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150歩下がって ~裏方目線で見守った出雲駅伝~
沿道での観戦自粛が求められた2021出雲駅伝。「 出雲駅伝コース沿いに住んでいるなら、写真撮ってよ。期待しているよ。」の声があっちこっちから飛んできた。
確かに自宅敷地内から撮れる。スマホでも十分行ける。でも撮るとSNS投稿したくなる。そして自宅がバレる。さすがにそれは避けたい。大人しくテレビで見てようか、、、、と思っていた時、とある写真集が届いた。
記録集「島根町加賀大火の記録」
近くの漁村で大規模火災があり、一集落焼失した。記録集に「後世へ記録として残す」と記したのは、尊敬してやまない元上司だった。
そうだ、戦争には従軍記者がいる、自然災害時には自治体が記録する、有事のときには写真が大事だ。
「当事者は目の前のことで精いっぱい。写真にまで気を配れない。冷静な目で大会を記録することは大事。その役目を買って出よう。」と思う自分と、「沿道での観戦自粛を破ってまですべきではない。」と思う自分がせめぎ合う。
「今まで見た出雲駅伝の写真とは毛色が違いますね。裏方目線ですね。」
2020年に写真展を開催した折、出雲駅伝主催者スタッフ達は私の写真をこう評した。
コロナ禍になる前のレース裏側を撮った人はいないらしい。
コロナ禍になってどうレースが変わったのかを比較して伝えることが出来るのは、自分しかいないのでは????
妙な使命感が沸き上がってきた。
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ここ数年、大会に関わるようになった。とはいっても、堂々と「関係者です」と名乗れるほどの関係者ではない。
大会関係者IDを持つ人達の現地サポートという位置づけ。レース前の準備を手伝い、レースが終わったら片付けにいく。
些細な関わりではあるが、大会運営の一端が見えてくる。
加えて今回から家族が関係者ID所有者になった。家族と一緒に資料を読み解いてみた。支給された資料の膨大さは、これまで本業で関わってきた数多のイベントの比ではなかった。過去32大会分の重みを実感した。
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大会3日前から遅めの夏休みを取得し、朝晩にコースをドライブした。「出雲駅伝コンシェルジュ」の企画に賛同し「全日本、箱根にないもの」を確認するためである。
写真撮影をしているとコースを下見する選手たちとすれ違う。これまでは、「頑張ってね!」と大声で声援を送ってきたが、今年は声を掛けられない。
すれ違う少し前から手を振ってみることにした。かなりの確率で反応が返ってくる。すれ違った後で「ガンバレ~!!」と声を掛ける。
一瞬頭を下げて、前を進む選手たち。大会史上最悪の猛暑が予想されていただけに、「必ず襷をつなげてね!」と祈る気持ちでいっぱいだった。
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大会前日は総合リハーサルが行われる。選手が走っていないだけという本気モード。前述のコースドライブ中に、車列と遭遇した。
上空にヘリコプターがいない。
例年だと、3~4日前から市内上空にヘリが飛ぶ。プロペラ音が聞こえたよと聞くと、出雲駅伝が始まったと実感してきた。今年はこの話題が夕餉の話題に出てこない。
「フジテレビ、空撮をあきらめたのか、、、」少々残念に思っていたが、リハーサルで空撮無しを確信した。
「出雲市民に受け入れてもらうための苦渋の選択」なのだろうが、出雲平野上空をなめるように映し出す映像を楽しみにしている知人達の顔を思い浮かべると、申し訳なく思ってしまう。
取材陣に対しても、スタート、フィニッシュだけの取材許可、沿道及び中継所での取材禁止制限が敷かれている。
いよいよ明日、号砲。
2年ぶりの開催の喜びと、映像や写真のアウトプット量が少なくなる申し訳なさが入り混じって、なかなか眠りにつけなかった。
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2021.10.10 目覚めと共に決意した。
150歩下がって、レースを撮ろう。
見守る場所は、前々から探していた。
「沿道でない場所」
「我が家敷地内から見るより離れた場所」
「私有地ならば地権者の同意が得られる場所」
この3つを守れることがベース。150歩というのは、自分の歩幅基準である。
地権者さんには、前々からアプローチしていた。「コロナ禍の駅伝を記録したい。御地で見守らせてもらえないか。」全ての場所で快諾いただけた。
だが、なんとなく後ろめたい気持ちもあった。批判もあるだろう。
何年か先、「コロナの時、大変だったよね」と振り返ったときの資料にしたい。
今と未来を天秤にかけて、未来を取った。
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ある中継所を俯瞰するポイント。
ビルの上階から、ガラス越しに見守る。
中継所には規制線が張られ、許された人しか入ることが出来ない。
肉眼では、小さくて誰が誰か解らない。望遠レンズを取り出して見る。
大学のユニフォームか、主催者が用意したブルゾン、所属団体で決められた制服しかいない。
規制線の外には、観客がチラホラ。二重三重となる例年の様子からしたら、拍子抜けするほど少ない。
2年前と違うところが無いか、記憶をたどる。
主催者のテントが2張から3張に増えている。医療スタッフが出入りしている。
選手控え場所で、出走を控える選手へのメディカルチェックをしている医師が見える。気温30℃を超えているから、声掛けをしているのであろう。
中継所を飛び出すランナーを撮るフジテレビのカメラが無人になっている。
台上で選手の動きに合わせて機敏にカメラを振っていたカメラマンの姿が無い。
ヘリコプターといい、カメラといい、ギリギリのところまで、スタッフを削っているのだ。
テレビ映像を見ているファンは、気づくだろうか?
