題戦争に負けグロッキーになりながら階下に降り「2355」を観ることも多い。
疲れ、痺れた頭と眼に、この番組は優しい。そして——、耳にも。
穏やかなナレーション、やわらかな曲調が一貫されており、非常に心地よい。
そこで長らく使用されている曲の一つに、この「I'm confessin'」がある。
ずっとこの番組内で聴き慣れてきたこの曲がMonkのものだと知ったのは最近だ。
Amazon Primeでノンビリ音楽を聴き流していたら、ふいに聞こえてきて吃驚。
名盤の呼び声高いだけあって、音が素直に皮膚を貫き、琴線を優しく掻き撫でる。
『Solo Monk』は収録曲全て愛おしい。
♫ 太陽の下の18才(FM TOKYO LIVE)/ MOONRIDERS
Monkの静謐・温厚な調べをお届けしたあとに挙げるのも考えものだが、
続いてわたしはムーンライダースの曲をご紹介したい。
先日、通学路にあるレコードショップで店主とゆらゆら踊った旨を記した。
入店間もなく彼に「好きなアーティストとかいますか?」と打診された折、
「む…ムーンライダースとか、トーキングヘッズとか…」と反射的に答えた。
「えっ、そこ好きって珍しい」と驚かれたが、それぐらい彼らは鮮烈なのである。
はじめてAmazon Primeの海でこのアルバムに漂着したときはケッと嫌悪した。
唄う鈴木慶一の声に全身が粟立ったのである。「いやあ、この声は…無理だ…」
ドストエフスキーが唄ったらこうなんじゃないか、というのがわたしの持論だ。
その荒唐無稽かつ縦横無尽な声調を清澄な心持で静聴できるほど、
当時——おととしごろか——のわたしは成長も整腸もしていなかったらしい。
しかし折に触れて聴いているうち、すっかりゾッコンになってしまった。
自動車学校に通っていたときも、このキケンな「太陽の〜」を好んで聴いていた。
そして昨日か一昨日から、この曲のライヴ・バージョンを聴くようになった。
ラストサビの鈴木の絶唱には「キモい〜…っ」と讃辞と拍手を送ってしまう。
そんなわけで底抜けに魅せられてしまいましたが、諸君は、どうでしょう。
♫ One More Time / Ausecuma Beats
ふだん利用している音楽配信アプリはAmazon Primeだけではない。
bandcampという界隈にもよくうろついている。なかなか乙な空間で好み。
メジャーに活躍するプロだけでなくアマチュアも棲息しており、活況なのである。
基本は無料で大半が試聴でき、あるいは購入しダウンロードすることもできる。
このアルバムにはbandcamp上で偶然出合って一目惚れし、即時購入した。
アフリカンな、乾いた、軽やかな、愉快な、豪放な、爽やかなサウンドが魅力。
耳を傾けるうち自然と、身体と心臓がゆらゆらする、いい音楽。そうおもいます。
ちなみに、どうやらAmazon Primeでもこのアルバムが聴けるとのこと。
♫ '39 / Queen
Queenの熱烈なファンだというのではない。
『ボヘミアン・ラプソディ』も観ていないし憶えているメンバーもフレディだけ。
それでも、このアルバム、とりわけこの「'39」は大好きである。
昨年2月に訪れた北海道のツアーで知り合った友人に勧められたのが、端緒。
最終日なんだか徹夜したい気持になってボンヤリ朝まで起きていたときに聴いた。
そのときは有名な「Bohemian Rhapsody」に胸を打たれたものだったが、
帰仙してからも継続して触れていると、「'39」に殊にどきどきするようだった。
歌詞も分からず聴いていても、なぜか、遠い哀愁の念が掻き立てられる。
いざ歌詞内容を検分してみるとなおさら感動は深まる。なんと切ない…
相対性理論を楽曲に応用する機知と、胸揺さぶる絶唱とギター。たまらない。
♫ Machine Gun / Janko Nilovic
前述のレコードショップにて購入したレコード盤収録曲よりセレクト。
作曲したNilovicは1941年トルコ生れ、フランスを拠点に活動する音楽家である。
ライブラリー・ミュージックという、テレビ番組・ラジオ番組の挿入歌として、
いわば「なにかに使用されること」を前提とするマルチな楽曲制作を専門に
70年代に活躍した。「Machine Gun」はその手腕がよく窺える一曲だとおもう。
目を瞑って耳を傾けていると、なんだかイメージが煮凝り、像を結び始めるのだ。
朝、地表が太陽光線により活力を漲らせ己の生命を謳歌する熱量が胸に沸き立つ。
聴いているこちらも愉快な律動に全身が揺り動かされ、陶酔する。
彼の音楽に出合うことができたおかげで活き活きした一週間であった。
I.M.O.の蔵書から書物を1冊、ご紹介。 📚 かくれた次元/エドワード・ホール(日高敏隆・佐藤信行訳)