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田んぼを挟んで、コースが見渡せる場所。
「田舎っぷりをごらんください」と出雲駅伝の見どころ紹介を書いた。多くの人に読んでもらった。
ならば、その田舎っぷりが感じられる場所から、レースを見守ろうと決めた。
出雲駅伝の頃は、稲刈りシーズン真っただ中。
我が家もかつて米作をしていた時代があり、午前中は稲刈り、午後は駅伝観戦が当たり前だった。ご近所さんを誘い合って、コース沿いで旗を振ったものだ。
今回観戦に選んだポイントも、稲刈り真っ最中。
コンバインの音と、稲刈り粉塵が舞い、アキアカネが飛び交う田んぼ脇で、五感を研ぎ澄まして、車列を待つ。
道路までの距離があること、コースの風上に立っているからか、車のエンジン音は全く聞こえない。
例年ならヘリコプターが飛んでいる。空を見上げて、ヘリの位置を見れば、選手が走っている場所の見当がつく。周りにいる人のワンセグで、テレビ映像を見ることが出来る。沿道の歓声が徐々に大きくなり、カメラを構える。
選手の動きに合わせてシャッターを切り続け、カメラを振り回す。それが私の出雲駅伝観戦だった。
今年は、自分の周りに誰もいない。
スマホはワンセグ不対応、youtubeのライブ配信でも走者の位置は解らない。ましてやラジオは、戦況を聞くには良いが、走行位置は全く解らない。
公式HPの選手通過時刻表だけが頼り。
目の前を選手たちが過ぎていく。戦況を追っていないので、通過順を見るたびに驚く。応援しているチームの位置とレース前評判との乖離に少なからず衝撃を覚える。
顔を上げて前を見据える選手、競り合う選手たちには「よっしゃ~!」
うつむきがちに一人で走る選手には、「もうちょっとしたら、君の大学の幟が立っているよ」と心の中で叫ぶ。
だが、カメラで収めようとしているのは「出雲らしさ」
葛藤しながら、構図を決める。
前回大会までは高揚した気持ちでシャッターを切り続けてきたが、今回は何というか「淡々とした」気持ちでシャッターを切った。
ある1枚を拡大してみると、選手の額部分に、アキアカネが写っていた。
無観客を察してくれたのだろうか。嬉しくてたまらなかった。
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コース沿いのビルベランダから、選手を見下ろせる場所。
ビル所有者が出雲駅伝を応援されていると聞き、事前にお伺いを立てていた。趣旨に賛同してくださり、場所の提供だけでなく、お心遣いをいただいた。
放送車のエンジン音が聞こえる。次々に選手が駆け抜ける。
チーム関係者だろうか、選手に檄を飛ばしている。
途端に力強い足取りになる。
競り合う2人のランナー。バイクカメラがぴったりとついている。
僅かずつだが差が開いていく。
30mくらい開いたその時。2人の間をバイクが横切った。
先行する選手の横にピッタリと並ぶために。
一瞬何が起こったのか、解らなかった。
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大会翌日。
サポートした大会関係者の元に出向き、最後の片づけを終えた。
少しだけ話をする時間があり、目の前で起こったバイクカメラの動きについて、モヤモヤした想いを伝えた。
「選手の直前を横切るって、どうなんでしょう? かなりの急ハンドルでしたが、転倒したら後続の選手は避けようがないくらいの距離でした。テレビ的には、必要な絵面かもしれません。選手の心情もですが、安全を考えたら、後続の選手の後ろから追い越すべきではなかったかと。」
「そうなんです。バイクに付かれると、とても走りにくいです。これは体験してみないと解らないと思います。ただバイクに付かれても、自分のなすべきことをなせるのが強いランナーです。注目されることの意味を知る機会でもあります。」
選手がいてこそのテレビ中継のはずなのに、「視聴者のために」という錦の御旗が掲げられたのは、釈然としない。
だが、「未来のために」との大義名分を掲げて写真を撮った自分である。
「どの口が言う」というお叱りは甘んじて受けなければいけないのは承知している。
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2021.10.24
大会から2週間がたった。
沿道で完全予約制カフェを営む夫妻と、出雲大社勢溜で交通整理員をした家族と撮った写真の何枚かを見ながら、今大会を振り返った。
カフェご夫妻は、某チームのファン。出雲の地を愛し、出雲産の食材でお客様をもてなす。大会当日は、交通規制でカフェ出入りが1時間半はできないことを承知の上、来ていただいたとのこと。
交通整理員をした家族は、取材規制の在り方について、なかなかに厳しい考えを話してくれた。
「この写真、公開してもいいんじゃない?」
三人がそう言ってくれた。
でも、まだモヤモヤしている自分がいる。
今なんだろうか、もっと先なんだろうか?
それとも永遠にその日は来ないのか?
もう少しの間、モヤモヤしてみよう。
★2021.11.21追記
公開し始めました。
第1回 緑に溶け込む
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